小説 パレード 下
- 2007/02/02(金) 22:01
パレード 下
倉庫の前に戻ると、まだ車は来ていなかった。心臓がばくばくとなるようだった。もう一度木刀を握りなおしていると、道の過度を曲がってライト・バンが現れた。倉庫の前に止まっている俺に気がついたらしい。
俺がすることは、ここでユウイが逃げる時間を稼いで、警察が来るまで耐えることだけだ。
男が、ひょろ長いほうが車から出てきて言った。
「坊主、何してんだ?もう家にけえんな」
「……友達の犬誘拐したの、アンタたちですよね?」
俺は最後の慈悲を出して、言った。ここで「そうだ」と言って犬さえ返してくれればそれでいいのだ。警察はなんとでもなる。
「…おい、小僧…」
俺は返事を待たずに持っていた木刀で殴りかかった。ひゃっ、と声を上げて長いのが逃げる。
「何してる!やっちまえ!」
車の中から野次が飛んだ。長いのは懐に手を突っ込んで何かを取り出そうとしていた。刃物とかだったら、木刀でも危ない。俺は距離をとろうとしたが、長いのはその手を引き抜くとズボンのポケットに差し込んだりして、それからぱんぱん、叩いて探っていた。どう見ても焦っている。
「何してる、車の中においてったじゃねぇか!」
そう言ってもう一人が車の中から、何か…黒い塊を投げた。長いのは手を伸ばしてとろうとしたが、それは指先に当たっただけで、地面に落ちた。
からん、と音を立てて転がったのは―――スタンガン―――長いのは身をかがめてそれに手を伸ばした。俺はダッシュで走りよって、木刀を振りかぶった。
ゴキンッ!
と嫌な音がした。木刀は奴の顔にぶち当たり、長いのは「ぎゃぁおぅ!!!?」と悲鳴を上げていた。俺はすぐにスタンガンを拾うと長いのに押し当てた。バチチッと音がして動かなくなった、なんて便利なんだろう。
俺はそれを左手、木刀を右手に持ったまま、車を見据えていた。固太りした男が降りてくる。明らかに長いのとは違う、これは下手すると…
俺が躊躇するまでも無く、デブ(固太り)は走りよってきた、すぐさま木刀を叩きつけるが、顔をしかめただけで、堪えた様子は無かった。左手を捻り上げられて、スタンガンが地面に落ちる。
「クソガキが、なめるな!」
どこかで聞いたような台詞を吐いたデブ。デブは俺の腹を蹴った。空気が肺の底から押し出されて苦しい。
木刀一本にするか、スタンガンだけにするべきだった。じゃないと握りが甘くて威力が落ちるのだ。もう一度腹を蹴られて膝が折れる。地面に突っ伏してデブを睨みあげる。もう一度蹴りが入った。
「う゛ぇっ!ゲホッ!?」
胃の中のものがせり上がる感覚。吐きそうだ、目の前が霞む、遠くで、犬の鳴き声が聞こえた…犬?
ユウイ!ユウイだ。間違いない。犬をあらかた助け出して逃げる途中なのだろう。それでいい。俺はコイツを食い止めればいい。
「おい、ガキ!仲間がいるのか?」
「知らないね」
デブが走り出そうとするのを、足に掴みかかって止めた。今行かせてはいけないのだ。「くそっ、離せ!!」デブが叫びながら俺の腹を蹴る、口の端からすっぱい液体が漏れた。頭がぼんやりしている。
「ゲンちゃーーん!」
ユウイのバカヤロウ、何で叫んだりするんだ。逃げろって言ったのに。当たり前のことだが、ユウイの声はデブの耳にも届いたらしい。デブは体に似合わない動きで身をひるがえした。
「デブ!!!」
気がつけば叫んでいた。デブはぴたっとその足を止めて、こちらを見ている。完全にブチキレた顔だった。
「小僧、今なんつった…?」
「うるせぇ…デブ!」
デブの足が俺の顔を連続ヒットした。もう、駄目だ。くらくらとして頭の中真っ白になりそうだ。俺は、最後に、持てる力を振り絞って、言った。
「デブ…」
「このっ…クソガキがっ!!」
ああ、終わった。でもいいんだ。これだけ時間があれば、ユウイだって逃げただろう。俺は安心して眼を閉じて、蹴られることにした。
バウ!
そう、奴の足が俺の顔に当たって…バウ?
目を開けて見ると、大きくて真っ黒のハウンドドッグがデブの腕に噛み付いている。グルルルルとのどを鳴らして、かなりの迫力だった。ユウイの飼い犬、「ぽち」だ。眼の瞳孔が大きく、どこから見ても黒一色の「ぽち」がデブに噛み付いているのだ。
「ぎゃぁあっ!やめっ、ぎゃっ!!!あああっ!!」
デブが尻餅をついて喚いている。ぽちは噛み付いたまま離そうとせず、むしろ動けば動くほど食い込んでいるようにすら見える。
「ゲンちゃん!」
ユウイが後ろからやってきて、俺の肩に手を添えた。そしてもう片方の手に持ったそれをそっと差し出した。
「これ…」
俺はそれを受け取るとデブの後ろに回りこみ、ぽちにあたらないように気をつけてデブの首に押し付けた。ユウイの「伏せ!」の声にぽちがぱっと離れた瞬間、俺は渡されたスタンガンのボタンを押し込んだ……………
…………………
……………
………
……
…
あの後すぐに警察がやってきた。俺は相当やられていたし、犬だってたくさんいた。もう夜中って言うよりは朝方っていうほうが正しいくらいの時間だった。
結局俺らは後日話を聞かれることになって、名前と電話番号と住所だけ聞き出された。俺は嘘ついて逃げてやろうかと思ったけれども、それよりも早くユウイが全部喋りやがった。普段はトロいくせに、こういうときは素早い。
まあ、なんにせよ、俺よりも奴ら二人組みの方が悪いことは明白だった。
そして今、俺とユウイと犬達はぞろぞろと道の真ん中を占領して歩いている。
「なあ、ユウイ」
「うん?何、ゲンちゃん」
「もう、あんな危ない真似はやめてくれよ」
俺がそういうと、ユウイはうん、と笑顔で頷いた。ユウイの横を歩いている「ぽち」(いまさらだが、この犬につけるとは思えない名前だ)がこちらを見て、「ばう」と吼えた。
ぽちだけでなく色々な種類の様々な大きさの犬が、俺らの前やら横やら後ろやらを歩いていた。
どの犬も勝手に走って行ったりはしなかった。ユウイと並ぶととてもでかいぽちも、俺らのペースに合わせて歩いていた。ぽちは鼻先をユウイの胸に押し付けて、安堵したように眼を細めた。普通の状態で腰よりも上に頭が来るぽちじゃないとできない芸当だ。
歩いているうちに住宅街に入り、犬がそれぞれの家の門に向かっていく。ところどころでは、家の人間がそれに気づきドアを開けて迎え入れているのも目に入った。どの犬も皆帰るべき場所を持っている。鎖の先に帰ってゆく。
振り向くとまだ夜の帳が開けきっておらず、星が瞬いていた。でも前方は日の光が薄く差し込み始めている。夜と朝の中間で俺とユウイと犬達は、並んで歩いていた。
朝焼けのパレード
きっと、犬小屋に帰ることを犬達は待ちわびているのだ。そして飼い主のところに戻って、暖かい日常に戻る。空っぽの犬小屋じゃなくなるのだ。ユウイはぽちの頭をなでながら幸せそうに笑った。
見ているだけでいい気分になれそうな笑顔だった。ユウイはこっちを向くと、手を差し出して、言った。
「ねえ、ゲンちゃん。手ぇ繋ごう。」
「うん…」
赤くなったのを悟られないようにして、俺はその手をとった。朝焼けのパレードの犬達がそれをずっと見ていた。
fin.
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小説 パレード上
- 2007/02/02(金) 22:00
パレード 上
植込みの中から、じっとその倉庫の様子を見ていた。全身黒く塗って、携帯電話と木刀を持って、隠れているのだ。一週間掛けてここまできたのだ。
でもまさか、ここまでさせられるとはこの俺も思っていなかった。
………
……
「なあ、ユウイ。もう泣くのやめろよ。」
しかしユウイの耳にはそんな言葉は聞こえないようだった。彼女は目の前にぽつんとたった犬小屋の前で、肩を震わせて立ち尽くしていた。もう何もいない犬小屋、もう何も繋がっていない首輪、大きく「ぽち」と赤いペンキで書かれた犬小屋は空っぽでさびしかった。
「なあ、ユウイ」
俺がどれだけ声をかけても彼女はぜんぜん反応しなかった。ときたま嗚咽を漏らすだけだった。俺は、そのとき言ってしまったんだ。彼女の肩を掴んで強引に振り向かせて、
「もう泣くのやめろ!この俺がどうにかしてやるから!!」
言ってしまってから、しまった、と思った。いつものことなのだ。この疫病神で運が悪く、ドジっ子属性ありの幼馴染、京卷賀ユウイのいつもの手口だ。そしていつものように彼女はにぱっと笑うと「うんっ」と元気よく返事をしたのだ。
事の起こりは一ヶ月前から始まった犬誘拐事件。近所の犬が消えるという怪事が発生し、そしてやっぱりというか、なんというか、ユウイの家の犬、「ぽち」も誘拐されてしまったのだ。一応警察にも連絡してあったのだが、それは相手にされなかった。だからこそユウイはこの俺に頼ったのだ。ユウイはいざという時に限って俺を頼り、俺はそれに振り回される。いい加減うんざりだが、縁を切るなんていうわけにもいかない。家が隣同士だとそんなふうにはいかない。
何よりも、まぶたの裏に張り付いてとれないのだ。ユウイが空っぽの犬小屋の前で泣いている姿が、首輪を抱えて哀しそうに震える肩が。そして何より「ぽち」をつれて散歩するときの彼女の顔が。
だからって、これはない。俺は携帯電話と、木刀を持たされ、犬の誘拐犯を探し出す役まで任命されてしまったのだ。そしてそれ以来夜になると、木刀を持って事件現場の近くの家の植込みに(無断で)忍び込み、入念に犬誘拐犯を調べていた。いつも二人組みで現れ、連絡を取る様子が無いところを見ると、二人でこの犯罪行為をしているのだと知れた。
そこからは速かった。奴らが一体何で移動しているのかも簡単に知れた。運送業者を装ったライト・バンだった。
彼らの隠れ家、というか犬の誘拐先はそこから芋蔓式に判明し、そして俺はその隠れ家の植込み(またか)に隠れているのだ。
そして見張りを始めて三十分、二人組みの男が倉庫の入り口から出てきた。随分と防音設備がしっかりしているのか、犬の鳴き声は扉が開いたほんの一瞬しか聞こえなかった。男の一人は固太りで、背は小さいものの、随分とがっしりした体つきをしていた。もう一人はひょろ長く、縮れた髪の毛をニット棒に押し込んでいた。なにやらある映画の悪役を想像させる二人だ。
二人組みがライト・バンに乗り込むのを確認して俺は携帯電話をつかって、友達のヨウジに連絡を取った。彼も犬を盗まれた仲間で、この倉庫への道の途中で待機してもらっているのだ。いつ何があるかわからない。ヨウジはそこでライト・バンの行き来の見張りをしてもらっているのだ。そうすればライト・バンが帰ってきたときにはすぐ連絡をもらって、隠れることができる。
ヨウジが「OK」と返事を返してきた。マナーモードにして俺は行動を開始した。木刀と一緒に持たされた大きなチェーンカッターも引きずって、俺は裏手に回った。この倉庫には裏口があり、そちらの扉は表口と違って鎖をとってに巻きつけて、南京錠で鍵がしてあるだけなのだ。表にはちゃんとした鍵がしつらえてあり、とてもあけることはできない。もちろん、中からなら別だが。
俺は裏手に回ると、チェーンにカッターの刃をあてがった。これを切って、中にちゃんと犬がいることを確認する。それから犬を開放し、裏口からでて、裏の通りにあるユウイのおばあちゃん家を経由して犬を連れて帰る。これが作戦の全容だった。動いてくれない警察や、大人は当てにならないのだ。
そう、あとは犬を開放して、連れて行くだけ……犬を連れて行く方法…はっ!!!
しまった!いっぱいいる犬をどうやって連れて帰ればいいんだ?マヌケにも程が無いか?こんなに思い切ったことをするのに、重要なことが抜けているじゃないか、どうすればいい?
困った…そう思っていると、ぽん、と肩を叩かれた。
「ぎゃっ!!!?」
驚いて振り返ると、そこにはユウイがいた。にっこりと笑いかけるユウイにこれほどまで殺意を覚えたことは無いだろう。
「ユウイ!おまえ、裏手の見張りはどうしたんだよ!?」
「しーーっ!」
ユウイは軽くおれの唇に指を当て、静かに、とジェスチャーした。
「おばあちゃんに頼んできた。」
「……もう、いい。」
俺は怒り顔で言った。ユウイは何がいけなかったのか、と不思議がっているが、そんなことはわかりきっている。こんな危ないことをユウイにさせたくないのだ。ドジの癖に…
ばちん
俺はカッターで扉のチェーンを切ると、カッターをユウイに渡した。「ついて来い」と合図して、俺達は倉庫の中に入り込んだ。裏口の方には開いた鉄製のケージはあるものの、犬の入ったものは無かった。
それよりも凄い匂いだった。犬特有のにおいが鼻について仕方ない。酷い匂いだった。この様子だと犬はろくな世話はされていないだろう。携帯を取り出して、ヨウジにもう一度連絡を取ろうとした瞬間のことだった。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ!ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
携帯が震えた。急いで通話ボタンを押し込んだ。
「おい!どうした!?」
「逃げろ!奴ら引き返してきたぞ!!」
そんなまさか。いつも、というかここ二日そんな行動は無かったのに。ヨウジは切羽詰った声だった。ヨウジのいる場所から、ここまでたったの五分なのだ。そう、車でたった五分の距離だ。
「ユウイ、聞こえただろ、逃げるぞ!」
しかし、ユウイは首を立てには振らなかった。俺から距離をとるようにして、離れた。
「おい、ユウイ?」
「…いや、駄目!そんなの駄目!!今回を逃したら、きっと次は無いよ?」
そうだ。わかりきっていることだ。裏口の鎖は切ってある。どう見ても誰か忍び込んだとわかるだろう。犬の誘拐とはいえれっきとした犯罪者が相手なのだ。奴らはきっとすぐにここから逃げてゆくだろう。
そんなことは想像に難くない。そうなったら今度は犬を助けることなんか、できやしないんだ。それはユウイだってよくわかってるのだろう。いや、誰よりもわかっているからこそ、嫌なのだ。
「駄目だ!逃げるんだ、犬のこと気にしてる場合じゃないんだからな!」
そう、犬よりもユウイのほうがよっぽど大事なのだ。こんなところでユウイに何かあったら、俺はどうすればいいんだ。時計を確認するともう一分近くたっていた。
「駄目よ、置いていけないもの…ゲンちゃん、ゴメンっ!!」
ユウイはいきなり俺を突き飛ばすと倉庫の奥へと走り去っていった。すぐに体を起こしたものの、彼女の小柄な体はもううず高く積まれた鉄製のゲージの間に消えてしまった。
「ユウイーーーーッ!!戻って来い!!!!」
でも彼女はもう声も上げなかった。奥のほうで、バウバウと、犬の鳴く声が聞こえた。畜生、もう俺の声なんか聞こえないんだろうな…俺は歯噛みしながらヨウジに向かって連絡をとった。
「ヨウジ!警察呼べ!!」
「おい!?何があったんだよ?逃げてないのか!?」
ヨウジは警察、という言葉に機敏に反応した。ユウイが…と言いかけたがそんなことをしている場合でもなかったので「頼んだぞ!」と俺は一言言って電話を切った。
「ユウイーーー!裏口から逃げろよ!!!」
最後に倉庫の奥に向かって、いや表側に向かってそう叫ぶと、俺は走り出した。ユウイのためなのだ。途中で木刀を拾った。コレを使う羽目になるとは…と哀しくなった一方、ないよりましか、とも考えた。
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小説 ラジオジャミング・エンジェル 下
- 2007/01/14(日) 10:20
ベキン
と音がした。
俺の拳は彼女をすり抜けて後ろの窓枠にヒットしていた。
「ぎゅああぅっ!!?」
『残念賞〜〜あははははは〜〜』
このアマ…!!いやそうじゃなくて、す、すけた…
痛くなった拳をなだめながら彼女に向かって手を伸ばす俺、
「ほりゃっ!」
手を横に無いで彼女にさわろうとするが、まったくといっていいほど、というかまったくあたらない。
『ほりゃっ!』
電波が俺の声真似をしてパンチを繰り出した。俺はちゃんと俺に当たった。
『わかった?私は貴方に触れるけど、貴方は私に触れないの。どう?』
「わひゃっは(わかった)…」
鼻を押さえながら、呻く俺。
もうどうとでもなれ…痛い…痛いってことは夢じゃあないのである。これが現実だというのだろうか。
『貴方からはさわれないから***(未成年はしちゃあダメだ!)はできないでしょ?』
「うん。じゃあ、たとえば、何は良くて、何は良いんだよ?」
電波は腕を組んで『うーん…』と唸る。
『そうねぇ、ルールとしては、人に迷惑をかけない。金銭価値のあるものを増やさない。質量保存の法則に従う。願う人にたいして受動的なもの。病気は治せない。不老不死にはなれない。人は生き返らせられない。願う人の現在の能力を超えられない。人の不幸や幸福は減らせない。くらいかな、多分。』
「随分多いな…」
本当に天使か、いや、そんなことはどうでもいいのである。とりあえず、帰って欲しい。俺はそう考える。ラジオを横目で見やると、彼女の小声でうなるような『うーん、うーん』という声が聞こえている。
よし、とりあえず、彼女のいう「天使」とか何とかが全部本当だったとしよう。全部信じた上で、こういうのはどうだろうか。
「あのー…やっぱり帰ってください。あんたがいると、ラジオが聞けなくて、困ってるんです。」
『なるほどなるほど。良し、うん、分かった。』
俺は手を組んでありがとう、とつぶやいた。これでラジオが聞ける…そう思った、次の瞬間!!
『ムダァーーーーっ!!』
「ひぶぅっ!!!???」
三発目のパンチが、俺の顔にめり込んだ。地面にひれ伏しながら、俺は電波のほうを恐る恐る見てみると ゴゴゴゴゴゴゴゴ…という音がしそうな雰囲気でこちらをみている。おお、鬼だ、鬼がおるぞ。
『そんなことしたら、私が仕事してないって、怒られるでしょ!?まったく、人の迷惑を考えないのね、貴方って。貴方なんて呼び方、もったいないわ。屑で十分よ、屑で。人のことを考えられないやつは屑がぴったりよね。』
「………ひでぇ…………」
なんて傍若無人ぶりだろうか。
嘆息してしまう自分が悲しい。というか、何故俺がこんな目に、こんな目に。畜生。楽しくラジオ聞いて、抽選で一喜一憂するはずだったのに、何故?俺は殴られてばっかりだし、いい目になんか、一つもあわないし。
くそう、うらんでやる。天使なんて大嫌いだ…キリスト教なんて、今日、今から大嫌いになってやる。クリスマスには悪魔経典を詠んで、十字架には「仏陀」って落書きしてやるぅ…
「あの、頼むから、出てってくれませんか…?」
『いや。だって、仕事まだしてないし。もう、貴方みたいなダメ人間なんか相手にしなきゃいけない私の気持ち、わかる?』
「いや、あの・・・」
『もうー!早くしてよぉ!!』
なんでなんで、なんで俺がこんな電波な天使に怒られなきゃいけないんだ!!
誰か!教えてくれ!!
俺は考えた。相手ももういらだっているようだし。あ…そうだ。簡単なことだ。ラジオを聴かなくてもいいんだ。何故直ぐ思いつかなかったんだろう。
「そうだっ!ラジオの抽選、俺に当ててよ!!それなら、誰にも迷惑かかんないだろうし。なっ?」
彼女は指を額に当てて考えるような格好をしてから、俺を踏みつけた。
「いたっいたたたたたたっ!?なにっ!?なぜ!!?」
グリグリを足で俺の背中を踏みつけて
『お前に当てたら他の人にあたんなくなるだろうがぁ〜〜〜……』
まだ引いてもいない筈の抽選をあてることすら、ダメのなのかよ!!
どうすればいいんだ。どうすれば。
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
『うりうりうりうりうりうりうりうり』
俺の背中を電波(な天使)が踏みつけ続けている。こちらから触れなくて、あっちは好き勝手できるというのは、いささか考え物ではないだろうか。っていうか、こうやって人間に危害を与えるというのはどうなのだろうか。そしてこの悪行の数々…悪魔って言うほうが近いのではないだろうか。
いや、そんな場合じゃない。俺は考える。今、脳みその全ニューロンを総動員して、糖分をいつもの十倍は使っているだろう。答えは…………出たっ!!
「じゃあじゃあ、おっぱい見せて?」
これなら…これなら誰にも迷惑かからないし、お金も要らないし、とにかく、いいことずくめだ。そのはずだっ!!男だったら、誰だって見たいはずだし!!!なあ、そうだろう諸君!!
ふっと、背中から足の裏の感覚が消える。痛む背中を気遣いながら体を起こすと、顔を赤くした彼女が、
『ええ…?あぅ……』
ドキドキと胸が高鳴る。こんな可愛い(性格とかは悪魔だけど)天使に恥じらいながら胸なんか見せてもらったら、もう最高じゃねぇ?そうだろ諸(以下同文)
「さあっ!さあぁっ!!」
俺の声もいくらか上ずっている、ふははははは!見ろ、胸がもう目の前だ!!
『ダメっ!ダメダメダメッ、良俗公序に反します!!』
そう言って彼女は腕を振り上げる。ぶんぶんと振り回した腕が俺に当たるのだ。イタッイタイ!痛いわ!!!
俺が時計を見上げる。あと、一分か二分で三時というところだろうか。どうすればいいのだ。どうしたら彼女の気がすむのだろうか。
それに痛い…顔が痛い。殴られた性で唇を切ったのだろう。汗を書いているせいで汗が傷口に染みるのだろう。
彼女が着てから窓開きっぱなしだしな…涼しければ……
俺は、口を開いていった。
「あの…暑いから、涼しくしてください。」
ぽかぽかと俺を叩いていた腕が止まった。
『え?そんなんでいいの?』
「頼むから、頼むからぁぁあ……」
俺がそう頼むと彼女はぐっと、ガッツポーズを作って言った。
『はいはい。ぴぴぴのぴっと』
彼女はどこからか取り出したリモコン(もう驚かないよ)を操作した。部屋の反対側の屋根近くにあるクーラーがぐおおおお、と音を強める。
彼女はひょいっと窓に腰掛ける。
『ではではっ!今回は天界天使運命向上会のご利用どうもでしたー。またのご利用をお願いしますー』
そういうと、窓のそとへぴょん、と身を乗り出した。急いで近づくと彼女は二枚の背中の羽をフワフワ揺らして遠ざかっていく。
『ザザザーーーッまた…ね…ザザーーッエロボーイ…ザザザーーー』
彼女の姿は闇夜に解けるようにして視界から消えた。
「おおお………」
ラジオのジャミングが戻ってきて、それも薄れてゆく。時計を見ると、三時まであと三十秒というところだろう。
『ザザーーー…今週のラッキーボゥイはぁっ!!!!タララララララララララ』
いつもの聞き覚えのある声が戻ってきた、MCクロシエだった。ひどく懐かしく感じる。窓を閉めるのと、完全にジャミング音が消えるのは同時だった。
『東京都在住の…』
来たきたきたきたきたああああああっ!!
俺東京人ーーーーーーーーーッ!!
胸が高鳴る。ううおおおおっ叫びだしたい気分だぜっ!!!ひゃっほーーい(叫んでる)
『ペンネーム…ぶちッ…速報です…先ほど東海地方沿岸で震度四の地震が観測されました…この地震による津波の心配は無い模様です…』
このあと、同じ速報が続けて放送された。
もちろん、それが終わる頃にはラジオ番組は終わっていた。
外を見ると、星空が綺麗だった。傷口が痛いなぁ…そう思って顔を拭くと、もう部屋の中は涼しくなっていたのに、顔面が濡れていた。
涙だった。
ラジオジャミング・エンジェル Fin
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小説 ラジオジャミング・エンジェル 上
- 2007/01/14(日) 10:15
『ザーーーーーーーッ』
ラジオから砂を掻き荒らしたような音がしている。ザリザリ、ザリザリ。
「あの、頼むから、出てってくれませんか…?」
『いや。だって、仕事まだしてないし。もう、貴方みたいなダメ人間なんか相手にしなきゃいけない私の気持ち、わかる?』
「いや、あの・・・」
『もうー!早くしてよぉ!!』
なんでなんで、なんで俺がこんな電波な天使に怒られなきゃいけないんだ!!
誰か!教えてくれ!!
何故、彼は怒られているのか?
何が起こったのか? 話は十分前に遡るのだ。
では、ご覧あれ。
ラジオジャミング・エンジェル
現在、夏の真夜中午前二時四十四分。気温は二十九度、蒸し暑い真夏の夜だ。
俺は椅子から立つと机の上においてあるラジカセを弄った。アンテナを伸ばして、チャンネルをあわせる。
今から始まるラジオ番組、ファニーメーションだけがこの俺の唯一の楽しみであり、生きがいだ。
チャンネルを合わせると、ファニーメーション前のコマーシャルじゃあなくて、ザリザリー、というかザザーーーッという感じのジャミング音が聞こえた。
「あれ・・・?」
俺は首をかしげながら、チャンネルノブを弄る(未だにデジタルじゃない!)
ラジオの音が激しくなり、一瞬、ちゃんとした音声が流れる。
『ザザーーーッザッけてーザザーーッ』
「ああん?」
いつもとは違う声だったように感じる。いつもはもっと快活なおしゃべりから始まるのだ。MCはクロシエとかいう変なヤツで、いささか横暴なのに。
おいおい、勘弁してくれよ。俺は思った、今日は聞き逃せない理由があるのだ。このラジオ番組は毎週、葉書によるプレゼント抽選があるのだが、今週は俺の大好きな歌手のサイン入りCDがプレゼントだったのだ。
俺はそれが欲しいあまりに葉書を百枚かいて抽選に応募した。抽選は一週に一枚、つまり一人だから、確率は低い、それでも…それでもォ・・・!!
逃せない!!
なのに、なのに、何故にジャミング音!?
未だにラジオはザリザリ言ってる。
『ザザザーーー開けてーザザッーーザーーーいザザーー』
俺が机の上のラジオに願をかける様になだめすかしていると、コンコン、と音がした。言い忘れたが、ここは安アパートの二階で、机の横には俺の腰ほどの高さの窓がある。
「うるさいなぁ…ってうぇ?」
俺がびっくりしながら横をみると、真っ白な服と、羽(?)をつけた女の子が窓の外に佇んでいる。
「うおぁっ!?」
びっくりしてあとずさる。なんだなんだ?もう春は終わったぞ。ここは二階だぞ?
がらがらー
と彼女は窓を開けてよっと、という感じで彼女は窓を登って部屋に入り込んだ。その動きはまるで、天使(の格好)にはそぐわない。
『……………』
彼女はぱんぱんと裾を払うと、窓枠に腰掛けた。俺はあまりの驚きに言葉を失っている。
「あのー、誰ですか?」
『ザザッーーあーあー、晴天なり、晴天なりー。私は天使だー。ザザーー』
彼女は確かめるようにのどを押さえている。あれ、ラジオ…、音、ジャミングじゃなくね?
『よし、こんにちわ!私、天使です!!願い事を叶えに来ました!!』
飛び切りに明るい声が、部屋に響く。なるほど、理解した。うんうん、よくあるよくある。
「うんうん、酔ってるんだよね。いいんだよ。俺はそんなことで怒る人間じゃないし。ほら、さよなら、もうかえんな。」
俺はいたって冷静に物事を考える人間なのだ。とりあえず神様だとか天使だとか言う人間は信用にならないのであって、天使なんて存在しないし、何よりいきなり二階の窓(外はむき出しのコンクリート壁だ)をよじ登る人間は、まったくもってマトモじゃないのである。
『あう、違いますよ、私は天使です天使!!ホラホラ羽だってあるし。』
そうかい、そうかい。天使かい。はいはい、頭、沸いちゃったんだよね。いいんだよ。お酒のせいかもしれないし、もしかしたら夏の陽気のせいかもしれない。それに、俺は今忙しいんだよ。ラジオとかラジオとかラジオとかでさ。
彼女を観察すると靴を履いていなかった。それどころか、薄手の真っ白のワンピースだけを羽織っただけみたいで薄着だし、結構可愛い。
しかし、それとこれとは別なのだ。もし俺が真性の変態でサド嗜好で可愛い女の子を見れば直ぐに反応して押し倒して、***や###、それどころか@#*&@#**(言語化不可能)なんてことをしたがるような人間で無い限り、こんな真夜中に二階の窓から現れる人間を襲ったりしないのである。
「よしよし、さ、お家はどこかな?」
俺が聞くと、彼女はすっと真後ろの夜空を指差した。都会とは思えないほどの星空が広がっている。彼女の指は真っ直ぐ空を指差していた。
「うーん…」
頭が痛くなりそうだ。どうしたらいいんだろう?電波だよ、コイツ。いっちゃってるもん、もう。彼女は下から覗き込むようにして俺のことを観察した。可愛い顔が上目遣いにこっちをみている。
『あのー…願い事は無いんですか?願い事かなえにきたんですけど…』
彼女はそういうと姿勢を正した。なるほど、会話不可能か。RPGのイベントみたいだな。聞きたいことは喋ってくれなくて、言うこと聞かないみたいな。
だけど、いうことがあるとすれば、ただ一つなのだ。
「帰ってくれないかな?」
ラジオ聞きたいし、抽選聞かなきゃならないし。電波相手にするのは、大変なのだ。それにラジオもなんか音が出ないし。
片手でラジオをいじりながら、考える。どうしようか、帰ってくれるのだろうか?ラジオは以前だんまりのまんまだ。俺が音量をあげると、
『ああーーっダメですよッ!!動かしちゃッ!!!』
鼓膜を劈くような怒声、うおおーーーっ、これ絶対ラジオから出てるよ!!この声!!
慌ててノズルを戻すと、音も同じようにしぼんだ。
『チャンネル変えちゃダメですよ!!お話しできなくなるでしょッ!!』
ぷりぷりと怒っている、何がどうなって何が起こっているっていうんだ。電波な子の声が電波に乗ってやってくる…俺か、壊れちゃってるのは、沸いちゃったのは、俺なのか・・・?
「もう、帰ってください。お願いします…」
ラジオのこともあるし。そう付け足すと、電波(もう、呼び名はコレでいい)はむっとした顔になった。
『願い事叶えに来たって言ってるでしょ!これが終わるまでかえれないのよっ』
ああ、テンションが高い、無駄に…高い………勘弁してください。俺は部屋の掛け時計を眺めた。時間は、二時五十三分。ファニーメーションは三時までなんだよ、抽選発表は番組の最後だから、それまでにこの電波をどうにかしなければ…
もういい。とにかくなんとかこの子に言うこと聞いてもらって、帰ってもらおう。
「じゃあ…」
『あっ、言う気になった?』
尋問に近い気分を味わいながら、俺は言う。
「俺と***(エッチなことです!)してください。」
『うん。じゃ、ちょっと背筋伸ばして?』
おおっ、やった!だめもとで言ったのに、さしてくれるなんて嬉しいなぁ…電波だっていいところがあるんだな。可愛いし。
俺がそう思った瞬間だった。
『シャッ!!!!!!』
「ぎゃッ!!!???」
右ストレートだった。彼女の細腕から繰り出されたパンチは強烈だった。俺の体は半回転して地面に屈した。
あまりに強烈だったので、殴られた左頬と、地面に落ちた右頬、どっちも痛くなった。立ち上がりながら口を開いて―――
「な、なにす―――!?」
『うらあっ!!』
「ぴぎゃぁーーーッ!!!!!」
二発目のアッパーがあごに食い込む。体が浮き上がる浮遊感、無重力体験を経て地面に転がる俺。
『屑人間!!ぺっ!』
彼女のかわいらしい声がラジオから排出される。俺の中の何か、いや堪忍袋という名の尾が、切れた。プツンっと音を立てて、切れた。
「何するだあーーーッ!!許さんっ!」
俺は拳を握ると明日のジョーのように全身全霊のパンチを放つ。女だろうと電波だろうと、たとえ天使であろうと、関係あるかぁあーーーっ!俺はフェミニストなんじゃ!!食らえっ
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小説 あした天気になあれ 7
- 2006/12/24(日) 20:26
しゃりしゃりしゃりしゃり…
…リズム良く、りんごの姿が消えていく。窓から緩やかに日の光が差し込んでくる。
「僕のりんご…」
「黙れ。」
サカキが僕の横に腰掛けて、見舞い用のりんごを口へ運んでいる。病院の一室で僕はベッドの上に寝かされている。サカキはそんな僕を尻目にサカハラが剥いた不ぞろいのりんごを独り占めしていた。「ああうまい、ああうまい」サカキはそう言い続けている。
あの日常に戻ってきた。そう、僕は生きている。僕はあの能力に助けられたのだ。サカハラを押し戻した際に、僕の体もズレたらしい。それが僕の幻覚でなければだが。
結局、事故で僕は足を折った。左足にギプスを嵌めている。ギプスはすでにサカキによる落書きだらけである。もう松葉杖で歩けるようには回復していた。今日は最終的な検査の日だったのだ。
ぱたぱたと足音がして、何も活けていない花瓶を手にサカハラが戻ってくる。僕は上半身を起こすとサカキからりんごを奪って口に放り込む。サカハラは花瓶を棚に置くとにっこりと微笑んで聞いた。
「りんご、どう?」
「ほひひい(美味しい)」
「良かった。食べてるみたいね。」
食ったのはほとんどサカキだが、気にしない。彼女はサカキから椅子を奪って僕の横に座った。僕はあの事故のなか、たいした怪我も無く足の骨折だけですんだ。はっきり言って奇跡に等しい。
サカハラと僕は顔を寄せ合って微笑みあう。サカキが「やれやれだぜ…」というしぐさをしている。
僕は生きている。サカハラを捕らえる呪縛を打ち破って、今こうして生きている。
僕の能力は、事故以来消えた。何故消えたのかわからないが、僕は思う。サカハラのためだったのだ。サカハラをあの暗い連鎖から解き放つための力だった、と。
サカハラが僕に微笑む。
外はいい天気だ。一月にしては暖かい陽気である。その窓の外を眺めながら、サカハラが呟いた。
「明日も、晴れるかな?」
「そういうときは、こういうんだよ。」
サカハラにそっと囁く。
二人で手を取り合って、窓の外のあの青空に向かって言おう。
見えない未来だけどかまわない。僕らは乗り越えていけるだろうから。
「あした天気になあれ」
fin
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