血祭りにあげる。

  • 2006/12/30(土) 23:37

 年の瀬もいよいよ、という感じである。
家族で食事を取っていると小生の祖先を子孫にあたりわが祖父でチタン骨格をもってる人物が先日
「歳暮れの夜は如何なるか?肉か?魚か?」
と時代かかった言葉回しできいた。要するに「焼肉にするか、魚を塩焼きにするか?」という意味だった。
 
 小生はどちらにせよ、さくさく食えるさっぱりしたものが好きなのだが、肉が食いたかったため
「肉がよかろうよ。」
と返事をした。チタン骨格は深く考え込んだ様子だった。どうしても大晦日それをに魚を食いたいようだった。チタン骨格の癖にガソリンでは動いていないのである。
「好きようにせい。」
小生が言うと、祖父は顔を明るくして
「酒の肴に魚を血祭りにあげようぞ。」
と言い放った。

 血祭り?

………
「チタン、それは『活け造り』では…?」

 ごくり…

と家族が息を呑む、そのときは父の「はっはっは」という笑い声で全てがまるくいったのだが、なにやら祖父はそれを気に入ったようだった。その後も日ごとに「血祭り、血祭り。」といっている。

 祖父に何が起こったのだろうか?
だれが「血祭り」などという物騒な言葉を仕込んだのだろうか?小生にはわからなかった。
 やめる気はないらしい。
「あしたは、魚を血祭りにあげよう。」
などと平気な顔でつぶやく。その目は、本気だ。

 小生は明日の夜が怖い。
あしたは大晦日である。
 魚が血祭りにあがるのは、もう目の前だ。

 あしたの食事がおぞましくならないように祈りたいと思う。
 

カウンター。

  • 2006/12/29(金) 22:27

 ボクシングなどで、相手の攻撃にあわせて相手の力を利用して、倍以上の威力で殴りつけるという技のことではないです。

 最近、アクセスカウンターをつけたのですが、正常に機能しているのでしょうか。と、いうか今までカウンターをつけなかったのは「小生が一人で自分しか見ない日記をつけていたらいやだなぁ…」というまったくもって荒みきった、哀しい思いがあったからです。
よかった…一人きりじゃなくて(いつも見てくれる屋久さん、とEGG氏は別です。どうもありがとう!)

 しかし、今でも不思議です。一体誰が、いや何故このようなサイトに訪れる人間がいるのでしょうか。
何を求めているのでしょうか?理解に苦しみます。
 小生の腐った脳みそから排出されるこの頭のイカれた文章を楽しみにしてくださる方がいるなら、本望です。

 小説を楽しんでくれる人なら、愛してます。

そんなわけですが、ここ最近やけに眠い日が多くて困ります。うつらうつらしてしまい、やらなければならないことが終わらない日もあります。
カウンターをつけた日からでしょうか。やけに眠くて、眠くて、原因を考えるのですが、ぜんぜんわかりません。

 ふと、考えるともしや…小生が寝ている間に、小生の無意識下の人格が起きだして、PCをつけて、カウンターを回しているのでしょうか。
だからか、だからなのか、寝ても寝ても眠いのは。
 
 そうだったのか…

そんな鬱状態に陥りながら、年末を満喫します。

コレちゃんと遊ぼう。

  • 2006/12/29(金) 00:14

 映画を見ました。
機能は「リベリオン」。今日は「ドミノ」。
どちらも面白かったです。種類の違う映画ですが、最高の一時だったので、記しておきます。
 リベリオンは感情のない人間の支配する世界で、それが正しいことなのか、と苦悩する主人公が「よし、じゃあ、いっちょやるか〜」と同じ考えの仲間達と手を組んで、諸悪の根源を撃ち殺すお話です。

 ドミノは実在したバウンティハンターのバウンティハンターになる経緯からやめるまでの実際のストーリーを映画化したもので、ただ「自分らしく生きる」ということを特化した映画です。グレート。

 リベリオンはオリジナルなアクション「ガン=カタ」というのが出てきてアクションだけでお腹いっぱいなのに、お話が楽しいです。近未来SF。

 ドミノはサスペンスあふれる、映像美と音楽。ストーリーも練り上げられた強さがあります。
 

 で、小生は映画を見るときはいつも部屋を真っ暗にして見るのです。
部屋を真っ暗にすると小生の愛猫のコレちゃんはいつも小生のひざで寝ます。可愛いです。もそもそしながらひざに寄り添う姿は素敵です。
 そんなわけで部屋を真っ暗にした小生ですが、ふと紅茶が飲みたくなったので始めの新作映画情報のシーンにお茶を入れようと立ち上がったのです。

 するとそのとき!!

ぐしゃっ「にゃ゜っ!!!?」
という声がしました。小生のひざに上ろうとしたコレちゃんを踏みつけたのです。いやな音でした。
「コレっ!?大丈夫か?」
小生が急いで抱き上げると何事もなかったかのように平気な顔をするコレ(しかし、平気ではないときもよくわからないので、なんとも言いようがないが)がそこにいたので、一安心しました。
 
 お茶をいれてそのままコレをひざに乗せると小生は映画を堪能したのです。
 映画を堪能してから「ブログでも書くか…」と思った小生がひざからコレを抱き上げて床におろすと

 ずるっ ごんっ!

という音がしました。
 すでに明るくした部屋の中でコレちゃんはひざから下ろされた際に寝ぼけ半分だったらしく腰をしたたか打ちつけたのです。

 見てるこっちが「痛い〜〜…」となるような音でした。
しかし、コレちゃんは丈夫です。屁でもないような顔をしてくるりとUターンすると小生のひざに飛び乗りました。
 
 強い。この子は強い。

小生も見習おうじゃないか。その強さを…!!

 よし、まずは猫の得意技からだ。

と、いうことで、寝ます。
猫は一日二十時間寝るし。夜だって朝画って昼だってかまわず寝るし。
大丈夫。たっぷり寝ると強くなる!(多分)

ぼうずのあたまはゆえない。

  • 2006/12/27(水) 21:47

もいきって坊主頭にしました。
 すがすがしいくらいの坊主です。
「こんな坊主見たことあるか…?」
「すげぇ…」
という会話が成り立つくらいの会話です。
 
 ことの始まりは小生が証明写真を欲したことから始まりました。小生は写真というものが嫌いです。写真が嫌いな自分に気がついてからは写真に映るのを可能な限り避けています。
 そんなわけで学生のときの写真が一枚もありません。無理矢理に取られた写真は全て焼き払いました。集合写真は隠れていました。
写真は恐ろしいものです。ある日警察が来て「この男を見なかったか?」と小生の写真を誰かに突きつけて小生をあぶりだそうとするかもしれません。そうなったらおしまいです。警察から小生は逃げるほどの知能を持ち合わせていないでしょうから。
 それに魂を抜かれてしまいます。魂を取られると勿論死んでしまうので注意が必要です。
 そのような理由から最後に写真を撮ったのが、今日を除けば免許を取ったときです。

 しかし、いざ写真が必要になってみるとどこで写真を取ればいいのかまったくわかりません。それ専用の筐体があるはずです。
 
 まず始めに近くのジャスコを探しました。しかし、見つからないので今度はちょっと離れた電気屋さんに向かいました。そこでその筐体を見かけた気がしたからでした。しかし、ついてみるとそこにあったのは写真をとる器械ではなく、自販機でした。
 
 自分の脳みその劣化と機能の低さを感じて悲しみました。あのショックはなかなか味わえないものがあります。

 お次はCDショップでした。
そこで見かけた気がしていたので、そこで撮ろうと思ったのです。そこの筐体はちゃんと写真機でした。小生が二度目の挫折を味わうことは先延ばしにされました。
 そう思ってほっとしながら筐体の中に座り、カーテンを閉めました。小生の住む土地は田舎ですので、筐体は店の外に置かれていました。普通なら店内の人の来にくい場所とかなんですけどね。
 そこでカーテンを閉めると、風が吹き込んでカーテンが捲れて小生の視界に入ってはばかるのです。
「この、この」
と小生がカーテンを押さえつけるのですが、カーテンは暴れ続けます。野生の獣のような溌剌ぶり。小生の手には負えません。なんとかしてカーテンを押し付けるものがあったはずなのですが、どうやあそれは外におかれていたせいもあって壊れて使い物にならない様子でした。
 
 小生はそこで写真を撮るのを諦めて町をさまよい、そしてふと入った店の中でその筐体を見つけました。あの写真を撮る筐体を。
「わーい。」
とばかりに駆け寄って筐体に侵入して、硬貨を五枚、五百円入れたところで、小生は目を見張りました。
 
 「700円」

と書いてあったのです。どういうことでしょうか、小生がCDショップの前で見た筐体は五百円だったのに…しぶしぶ小生は硬貨を二枚追加すると、写真を撮ったのです。
 
 撮りたくもない写真を、町中走り回って、その上でお金を余分に払って撮ったのです。
 
 ちくしょう! 

小生はうなりました。 
 小生は気分転換しようという気分になったので、床屋に行こうと思い至りました。随分伸びただらしのない髪の毛を、切ってしまおうと持ったのです。
 前々から目をつけていた床屋が1500円だったのですが、そこへ行く途中に見た床屋の看板が「10分で仕上がり、1000円均一!」と書いてあったのでそこへいきました。
 お陰で結局300円の儲けです。

わーい。







 

動画。

  • 2006/12/26(火) 23:32

 このまえ発見した。
Bunkatsuが面白かったです。不思議なテイストなものが大好きなので、とりあえず紹介。
 しかし…勝手に紹介していいんでしょうか?大丈夫かな?

あ、それから、こっちはアニメーションだけど、さらに不思議なテイストで笑ってしまったので
 かぶとがにの毒

 うわあ、これでもしかしたら起こられるかもしれない確立が二倍に増えたかもですよ。SHOCK!
 
 頭がおかしくなってきたので寝ます。


コレーオイデー・・・・・・・・

一日遅れの…

  • 2006/12/26(火) 23:17

 一日遅れのクリスマス報告、小生は一人自分の家で電気を消し、カーテンを閉めて頭の中にあるドロドロとした妄想や狂気の類をパソコンに綴った。
 小生の中にはもう孤独や悲しみといった婦の感情しか生まれなかった。小生の孤独はパソコンに収まりきらずにあふれた。それらは小生の部屋をいっぱいにすると部屋の戸を突き破って外へと走り去っていった。
「待ってくれよ。小生を置いていかないでくれ。」
小生が走り去る孤独の背中にそう訴えかけると孤独たちは「こっちへ来いよ!」と手招きをした。その間も部屋の扉からは無限にあふれるかの如くに孤独たちが流れ出ていった。
 小生がそれらの後をつけると、それらは町を歩くカップルや夫婦の間に割り込んでアベックを引き離した。
孤独たちはおたがいに協力しあって彼らを引き離すと満足そうに暴行を働いた。女性は押さえつけられたままだった。
 男達は突然の暴力に目を丸くして、そのまま襲われた。
町に漂うのは狂気だった。
 小生は何を生み出してしまったのだろうか?それはきっと一言ではいえない悪夢だった。町中で叫び声があがった。小生が「やめろ…やめてくれぇえええええ!」と叫んでも孤独にはそれが聞こえないようだった。

 しかし、

押さえつけられていた女性が一瞬の隙を突いて男の下へ駆け寄った。彼女は襲い掛かる孤独を跳ね除けて彼の場所にたどり着くと手を握った。その目には彼を想う力が宿っていた。彼はその手を握り返して孤独たちの手から這い出ると二人で手を握ったまま他のカップルを助けるために行動し始めた。
 すばらしかった。
 
小生はそれらの微々たる手助けをした。
 孤独たちはやってきたときと同じようにあっさりと消し去られてしまった。カップル達はお互いに抱き合った。
 美しい姿だった。
粉雪が舞い降りる町の中、恋人達は手を取り合いお互いの愛を確認しあったのだ。
 その光景の美しさに小生は涙した。まだこの世界だって、捨てたもんじゃない。そう思わせられた。
 小生は「メリー・クリスマス」と心の中でつぶやいた。
昔、心を寄せていた彼女に電話するのもいいかも知れない、そう想った。美しいものがあるという話をしようと思っていた。
 
 家に帰り、電話を取ってかのジョン番号をプッシュした。

「ただいま、この原話番号はつかわれておりません…」

 *そりゃあないよ。ジョニー


*友人のEGG氏のサイトで使われていたネタ。多分いろいろな人が使っているから大丈夫だと想う。大丈夫じゃなったら消します。連絡ください。

イタリアー

  • 2006/12/25(月) 21:49

 イタリアの音楽に載せられて書いています。ジャズなのに…シチリアー、コルシカーって感じです(どんなだ)
情熱の炎です。ぐわわ。

 今日、散髪に行こうか迷いました。銀行によったのですが、近くに床屋があるので切ってしまおうかどうかとても悩んだのです。
 ええ、スキンヘッドは悩みますよ。どうしようかな…本当にしちゃおうかな…って迷ってます。

 しかし、そこで店に乗り込んで「頼もぉーー!」といえないようでは武士ではありません。
 小生は百姓の子ですから、関係ないのですが。
小生は愛バイクに跨りながら考えたわけですよ。
  
 小生は店に入ってから、「あ…オダユウジみたいに…」などと逃げ腰になる人間ではありません。

 店に入れない人間です。
小生なんかがオシャレそうな床屋になんか行っていいんですか?
むしろ小生がもてなさなきゃいけなんじゃないのかな?

 そんなことを考えていると、かの店の営業時間が終わりました。はい。

 挫折です。またきりに行きます。

今度はかっこよくバイクをのりつけて渋く入店して、
「マスター、いつもの。」ってやります。
 がんばります。

小説 あした天気になあれ 7

  • 2006/12/24(日) 20:26


 しゃりしゃりしゃりしゃり…
…リズム良く、りんごの姿が消えていく。窓から緩やかに日の光が差し込んでくる。
「僕のりんご…」
「黙れ。」
 サカキが僕の横に腰掛けて、見舞い用のりんごを口へ運んでいる。病院の一室で僕はベッドの上に寝かされている。サカキはそんな僕を尻目にサカハラが剥いた不ぞろいのりんごを独り占めしていた。「ああうまい、ああうまい」サカキはそう言い続けている。
 あの日常に戻ってきた。そう、僕は生きている。僕はあの能力に助けられたのだ。サカハラを押し戻した際に、僕の体もズレたらしい。それが僕の幻覚でなければだが。
 結局、事故で僕は足を折った。左足にギプスを嵌めている。ギプスはすでにサカキによる落書きだらけである。もう松葉杖で歩けるようには回復していた。今日は最終的な検査の日だったのだ。
 ぱたぱたと足音がして、何も活けていない花瓶を手にサカハラが戻ってくる。僕は上半身を起こすとサカキからりんごを奪って口に放り込む。サカハラは花瓶を棚に置くとにっこりと微笑んで聞いた。
「りんご、どう?」
「ほひひい(美味しい)」
「良かった。食べてるみたいね。」
 食ったのはほとんどサカキだが、気にしない。彼女はサカキから椅子を奪って僕の横に座った。僕はあの事故のなか、たいした怪我も無く足の骨折だけですんだ。はっきり言って奇跡に等しい。
 サカハラと僕は顔を寄せ合って微笑みあう。サカキが「やれやれだぜ…」というしぐさをしている。

 僕は生きている。サカハラを捕らえる呪縛を打ち破って、今こうして生きている。
僕の能力は、事故以来消えた。何故消えたのかわからないが、僕は思う。サカハラのためだったのだ。サカハラをあの暗い連鎖から解き放つための力だった、と。

 サカハラが僕に微笑む。
外はいい天気だ。一月にしては暖かい陽気である。その窓の外を眺めながら、サカハラが呟いた。
「明日も、晴れるかな?」
「そういうときは、こういうんだよ。」
サカハラにそっと囁く。

 二人で手を取り合って、窓の外のあの青空に向かって言おう。
見えない未来だけどかまわない。僕らは乗り越えていけるだろうから。

  「あした天気になあれ」
 
                                        fin





小説 あした天気になあれ 6

  • 2006/12/24(日) 20:18



 僕はあの日、サカハラを彼女の家まで送った。彼女はずっと僕の手を握ったままだった。彼女は俯いていたが、落ち着いてはいるようだった。後でわかったことだが、「マコト」は十歳の少年だった。最終的な死因は喘息の発作だったらしい。車にぶつかられたショックで発作を起こして、亡くなったそうだ。
 サカハラとは、病院で入院中に知り合ったらしかった。それいらい、サカハラが心を許す、数少ない友人だったようである。
 サカハラは今はもう大分元気を取り戻したらしく、ときたま僕と連絡を取り合っている。一月の一日。彼女から僕へと「あけましておめでとう」とだけ書かれた簡素な年賀状が来た。まったくもって、サカハラらしい。

 僕らの距離はずいぶんと縮まった。サカハラはずいぶんと喋るようになった。と言っても僕とだけだが。
「そりゃないぜー」
サカキにそう電話で伝えると、目下恋人居ない暦を順調に伸ばしている彼はがっかりしたように言った。ざまあみろ。
「まあ、よかったな。」
サカキはそう付け足した。僕は素直をに礼を述べる。それから時計を確認すると
「あ、ごめん。サカハラと約束があるんだわ。」
わざとそう言って煽ってから僕は電話を切った。切る直前に「のろわれ」と聞こえた。しかしそんな些細なことは気にせずに僕は家をでた。サカハラとデートである。

「待ったか?」
「待った。」
 サカハラは無下に言った。 待ったらしい。悪かった、と僕が言うと、「楽しみにしていた。」と小声でもらした。
 彼女はデニムパンツにブーツ、フェイクファーのジャケットを着込んでいた。もこもことしていて可愛らしい。僕らはいつものコンビニで合流した。僕とサカハラは初詣に一緒に行くことにしたのだった。正月の六日である。僕とサカハラは「混むのがイヤだから」というなんともご利益の無さそうな理由だった。ある意味ではお似合いといえるだろう。
 近所の小さな神社で並んで手を合わせる。まだ人は多いが、混んでいるというほどではない。
ぱん、ぱん、と手を叩いて拝む。「今年はサカハラと楽しく過ごせますように。」と僕は祈った。僕らはおみくじを引きながら、お互いの運勢について話し合った。特にサカハラの今までの哀しい思い出を思うと、余計に力が入った。
「何だった?」
「吉だった。そっちは?」
僕がそういうと、彼女は僕にペロリと札を向ける。「大吉」と書かれた札だ。僕はむっとした顔して「ちぇっ」と舌打ちをした。彼女がそんな僕を見て笑う。
 ようやく見た笑顔。これが、僕は欲しかったのだ。
「何?」
寒さで鼻の頭を染めながら、彼女が聞く。気づいていないのだろうか、自分が笑っていたことに。「何も。」そういうと僕は彼女の手を引いて歩き出す。
神社の境内から、階段へと向かう。僕らは今日買い物にも行く予定だったからだ。彼女は手を引かれてついてくる。僕らは一分一秒を惜しまずに楽しもうとしていた。

「もし、僕が天気を操れるって言ったら、信じる?」
「信じないわ。」
 サカハラと一緒に電車に乗っている。駅二つ超えて、ショッピングセンターへ行くのだ。
「でも、二十四日に雪を降らせたんだ。」
 サカハラの目が見開く。あの事故は、マコトの事故に天気は関係なかったのか?どうだろう?雪に気を取られていて、マコトを轢いたしまったのだろうか?
「傘を貸した日も、サカハラが傘を飛ばされた日も、他にもたくさん。」
「……」
 サカハラは黙ったままだった。僕は、「マコト」の事故をほのめかすようなことを言った。信じてもらえるかなど、二の次なのだ。
「信じないわ。」
サカハラが僕の手を握る。きゅっと、彼女の手に力が入る。電車内に人は少ない。僕らが手を握り合っても、誰が気がつくだろう。冷たい手のひらが、僕の手を包み込む。
「気のせいよ、それと偶然。」
「サカハラ…」
「それだけで、いい。」
 僕らはそれ以上電車内で話をしなかった。
だけど、握り合った手がお互いを暖めあった。不思議な気持ちだった。冷たい手と手が取り合って暖かくなるなんて、魔法のようだと思った。

 何も語らないまま、ショッピングセンターへ向かって歩く。手は結ばれたままだった。
込み合った通りでは歩きにくいが、離したくなかったから、繋いだままだった。横のガードレールにすれすれで僕らはたどたどしく歩いた。不意にサカハラが僕の方を向いた。
「遅いクリスマス、する?」
「そうだね。」
サカハラから、クリスマス(の代わり)のお誘いだ。僕はもうクリスマスに拘ったりしていなかったが(もう終わってしまっているのだし)それでも何かしたいというのが本音だ。
「じゃあ、ケーキ食べよう。」
「私、タルト。」
「え、俺がおごるの?」
まるで注文するかのように、サカハラが言うので思わず聞くと「もちろんそうよ。」とサカハラは楽しそうに言った。
 
 どん

その直後、突然のことだった。サカハラが僕にぶつかってきたのだ。いや、違う。サカハラは誰かにぶつかられたのだ。僕とサカハラが同時にガードレール側に傾く。だけど、そこにはガードレールが無かった。
 横の駐車場のために、ガードレールが途切れていた。車道には正月祝いと言わんばかりに車が飛び交う。僕らは、その中へ生身で仲間入りしようとしている。
 僕は渾身の力で、サカハラを歩道側へ突き飛ばした。手が離れて、サカハラとの距離が開く。だけど、バランスが取れていなかったからだろうか、サカハラはもう一度、こちらへ倒れそうになっている。車が迫っている、僕に避けるだけの余裕は無かった。
 サカハラ―――そんな顔するなよ。泣き出しそうな顔で、僕に手を伸ばしている。
死なせるわけにはいかない。僕はもう一度、手の伸ばした。吹き荒れる風のイメージが頭の中で爆発する。サカハラの体が歩道側へ押し戻される。最後に使う能力だった、サカハラを風で押し戻したのだ。うまくいってよかった。
 押しつぶされそうな衝撃と、手を伸ばすサカハラの姿を最後に、僕の意識は途切れた。

小説 あした天気になあれ 5

  • 2006/12/24(日) 20:16



 僕が、花びら公園に着くと、公園前の道路を挟んだ道の向こう側の家の前に、黒い人だかりが出来ていた。通夜…だろう、多分。今日やるということは昨日か一昨日になくなったということだ。僕はサカハラの姿を探した。広くない公園だったから、直ぐに見つかった。サカハラはブランコに一人で乗っていた。黒い髪が垂れ下がり、きい、きい、とブランコが軋む。顔は俯いて、ここからではわからない。
「サカハラ」
ぼくが駆け寄って声をかけると、サカハラは目を真っ赤にしていた。僕の姿を見て、ぽろぽろと涙が落ちる。サカハラはブランコを漕ぎ棄てて、僕にぶつかるようにして、抱きついたのだ。
 僕は当然一体何が何んで何なのかわからずに、慌てた。空中を無闇に掻いた手を彼女の肩へおそるおそる落ち着かせる。彼女の肩は震えている。
――――泣いているのだ。
何があったのか、僕は聞かなかった。ただ落ち着くままに、彼女の肩を抱いていた。それでも落ち着く様子がない彼女を、僕は思い切って抱きしめた。
「うっ…うわあああああ………っあああぁ………」
サカハラの泣き声がせき止められずに溢れ出した。彼女の体は細く、柔らかかった。こんな風に泣き出すような哀しさを、一体どこに仕舞いこんでいたのだろうか。
 彼女は泣き続けた。どれだけ泣いたのだろうか、僕にはわからない。十分にも満たなかった気がするし、もっともっと長かった気もする。でも、僕は決して彼女を抱きしめる手を緩めなかった。
「僕はここにいる。一緒にいるよ。」
 泣いてもいい、大丈夫だよ。そんな言葉よりもまずこう口をついて出た。サカハラの僕を抱き寄せる力が強くなった。

 ぽつぽつと雨が降り出した。雪ではない。雨だ。
僕とサカハラはまだ公園の只中に立っているだけだった。しかし、彼女は僕を抱き寄せたまま、泣くのをやめて、昔話を始めた。いつもよりもか細い声で、声を荒げずに。

 私が始めて友達を失ったのは、私が小学生のときだったわ…その子は私の目の前で川に流されてしまった……私は悲しかった。だけど、長い時間をかけて立ち直った。今度は私が好きになった子だった。スポーツの出来る、かっこいい子……轢かれてしまったわ。病気で死んだ子もいる……私の周りに死体が増える……

 サカハラは自分の周りで死んだ友達のことをぽつぽつと語った。事故にあった人、病気だった子、中には、殺された子。いつしか自分が死神のように、かかわった人たちを不幸な死に追いやっているのだ。
 それは不運の連なりだったのかもしれないし、本当にサカハラが呼び寄せたのかもしれない。だけど、そのことによってサカハラの心は傷を負ったのだ。
 サカハラは一度も顔を上げなかった。僕たちは柔らかな雨に濡れていた。
「もうイヤ!」
どん、とサカハラが僕の胸を叩く。
「サカハラ―――」
「もうイヤだ!誰かが死ぬなんて!!大切な人がいなくなるなんて…」
 叫ぶように僕の胸を叩いた。その言葉が僕に沈む。
「私のせいで死んじゃうんだ…私が……」
「サカハラ…」
 僕はのどから振り絞るように声を出す。だけど、
「君も、君も死んじゃうんだ!私のせいで!!」
「『マコト』も…死んじゃったっ………ひっ…く…」
 僕は弾かれたようにあの黒い人だかりに視線を移す。
あれは、マコトの通夜なのだ―――――。

「不注意…運転の車に、ぶつかられて…死んじゃった。マコトが…」
 ようやく、わけがわかった。
コンビニでのケンカのときのあの恐怖の顔、露骨に僕を避けるサカハラ、僕の腕を打ったサカハラ。僕のためだったんだ。なら、僕は言わなくちゃならない。
「サカハラ…」
 息をのむ。
「……好きだよ。」
今、逃げちゃいけないんだ。
 僕は、今、サカハラと向き合わなければならないんだ。諦めてなどいられない。
ぎゅう、と僕を抱くサカハラの腕の力が不意に弱まった。
「…へ……?」
「好きだ。だから、一緒にいるよ。」
 ――――それしかできないなら。僕はもう、サカハラに恋してる。
「何があっても、一緒にいるよ。」
「いやっ、ダメっ!君まで、君まで……私の……
僕はサカハラの言葉をさえぎるように
「降ってる雨は、いつか止む。僕はそれまで、サカハラの傘でいる。」
 くさいセリフだ。でも、いいじゃないか。僕は心の中で念じる。
ぽつぽつと降る雨が、弱まり、そして止む。太陽が顔を出す。胸を内側から金槌で叩くような痛みが走った。だけど、それが何だって言うんだ。
「…ほら」
僕が空を見上げると、雲の合間から太陽が見える。サカハラも空を見上げていた。青空が顔を出した。
 濡れた地面に光が反射する。「マコト」もきっと晴れがいいというだろう。
「…ね、サカハラ、大好きだ。」
「っう…うわぁあああああああ…………」
 サカハラは、もう一度僕の胸に顔を埋めると、泣き出した。今度は僕は躊躇せずにその肩抱いた。手を回して抱きしめる。
 もう、一人じゃない。僕がいる。この青空の下で僕らは一緒にいる。
何度もそう言った。サカハラと一緒に僕がいるのだ。それだけでいい。

小説 あした天気になあれ 4

  • 2006/12/23(土) 16:55



 ようやく、サカハラが学校に来た。結局サカハラはあの後二日ほど休んでいた。僕はその間いつものように学校で授業を受けて、部活に出ていた。僕はもう天気を操らないようにしていた。
 サカハラはそれに気がついた様子もなかった。当たり前だ、誰が天気を操る、など思いつくのだろうか?それは僕だけだろう。
 いつもの放課後、ようやく学校にやってきたサカハラに僕は部活が終わってから声をかけた。
「一緒に帰らないか?」
「いや。」
サカハラはあの冷たい声を取り戻していた。僕はぷっ、と笑いをこぼした。
「何?」
サカハラが眉根にしわをほんのりと寄せて聞く。
「いや、いつもの様子だなって、思ったからさ。」
 そういうと、サカハラは何故か哀しそうで、それでいながら怒ったような顔をした。「サカハラ?」僕が手を伸ばすと、サカハラは手に持っていた鞄で僕の手を打った。かなりの力で打たれたのか、僕の手は思うように動かなかくなった。
「サカハラ―――」
「付きまとわないで。」
冷たく突き放すような物言いだ。僕はサカハラとは一緒にいれないのだろうか?サカハラはそんな僕を尻目に靴箱から乱暴にローファーを引き出すと、それを突っかけて駆けていった。僕は呆然としながらその様子を見ることしか出来なかった。
 打たれた手が、ジンジンと痛んだ。

 僕はあまりサカハラに声をかけなくなった。といってもまったくではないし、頻繁というほどでもない。僕はもっとサカハラのことを知りたいと思った。いつもの観察に加えて、聞き込み調査を開始した。しかし、思ったようにはいかないのだった。当たり前だ、一介の高校生にどれだけの力があるだろうか、ないに等しいのが本当のところだ。
 結局わかったのは、小学生のときに引っ越してきたこと、それから、中学生の時に友達を一人亡くしていることくらいだった。
それ以外は何もなかった。
 サカハラに打たれた手はシップを張っていた。未だに腫れが残っている。もう一週間近くが立つのに。部活のとき、サカハラは僕の手を見ていた。腫れた手に視線をやっている。僕は気がついていない振りをして、サカハラの顔を見た。その顔には、哀しさと安心という矛盾した感情が浮かび上がっているように見えた。
 その腫れた手を見るときのサカハラの顔は痛ましい表情である。サカハラはきっと殴りたくなかったのだろう。彼女は何かどうしようもない理由があって、僕を殴ったのだ。
 そんなことを考えていると、気を抜いていたのか、僕の手を眺めるサカハラと目が合った。僕らは同時に目をそらした。何も言わずに、ただ目をそらしたのだ。


 外が寒い。朝ベッドから出るのが億劫なほどに、寒い。もう直ぐ、雪が降る頃合である。もう十二月なのだ。
 サカハラの観察を始めて焼く二ヶ月が過ぎようか、という頃合だった。もうすぐ、年末最大のイベントがやってくる。クリスマスだ。赤や緑、キラキラと光るイルミネーションが町を彩り、クリスマス・ソングの妄執が人々の耳を叩く。町中が大騒ぎする。そして、それ以上に恋人達が、その寒さに身を暖めあう時期なのである。
 コレを逃して、告白する時期があるか?いや、ない。
僕は、部活終わりにサカハラに話しかけた。大体五日ぶりくらいである。僕は下駄箱の、つまり玄関口で話しかけた。クリスマスにデートをしないか?
「無理。マコトと約束があるから。」
 久々に聞いた長い言葉に、聞いたことのない名前が並んだ。「マコト」?だれだ?
僕の脳みそは電撃に打たれたように、動くのをやめた。僕は二の句が告げなかった。「マコト」?男?彼氏?恋人?
 僕の脳みそは、サカハラが僕に手を振って校門へ消えてからも機能を取り戻さなかった。僕はずっと彼氏がいる女の子に、恋をしてきたのだろうか?いや、それはいい。ただ、一つわかっているのは、僕の恋が終わってしまったということだけだった。
 僕が呆然と靴箱で突っ立っていると、僕の背中を誰かが叩いた。振り返ると、そこにはサカキが立っていた。ニヤリ、と不適な笑みを浮かべている。サカキはニマニマと笑いながら、こう言い放った。
「さよな〜ら、たいせ〜つな〜人〜」
僕の鉄拳が炸裂した。いい音だった。

 サカキと二人で並んでコーヒーを口へ運ぶ。バイトの労働の後の、ささやかなご褒美である。サカキは左頬が染みる、と騒いでいる。ああ、何故こいつが横にいるのか、僕の横にいるのはサカハラがよいのに。よいのに。
「まあ、イジけるなよ。一人身同士仲良くやろうや。」
「うるさい。」
 ああ、ブラックコーヒーが冷えた骨身に染みる。湯気が濃い夜気の中に漂っていく。僕は、サカハラとどうしたかったんだろうか?その答えはわからない。
「なあ、サカハラさ…俺のこと……」
その後を、聞く勇気がなかった。僕は押し黙った。コンビニで買ったコーヒーと、寂しい夜の帳の中で、僕は顔を隠すようにして、コンビニの駐車場に座っている。
「キライじゃないやろ。多分。」
 サカキがふいに口を開く。いつものように軽い口調だけど、それは決してウソを言っていない証なのだ。僕が顔を隠しながら、サカキを横目に見る。
「好きなら諦めんなや。大丈夫だって。多分。」
僕は、何気ないその言葉が一番嬉しかった。諦めるな。僕は頷いた。ああ、諦めないよ。僕は目元を袖口でぬぐった。泣いていたのは、秘密だ。秘密だったら、秘密なんだ。
「泣くなや。」
秘密なんだってば!

 結局、僕はその「マコト」なる人物については調べなかった。あっさりと月日は流れていった。そのうちに終業式だ。僕の学校は、十二月の二十六日に終わるが、今年は二十四、二十五と休みだった。結局、僕はサカハラとのクリスマスを過ごせなかった。
 だけど僕はサカハラへのささやかなプレゼントを贈った。雪だ。フワフワと空を落ちる粉雪にした。
風はなくて、気温は寒い。イルミネーションカラーに映える、真っ白な雪。
 二十四日はその雪とともに過ぎていった。テレビでは、クリスマスさながらの番組ばかりだし、商店街にはクリスマス・セールの看板が邪魔なほどに立っていた。
 僕はベッドの上でサカハラの「舟守」を読み返していた。サカハラを思い起こさせる唯一の物。僕のクリスマスはそのようにして、過ぎていった。
 
 知らせがあったのは、二十六日のことだった。僕の携帯にいきなり見知らぬナンバーからの着信があったのだ。僕がいぶかしみながらそれをとると、電話の向こうからはサカハラの声が聞こえた。泣いているようにも聞こえる。僕が、どうしたのか、と聞聞くと、サカハラは鼻をすするような音と共に二丁目の公園、通称花びら公園に来て欲しいといって電話を切った。その後僕がかけなおしてもサカハラは電話に出なかった。
結局、僕は、終業式をサボって公園へと向かうことにしたのだった。

小説 あした天気になあれ 3

  • 2006/12/23(土) 16:49




 ある金曜日、僕は勇気を出してサカハラをデートに誘うことにした。突然だろうと、なんだろうといい。僕はもうサカハラに恋しているのだから。
「サカハラ、明後日映画に行かないか?」
「行かない。」
「……。」僕は爆撃された気分だった。なんで、この女はこうも無感動なのだろうか?いや、諦めない。こうして僕のサカハラに対する(無駄な)アタック大作戦が始まったのである。
 あるときはこうだ。
「サカハラ!遊園地に…」
「行かない。」
 またあるときは
「サカハラ!カラオ…」
「いや。」
さらには
「美術か…」
「無理。」

 そこまでしてだめだったのだ。僕は正攻法を諦めた。
僕はとうとう卑怯な方法を始めた。どれもコレもサカハラとの距離を減らすためである。僕はもうサカハラ一筋の恋愛少年といえるだろう。恥ずかしい話だ。
 そして今日、サカハラが玄関前でたじろいでいる。というのも僕のせいだ。まさにバケツの水をひっくり返したような雨が降っている。サカハラは傘を持っているが、そんなものはこの雨の中では役に立つことは決してないだろう。
「サカハラ、今度一緒にケーキバイキングいかないか?」
僕が後ろから声をかけると彼女は振り返って「行かない。」一閃である。切り捨てられた侍の気分で僕はそこに立っていた。なんてヤツだろう。僕はそう思った。
「送ろうか?」
僕の傘も役にたたなさそうだが、僕の力を使えば一発である。僕はサカハラと一緒に歩くために雨を降らせたのだ。それ以外の何物でもない。しかし彼女は手を振って、こういったのだ。
「いらない。またね。」

 そういうと傘をさして歩き出した。あまりの雨の強さに彼女の姿は雨煙に隠れて直ぐに見えなくなってしまった。
「いらない。また明日ね。」彼女はそういうと小さく手を振って傘を差して玄関から出て行ってしまったのだ。いつもどおり冷たいヤツ。しかし、手を振ってくれたのだ。
 僕は確かに、彼女との距離が縮まっていることを確信した。僕はガッツポーズを決めた後で、急いで「雨よ、弱まれ。」と念じた。あっという間に雲の隙間から太陽の光が差した。
ずぶ濡れのサカハラをこれ以上濡らすわけにはいかない。僕は僕のせいでずぶ濡れになったであろうサカハラのことを思いながらスキップで帰路に着いた。
 
 その後も僕はサカハラに能力を使ってアタックを続けた。たとえば雨の日に相合傘をしようとか、ほかにも嵐で電車を止めたりして駅で偶然を装って待ち伏せてみたりとか、ときには雨の中、サカハラの傘に向かって風を起こして、傘を吹き飛ばして、そこに傘を手に現れたり。とまあ、迷惑極まりない方法ばかりで。
 しかし、どれもこれもサカハラは突破し続けた。
彼女は毎日折り畳み傘を持つようになったらしく、雨の日はもう相合傘を必要としなかった。電車を止めると彼女は迷った風もなく徒歩で帰った。傘を吹き飛ばされればそれを追いかけて走っていった。
 その頃になると、僕はもう疲れていた。その能力は使えば使うだけ僕の体に損害を与えるようだったからだ。初めは胸の奥の痛みからだった。僕はそれを筋肉痛か何かだと思った。しかし違うようだった。能力を使うと、それが悪化することに気がついたからだ。それでも僕は力を使うことをやめなかった。やめたら、サカハラと近づくことを諦めるような気がしていたのだ。

 そんな十一月も半ば、僕が良く行くコンビニに向かうと、そこにはサカハラの姿があった。彼女は何人かの人間に囲まれていた。僕は始め「サカハラに友達がいる。」と思っていたのだが、どうやら違うようだった。
 サカハラはガタイのよい男に言い寄られているようにも見える。なるほど。彼女はどうやら不良にちょっかいを出されているらしい。サカハラは美人なのでありえそうな話である。
 僕は走りよって
「やあ、サカハラ!」
と声をかけた。途端、サカハラの表情が一変した。不安そうな顔である。助けに来た人間を見て不安になるなんて、なんてひどいやつだろうか。僕がそう思っていると、サカハラを取り囲んでいるうちの一人が僕に突っかかってきた。
「なんだてめぇ、うせろ!」
彼は短くはきすてると僕の胸倉を掴んで僕を威嚇した。僕はちょっとたじろいだ。まさかここまで強気で押してくるとは思わなかったからだ。僕は手を出すべきか、どうしようか迷っていると後ろからさらに声がかかった。
「なにしてるん?あ、ケンカしてるし!」
陽気な声で状況を中継したのはサカキだった。僕とサカキは今日ここで待ち合わせをしていたのだった。サカキが陽気な顔で手を振って近づいてくる。ヤバイ。
「お、おいアンタ逃げろ。」
 サカキは喧嘩早いのだ。その上、強い。このままじゃ騒ぎが大きくなる。僕の胸倉を掴んでいた男が「ああん?」威嚇しながら振り向いた。そして「ひぃうっ!」と締められた鶏のような声を上げた。
「ササ、サ、サカキさん。」
「そやね。」
相手の手が僕から離れる。どうやら、サカキの顔を知っているらしい。そして、怖がっている。多分、サカキに何かされた経験があるのだろう、と僕は推理した。
「やるか?ケンカ」
サカキが声音を下げて男に聞く。
僕がサカハラの方を見るとサカハラは胸に手をやっている。サカハラにちょっかいかけていたやつらはサカキから逃げるように、しかし、眼を離さないように後退していた。サカキがニカリと人のいい笑顔になって
「やろか、ケンカ。」
というと僕の胸倉を掴んでいた男とサカハラにちょっかいかけていたやつらは「ひっ」と短い悲鳴も漏らして散り散りになって逃げていった。もうやく一安心である。僕はサカハラに駆け寄ってサカハラが怪我していないか確かめた。
 サカキはそんな僕とサカハラを無遠慮にじろじろと見ると、ニッと笑顔になって
「おっ、待ち合わせに遅れる。じゃあな。披露宴に呼んでくれ!」
そう言って立ち去ってしまった。風のように現れ、暴風を撒き散らし、消えた。まるで台風のようなヤツだ。それに、僕との約束はどうするのか。いや、今はそんなくだらないことはどうでもいいのだ。
「サカハラ、大丈夫か?」
僕がサカハラを見るとサカハラは胸に手を当てて顔を伏せている。何かされたんだろうか?僕は不安になった、助けに来るのが遅かったか?僕がサカハラの肩に手を伸ばすと、サカハラは突然それを乱暴に振り払った。
 いつものサカハラからは想像できないことだった。今のサカハラは普段のサカハラからかけ離れている。あの無表情の仮面はどこに消えたのか、サカハラの髪の毛は乱れて、顔も焦った顔になっていた。何かされたというような様子ではなかった。ただ怯えているように見える。
「サカハラ、送っていくよ。」
サカハラがどこへ行くのかしらないが、今の状態ではどうしようもないだろう。
「いい、いらない!」
サカハラの声はいつもの平坦な声じゃなかった。あの冷たい海のイメージじゃない。人を寄せ付けない壁を感じた。
「サカハラ」
「うるさい!」
サカハラは声をかける僕に向かってそう怒鳴った。明らかに興奮状態だ。極度に怖がっているのだ。小さな肩が震えている。
 僕の心は痛んだ。なにを彼女を怯えさせているのか、わからないからだ。嫌われたっていい。でも、サカハラに笑って欲しい。
僕はいつの間にか、唇をかみ締めていた。僕にできることはそのくらいだ。
「サカハラ、明日の天気何がいい?」
「……?」
少し落ち着いたのか、サカハラは僕を見ずに、「雨。」とつぶやいた。眼はもう僕を向いていない、空を見上げている。
「雨。雨が好き。誰にも会わなくて済むから。雨がいい。」
「サカハラ…」
僕の口から言葉は出なかった。胸の奥がずきんと痛んだ。それが、あの能力のせいであればいい。そうなら、どんなにいいだろう。でもこの痛みは、これは、違う。
 僕が次の言葉をいえないでいると、サカハラは踵を返して歩き始めた。雨はまだ降らない。
僕は彼女の後姿を、眺め続けていた。


 コンビニでサカハラを見かけた翌日。
僕は雨を降らせた。雨はしとしと雨。十一月の寒さに拍車をかける雨だ。風はない、ただ雨がずっとずっと降り続けている。
 サカハラは今日学校にこなかった。担任の話によれば、風邪を引いたらしいが本当のところはわからない。僕は久しぶりに誰も観察しない一日をすごした。それは何だかスカスカと空気が漏れ出すような日だった。
 その次の日も、そのまた次の日も、サカハラは休んだ。もう三日になる。その間僕は三日にわたって雨を降らせ続けていた。サカハラが登校してくるまで、僕は雨を降らせるつもりだったし、雨の日が好きなサカハラへのプレゼントでもある。それを伝えることが出来ないのは非常に困る。困っている。
 それにサカハラがいないことに困っているのは、先生も同じらしい。先生は「期限が限られた知らせがあるから・・・」と困っているのだった。僕は良い生徒の見本のような顔をして、先生にサカハラの家に僕が届けて上げましょう、と提案した。
 そんなわけで、僕は今、鞄の中にサカハラ宅宛の書類を詰めて、傘を片手にサカハラの住んでいるアパートの前に立っている。相合傘したときにサカハラを送っていったあのアパートだ。小さなアパートの郵便受けを覗くと「サカハラ 五○八号室」と書いてある。
 僕は階段を上ってサカハラ宅に向かった。別に今日はデートに誘おうとか思っていない。断じて、思っていない。本当だ。
 小さなインターホンを鳴らす。直ぐに返事が着たが、サカハラではない、いや、僕の知るサカハラ本人ではない。多分母親である。僕は自分の名前と用件を告げた。
直ぐにサカハラの母であろう人物が出てくる。小じわがあるが、綺麗だ。明るそうな人というイメージである。
「あらあら〜悪いわねぇ。イサカってば、こんなカッコイイ男の子捕まえておいて、一言も言わないなんて」
そういえば、サカハラの名前はイサカだった。そう思いながら僕はサカハラ母とサカハラ本人の間に大きな違いがあるな、と思っていた。サカハラ(母)は僕を半ば無理矢理上がらせると、お茶とお菓子を出してくれた。
「これ、書類です。」
「ありがとうね、ごめんね、イサカ今出かけてるのよ。」
サカハラ(母)そういうと笑いながら書類を受け取った。出かけてる?風邪をひいているのでは?僕が不思議に思ってきくと、彼女(サカハラ(母)のことだ。)はふっと目線を落として暗い顔をする。その顔は、サカハラにそっくりだった。やはり親子なのだ。
「あの子ねぇ、三日前からすごく不安そうでね。多分、何か怖いことでもあったのだと思うんだけど。」
「すいません、それ、僕のせいです。」とはいえなかった。サカキがそんなに怖かったのだろうか?僕は真剣にサカキと縁を切ることを考えた。僕は出してもらったお茶に口をつけた。高いかどうか知らないが、おいしいお茶だった。久しぶりにおいしいお茶を飲んだ気がした。
「あの子ね、昔に辛いめにあってて、まだ引きずっているのよ。」 
 サカハラ母が話しかける。別に催促したわけではないのに、教えてくれるらしい。
「そのせいでお友達が出来ないみたいで…あら、ごめんなさいね。突然。」
「いえ、いいんです。お茶、どうもありがとうございました。そろそろお暇します。」
 出来るだけ礼儀正しく僕は言った。何か大仰過ぎる気もするがいいだろう。僕は鞄をもって立ち上がった。
「それじゃあ、イサカさんによろしく言っておいてください」
僕は帰り際にサカハラ母にそういって頭を下げた。「ええ、また来てちょうだいね。」サカハラ母はにっこりと笑顔で微笑んでくれている。
「あ、それから、イサカさんに、『諦めないぞ』ってついでに。」
僕がそういうと、サカハラ母はきょとんとした顔をしてから、「ええ」と返事をくれた。
 サカハラがどんな過去をもっていようが僕は気にしない。僕はそう思った。僕が階段に差し掛かるまで、サカハラ母は見送ってくれた。
 僕はもう一度頭を下げて階段を下りた。もう雨は降っていない。雨はもういらない。僕の胸がずきりと痛んだ。

小説 あした天気になあれ 2

  • 2006/12/22(金) 20:12




 十月の半ば、僕がサカハラを観察し始めて一ヶ月がたっていた。結局猫は僕が飼っている。名前は「コレ」、サカハラにそう伝えると、「コレ・・・」と呟いてから僕を蔑むような眼で見た(気がする)。
 いつの間にか、僕とサカハラは部活の帰る時間が重なるようになった。一向にサカハラは喋ろうとはしなかったが、僕とサカハラの距離はゆっくりと近づいている気がしていた。
 そんなある日、天気予報は大きく外れて雨が降った。僕は抜け目のない人間だから折りたたみの傘を持ち歩いていた。部活を終えて玄関に行くとサカハラは雨の中傘なしで歩き出そうとしている。
 僕は何も言わず、サカハラの頭上に傘をかざした。ぽつぽつと傘を雨粒が叩く、サカハラは振り返って僕を見ると「何?」とつぶやいた。
「傘・・・貸してやるよ。」僕はそういった。しかし、サカハラは返事なしに唐突に歩き始めた。僕はサカハラの前に立ちふさがると無理矢理に手に傘を持たせた。
「ほら、こういうときは素直に借りとけ!」
僕はそれだけいうと走って逃げた。サカハラが追いつけないように、全速力で逃げた。
 ずいぶん走ってから、自分が何をしているのかよくわからなくなった。サカハラ・・・
十月の雨は走るのをやめた僕の体を冷やしていく。僕は近くのコンビニで雨宿りすることにした。
 コンビニで雨に当たるのを回避していると、傘を折りたたんだままサカハラがずぶ濡れの姿で現れた。
「傘。」
サカハラはそういいながら傘を僕に突き出した。僕はもう何も言えずにその傘を受け取った。
「・・・」
「・・・」
サカハラは無言のまま文庫本を手に取ると、読み始めた。僕の隣で。
雨が強くなって、もう少し、もう少しでいいからこのままいられたらいいのに、僕は思った。だけど空の端は雲が薄くなって雨も小降りになってきている。
 もっと、雨が降ればいい。
僕はもう一度思った。
 すると、ざああ・・・と音が強くなり、共に雨は強くなった。僕はびっくりした。なんてラッキーなんだろう。グッドタイミング。僕は神様に賛辞を送った。これでサカハラと一緒にいられる。気分はバラ色である。
 サカハラは文庫本をゆっくりとかみしめるように読んでいた。紙が擦れる音と、ときたま濡れたサカハラの髪から滴る水滴の音以外はほとんど音がなかった。

・・・ざああ・・・・・・ざああ・・・
一向にやむ気配がない雨、雨宿りを始めて一時間以上がたっている。しかも、異常なことに空の青い面積は次第に増してきていて、雲はもう薄い。だけど、雨は弱まる気配もない。
サカハラは横でずっと本を読んでいる。
 僕は勇気を出して、声をかけた。
「なあ、サカハラ・・・」
眼だけで僕を見ているサカハラ。言葉がのどで詰まるようだった。
「あ、あのさ、送っていくから、一緒に帰ろう。」
 しかし彼女返事をしないまま文庫本を持ってレジにもっていってしまった。支払いが済むと、彼女はコンビニの出口から僕をみた。言葉はないが、僕はすぐに理解した。

 サカハラは僕よりも十センチほど、小さい。僕はサカハラと一緒に歩いた。サカハラの歩く速度は遅く、僕とサカハラはのんびりと散歩をしているように見えるかもしれなかった。
しかし実際のところ僕らはずぶ濡れで、いまさら傘なんて夏のコタツほどの意味もないのかもしれない。
「右。」
サカハラは時々このように僕を誘導した。何だか昔のゲームみたいだ。十字キーを押すと、キャラクターが進路を変える。サカハラはプレイヤー、キャラクターは僕。
そんなことを考えているとちいさなアパートについた。サカハラはそこで傘から出て、「ありがと。」と一言だけ言いうと、階段を上がっていった。
 僕はサカハラが見えなくなるまで、彼女に手を振り続けた。

 その夜、僕はベランダで今日のことを考えていた。サカハラはなんだか歩くマネキンのようだった。のっぺりとした面の、つるりとしたマネキン。
「あの雨・・・なんだったんだろうなぁ・・・」
僕はずっと、そう考えていた。サカキからのメールによると、雨の降った範囲はそんなに広くないらしい(一体、どこからそのような情報を得るのだろうか。自分用の衛星でも持っているのか?)。
まさか、僕が降らしたのだろうか、サカハラと一緒にいるために?
 このくだらない考えはイカしている。
僕は、心の奥から押し出すように、雨よ〜・・・降れぇ・・・と念じた。
空は快晴だ。星が綺麗に見える。馬鹿らしい、そんなことがあるわけない。僕は部屋に戻るとバイトの用意をして、玄関に向かった。
 玄関を開けると、信じられない光景が広がっていた。
ざああ・・・ざああ・・・空を見上げると、星が見える。しかし四方から急速に雲が集まるのが見えた。雨雲が空を覆い、雨が降ってくる。僕がベランダから玄関に来るまでの間に降ってきたとでもいうのだろうか?
「そんなアホな・・・」
 僕は「今日は疲れている。明日にはきっと何てことない日がやってくる。」そう思いながら傘を持ってバイトに向かった。

 だけど、その後もやっぱり僕の思うように天気は動いた。体育がいやだから「雨が降ればなぁ・・・」と思うと雨が降った。台風が来ればいい、そう思うといきなり台風が発生した。 
 僕は、なんと天気を操れるらしかった。それ以来僕は天気を操る練習をした。
たとえば、曇り空を晴れに変えたり、雨を嵐に変えたりといったところだ。だから、最近の天気予報はあてにならない。僕の以外は。
 十月も終わりに近づいている。今月はテストもあってあまり部活の時間は取れなかったが、僕ら文芸部はちゃんと部誌を出した。月に一度出している部誌の出来は今回も「高校生にしては、綺麗。」くらいである。
 僕はいつものように部室でサカハラの「舟守」を読んだ。

一人の生きた人間があらわれた。
 彼は私の横にこしかけると死ぬまで「私を生きたまま海に流してください。」そういった。私と、彼の死で結ばれた生活が始まった・・・・・・

 今までにはない展開がそこに広がっていた。サカハラは主人公の「私」しか生きた人間を出さなかった。しかし、そこには生きた人間が現れた。サカハラの文章は落ち着きをなくし、混乱したように見える。
 すくなくとも、もうあの静かな波だけの文章ではなかった。サカハラは明らかに困惑した表情で部誌を眺めている。いつもの無表情の顔はどこかへ消えたようだった。
「よう。」
声をかけてサカハラの肩を叩いた。コミュニケーションの第一である。サカハラは僕を一瞥すると、部誌を片して帰っていった。部活をサボるらしい。僕は部誌が出来上がったばかりなのに次の話を考えていた。サカハラの観察以来、妙に筆が進む。
 僕の小説も、サカハラの「舟守」も、きっと絶望の表れなのだ。サカハラのあの哀しい海の主人公はきっとサカハラ自身なのだ。殺し屋はきっと僕自身の憧れだ。
 外を眺めると、雨が降っている。僕は「雨よ、降るな。」と思った。雨はあっという間に止んだ。
雲が薄くなり、晴れるだろう。なぜなら、僕がそう望んだからだ。

「さいきんどうや?」
 サカキはまたもや僕の飲み物を奪うと、勝手に口をつけている。
「何が?」
僕は彼の行動を無視して、そのまま話を促した。サカキはペットボトル(僕のだ)を置くと「サカハラとさ。」
「ああ、進展なし。」
「おっ?進展っていうってこたぁ、ホの字やな?」
確かに、そうである。僕はサカハラに惚れているらしい。それよりも、今時「ホの字」とかいうやつを初めてみた。サカキはそういう変なやつである。
「デートくらいは?」
「まだ・・・」
サカキはじれったそうに、頭をかいてから、奥手やねぇ・・・とこぼしている。
「サカキ、休憩終了だ、行こう。」「へいへい。」
僕は無理矢理に話を打ち切るとバイトの仕事を再開した。

小説 あした天気になあれ 1

  • 2006/12/22(金) 20:02

あした天気になあれ。1


 彼女のことを初めて意識したのは、以外にも文学部に入ってから一年と五ヶ月がたっていた。それはごく自然に、スムーズに発生した。
 僕は新しい小説の内容を考えながら部室へと歩いていた。ぱっ、と新しいアイデアが浮かび、それを頭の中で編集しようとしたときに、どすん、と彼女が僕にぶつかってきたのだった。
「失礼。」
彼女は平坦な声でそれだけいうとこちらを見向きもせずに歩いていった。僕は「こちらこそ。」と返事をした。
 ぶつかられた考えていた小説の内容は全て頭から消え去った。消滅した。
 僕は彼女を逆恨みした。彼女はそんなことは気がつきもしなかった。
それが、僕と彼女の出会いだった。

 次の日、僕が部活で新作のプロットを練っていると、彼女は部室に入ってきた。今まで気がつかなかったが、彼女はこの文芸部の部員だったらしい。
僕は他人にあまり興味がないので知らなかった。もし興味があっても知ることは出来ないだろう。僕は部活に入って直ぐに起こした事件のせいでクラブや教室の中で一人浮いていた。
 彼女は原稿用紙に作品を書いていた。何も思いつかないので彼女を見ていると彼女は誰とも口をきかなかった、変に浮いている。彼女は何事もないかのようにペンを滑らせていた。
 その姿になんとなく僕は興味を持った。彼女の長い黒髪は、誰も寄せ付けないバリアーのようだ、などと思っていると、彼女が視線をこちらに向けた。
「何?」
彼女はそっけなく聞いた。僕は「何も。」と答えた。
 彼女はやはり何事もなかったかのようにペンを滑らすのを再開した。
僕は部室の隅にある部で出している雑誌を手に取った。乱雑な出来だが、高校生にしては綺麗だ、というのが僕の感想である。
 ぱらぱらと捲ると、多分彼女の作品であろう物が見つかった。

タイトル「舟守。」
 彼女は以外にも荒海に出て行く男の話を書いているのかー、と僕はびっくりした。びっくりしすぎて「うおっ」と小声をもらした。
しかし、僕が思った内容とは違った。
 実際には主人公は死者を船の形をした棺桶にいれて海の向こうへ流す。そのときに死者を弔う、という話だった。独創的で、死の匂いがしていた。
 
 僕はそれを読みふけっていた。気がつけば僕と彼女以外には誰もいなかった。僕は立ち上がると本を片付けて立ち去った。
 彼女はそのあとをついてきた。
ぺたぺた、ぺたぺた、と上履きがなる。まだ夏の陽気が残留していた。ひっそりとした空気が僕と彼女の間を流れ続けた。そんなに誰かのことが気になるなんて、僕はそのときが初めてだったからだ。


 次の日。僕は彼女が僕と同じクラスであることを知る。
「これでじっくり観察できる。」僕は彼女の席の左斜め3つ後ろだった。彼女の苗字はサカハラというらしかった。
サカハラ・・・黒髪が窓から入り込む風に揺れた。九月の生暖かい風も彼女の無表情の仮面をはがすことは出来なかった。
 僕は半ば眠りに落ちかけながら、午後の授業を堪能した。

 クラブの時間がきた。今日は授業中の夢の中で彼女が砂浜で蟹を埋める夢を見た。蟹の死骸を埋める。彼女は彼女の小説の中の主人公と同じように死者を弔う。
 夢から覚醒すると自分の小説のアイデアが浮かんだ。コレは逃がすまい、僕はそう思ってメモ帳にメモをしたのだった。ついでに彼女のことも書き付ける。
 サカハラ:本日発した言葉一覧。「はい。」「46」
この二つだけだった。すごい、「あー・・・」とかすら言わなかった。僕はサカハラには友達がいないのでは、と思い始めた。
 この考えは当たっていたのだった。

 今日もいつものように部活に行くと、彼女は昨日と同じ位置に座り、僕も昨日と同じ場所にすわった。
僕も原稿用紙に、話を書き付ける。
 
 ・・・・・・ナイフを手の中にしのばせる。そっとドアを開けると、ターゲットを発見・・・忍び寄って、首筋にナイフの刃を突きつけた・・・・・・

原稿用紙に書き付けていく。
 少々子供っぽい内容、というか文章だけど、楽しい。
僕は自分が読みたいものを書いていた。殺し屋とホテルガールが恋に落ちる話だった。ホテルガールはなぜかサカハラの顔をしていた。僕の想像の中では。
 僕は部の本棚から部誌をもてるだけ抜き取った。小説が思ったようには進まなかったからだ。サカハラはペンネームもサカハラだった。「舟守」の続きが知りたくてしかたなかった。僕はさっさと原稿とペンを放ると、部活をサボって帰った。みんなががんばる姿を思うと余計にいい気分だった。

 彼女を観察して三日がたった。*彼女は弁当をどこかでひっそりと食べる。弁当箱はでかい。*彼女は必要がないときは何があっても喋らない。名前を呼ばれても、用事を聞くまでは返事もしない。*彼女は携帯を開かない。時計は腕時計をもっているようだった。
 サカハラについてこのようなことを知ることが出来た。役に立たない。

 彼女に思い切って、話しかけてみることを考えた。クラブの時間、僕はサカハラに
「なあ、この主人公は、ずっと一人なのか?」
彼女はつつーっと視線を泳がせると、「そう。」と返事をした。
 なんと、彼女との会話はそれだけで終わってしまった。
僕は自分の原稿用紙の前に戻ると、殺し屋とホテルガールについて悩んだ。考えても、考えても何も思いつかないので、サカハラの作品を読んだ。
 どうやら、文芸部に入って以来、「舟守」しか書いていないようだった。毎回毎回が独立したストーリーだった。どこから読んでも楽しめる形式らしかった。
 部誌から眼をそらしてサカハラを見ると、眉根にきゅっとしわを寄せていた。彼女にも表情はあるのだ。そんな当たり前のことを、僕は始めて知った。

 「そりゃあ、お前ホレちまったんやろ。」
僕の数少ない友人であり、悪人であるサカキが言った。僕らは共に深夜のアルバイトをしている。もちろん、学校ではそれは内緒である。
「そうかなぁ。」
実感のない僕は宙を見ながら答えた。
「そりゃあ、そうさ!だってサカハラにずっと気を取られてるんやん?」
 彼のいうことはほとんどがおかしいが、今日は何だか説得力があるように感じた。彼はジェスチャーを交えて熱弁を振るって僕の飲んでいたジュースを飲み干した。
「そうなのかな・・・」
確かに、サカハラは綺麗だ。白磁のような美しい肌に、こざっぱりとした顔立ち。均整の整った顔。見た目は百点満点だ。
 だけど・・・
「もうちょっととっつきやすけりゃぁ、俺がアタックするのに。」
サカキが横からそういった。
 なるほど、同感である。

 サカハラを観察し始めてから、ずいぶんと時間がたった。
僕はサカハラに頻繁に話しかけるようになり、サカハラは僕に頻繁に話しかけられるようになった。進展といえば、その程度である。
 ある日の帰り道、僕はサカハラを見かけた。サカハラは手に子猫を入れた段ボール箱を抱えていた。捨て猫のようだった。その様子を電柱からそっと隠れて観察していると、彼女はおもむろに一軒家のインターホンをおした。
まさか。と僕が思っていると、中から人が出てきて彼女と話を始めた。ここからでは話は聞こえないが、大体想像できる。彼女は家から出てきたおばさんと数十秒ほど話をすると、直ぐに立ち去った。手の中にはまだ子猫がいる。
「よお。」
僕は声をかけた。サカハラは無言で近づくと、ダンボールを差し出して、一閃、口を開いた。
「これ、飼える?」
「わからない。」
僕はそう答えた。僕の家は一軒家だが、飼えるかどうかとは、別問題である。
「そう。じゃあ。」
彼女はそっけなく立ち去ろうとした。「待てよ。飼い主探し、手伝ってやるよ。」僕の口は咄嗟にそう喋っていた。
 彼女は無言だった、否定もしなかった。僕は勝手に彼女を後をついて歩いた。他人の家のインターホンを押して、押し売り感覚で猫を飼え、といった。とはいえ誰がそんなに簡単に猫を飼うと決められるだろうか、否、今回の収穫はゼロだった。そのため、サカハラは僕に猫を預けて帰ってしまった。
 僕が渡されたダンボールの中の子猫に眼を向けると、子猫は「にー」と一鳴きした。可愛い顔立ちの美人(美猫?)だ。今まで見えなかったサカハラのやさしさを垣間見た気がした。

ショートショート クリスマス・ケース

  • 2006/12/22(金) 10:07


 ―――今日はクリスマス。
町はクリスマスソングで賑やかにしている。イルミネーションは瞬き、人々は笑いながら通り過ぎてゆく。
 僕と彼女も、二年前まではそうだった。
今はわからない、少なくとも僕のクリスマスは静かだ。
 そして墓の前に立つ。足が震えている。今日は寒い、星が綺麗に見えるいい夜だ。

 あの、二年前のクリスマス・イブ。僕と彼女は腕を取り合って歩いた。手に持ったケーキ、ふかふかのマフラー。彼女のくれたマフラーはふかふかで柔らかかった。買った七面鳥が大きくてオーブンに入らないね、彼女はちょっと困った顔で言った。
「じゃあ、さばく?」
僕が聞くと彼女はぶんぶんと首を振って、せっかくだから、そのままがいい、といった。取り留めのない会話ばかりだったけれど、幸せな時間が続いた。彼女は僕の手を引っ張ってあるいた。彼女のフワフワとカールした髪の毛が夜の空気にたなびいて、僕はちょっとだけ見とれてしまった。

 ――――あっという間のことだった。
彼女の手は僕から引き剥がされてしまった。

 それから、他にも。彼女は二月の十四日、いわゆるバレンタインデーという日に僕に告白した。
そのような話になると思っていなかった僕は、食べていたチョコレートを噴出しそうになった。
 それを見て笑う彼女の顔は天使そのものだった。
僕はむせながらそう思った。
 彼女との思い出は語りつくせない。
彼女は僕に辛いことがあるとそっと手を握って何も言わずに一緒にいてくれた。彼女の小さい手は、その手だけが、僕の求めるものだった。僕を支えるものだった。
 またはその逆もあった。彼女に何かあると僕は彼女を抱きしめた。彼女は数十分、ときには何時間も僕に抱きしめられたままだった。
 彼女と僕はそのようにしてお互いに助け合っていた。
 
 ―――――鋭いブレーキ音、耳を劈くようなクラクションの音。
突然のことだった。

 僕と彼女はときたま二人で公園へ出かけた。大きな池のある公園で、ボートに乗ってゆっくりと時間を楽しむことが出来た。揺らめく水面の上を鴨とボートがゆったりと流れていく。
 それだけのことだったが、それだけで穏やかなときをすごした。穏やかで平和な彼女との時を。
 とあるときには五十円ほどで売られている鯉のえさを買って二人で池に撒いたこともあった。彼女は集まる鯉に夢中になりすぎて池にダイビングしかけたこともあった。
 あわてて僕が引き止めると、ボートの上でバランスを崩して転がった。彼女と僕は顔を見合わせて笑いあった。
「楽しいね。」
彼女はそのとき言った。それは、彼女の最高の愛情表現だったように思う。デートの最後や、キスの後のお決まりの時ではなく、彼女の心の動きと共に現れる言葉だったであろうと思うからだ。
 二人で作って失敗したアップルパイ。干したばっかりの布団でそのまま寝てしまう彼女。僕の手料理を「八十点!」と採点してはおかわりをする彼女との食事。
それらの思い出は僕の心に沈んで消えることはないだろう。

 ――――――しかし、実際には二年前の今日、僕と彼女は永遠の別れを告げた。
突如暴走したトラックにはねられてこの世を去った。
 僕は彼女を護ろうとした。だけど、彼女は僕をかばった。トラックのライトに照らされて僕の人生最後に見た彼女の姿はこの世のものとは思えないほど、美しかった。
 ものすごい破壊音だった。
ひしゃげたトラックの積荷に、サンタクロースのイラストが描かれていた。明るいイルミネーションの中に現れた破壊の固まりはあっけなく僕を押しつぶした。
 僕はトラックに轢かれる直前に彼女を突き飛ばしていた。無意識のことだったように思う。
彼女はひしゃげたトラックの脇に流れる赤い飛沫を見て放心したようにその場に崩れ落ちた。


 彼女は僕の墓の前にずっと立っていた。
「星が、綺麗だよ。」
そっとつぶやいた。
 ほとんど真っ暗だったが、ところどころにあるライトがそれを補っていた。
彼女は僕が二年前にプレゼントとして渡すつもりだった指輪をつけていた。事故の中、無事に残ったらしかった。
 ぼくは今、墓の下に収められている。窮屈でつまらないつぼだ。
彼女は薄明かりの中でも美しかった。
そっと、彼女に言った。
「愛してる。」
しかし、僕の声を発するための体は失われていた。「愛してる。愛してる。愛してる!」どれだけ叫んでも声は発せられなかった。
 彼女はそんな僕に気づくことはもちろんないまま、鞄を方にかけなおすと、墓石の前にシャンパンとケーキを置いた。
 去年と同じように。
「愛してる。ありがとう、助けてくれて。」
彼女はそういうと立ち上がり、悲しそうに眼を伏せた。ぽろぽろと涙がこぼれて、頬を伝ってこぼれていった。
「楽しかったよ。」
彼女はそういうとくるりと踵をかえして歩いていった。
僕は今はもう存在しないのどを震わせて最後にいった。
「メリー・クリスマス」
彼女はそっと振り向いた。そして、声には出さずに僕の名前を呼んでから同じように言った。
「メリー・クリスマス」
彼女がいなくなると、また暗闇を静寂が訪れた。
 
 だけど、僕は忘れない。消えない思い出がずっと心にのこっている。
「楽しかったよ。」
それは、彼女と僕の最高の愛情表現だった。

たぶん。

  • 2006/12/20(水) 21:34

 漫画版のZOOを購入しました。
予想GUYの出来でした。正直SHOCKです。購入しようと思っている方は一羽だけでも立ち読みしてから購入ください。

 しれから、多分巻き爪になりました。右足親指です。多分巻き爪の痛みです。
 こんなに痛かったんですか、侮っていました。「どうせ肉につめがグリグリと刺さって肉がえぐれるくらいだろう。」と思っていたのですが、まさかつめが自我を持ち、小生の親指を骨から抉り取ろうとするとは思い至りませんでした。
 小生、不覚。

 しかし、この痛みは本当に巻き爪でしょうか?
小生随分前にその親指をバイクを立ちゴケさせてはさんでいるので(しかもそのとき多分骨にひびが入りました)、その痛みが何かでぶり返しているのではないでしょうか?
 何故こうも右足の親指ばかりが痛い目に遭うのでしょうか?のろいでしょうか?

 っていうかバイクを立ちゴケって何格好悪いまねさらしているんでしょうか?
 ああ、ダサイにもほどがあるので、これ以上自分のショボサを露呈する話はしないで置こうと思います。

リンク

  • 2006/12/19(火) 21:58

 リンクを張りました。EGG氏のサイト「まるい足跡」です。

 今のところ、面白いコンテンツを彼は用意していませんが、日常が常に常軌を逸しているのでその辺の壊れたところは出ていると思います。小説が読みたくて尋ねてくれる方はあんまり意味が無いと思います。

 小説ですが、そろそろ公表しなきゃですね。クリスマスの夜に幸せになっていただけるものを載せます。

 

近くの友、遠くの友。

  • 2006/12/18(月) 17:41

 先日、近所に住む友達と遭遇した。二人とも「あっ…」「ちっ…遭ってしまった…」みたいな感じだった。
 小生と彼の交友はたぶん小学生くらいからある。小生のようなナメクジと友達になってくれる彼の器は多分でかい。
 
 しかし、彼とは趣味が合わないというか、多分話の種がないからだろう。あまり話をしなかった。遊ばなかった。一緒にゲームしなかった。
 久々に遭ったので二人ともどうしていいのかわからなかった。どちらからともなく話しかけなければならないのか、どうなのか。
 そのようすは多分に昔つきあっていた男女が偶然再会したときのモジモジ感に似ていたと思う。しかし小生と彼はそのような関係になることは例え親や友人全員の命と引き換えでも起こらないので安心である。
 小生は息をつくと、
「話すことが無いねぇ…」
「そうだね…」ということになった。
 まさかその言葉が彼と話した最後の時になるとは25年後の小生は思っても見なかったのだった。

 比べて同じく小学生くらいからの友達であるEGG氏とはバリバリに交信しまくっている。多分脳内に出る汁の効果が同じような質なのだろうと推測された。
 しかし、彼と小生の住処は随分遠い。小生は彼のところに行くのにだいぶかかるだろう。彼と頃に行くのに、電車、船、車、メーヴェ、デロリアンが必要である。
 しかしインターネットのお陰で彼とは音信を保っているわけである。ビバ、WWW(ワールドワイドウェブ)である。

 



 

  • 2006/12/17(日) 22:31

先日、腰を痛めた。
久しぶりに本棚を整理して、要らない本を全部ダンボールにいれて運んだときに、「ごりごろめりめきょぶちっ」という音がして、小生の腰は動かなくなったのだった。

 話は変わるが、今日クリスマス・ショップに行った。そこはきらめくクリスマス状態だった。飽和クリスマス、クリスマスフェスティバル、クリスマス・ロード・のどれもこれもかなわない。クリスマス状態だった。小生はまるで裏路地のゴミ箱の裏に張り付く蛆虫のように性格が暗いので、そのような場所に居ると、体が溶け出すのだった。そのような場所は小生にとってまるで毒と一緒だったのである。
 小生はそこへ妹と二人で赴いたのだが、その途中で彼女から全速力で逃げることがあった。理由は良く覚えてないが、多分妹が頭のおかしいことを言ったのだろうと思う。彼女はそういうところのある人間だった。
 そのとき、小生の腰が悲鳴を上げた。周りに響き渡る悲鳴だった。妹も耳に手を塞ぐほどの大音響だった。お陰で、周りを飛んでいる鳥が何羽か地面に追突した。いやはや、あのような悲鳴が小生の腰から出るとは思いもよらなかった。小生びっくりした。

 そんなわけで、小生は今も腰が痛い。だれか治療法を教えてください。


えせ。

  • 2006/12/14(木) 18:01

 屋久さんもようやく気がついたようだ。
そう、小生はオシャレさん(何だそれ)だったのである。
 
 ジャズや紅茶、ときには絵画といったものを生活に取り込んでいる。
映画も好きだし、夜の就寝前は紅茶を飲みながら小説を読んで心を落ち着かせるのである。

 そのようなセレブっぽさをかもしながら
「トルコごっこ」だとか「がすしつ」とかいい放っているのである。
 
 えせおしゃれさんである。

紅茶のエゲレスっぽさはどうなってしまったのか?
 ジャズのスウィングは「ショックで眠れなくなった」に変換されてしまうのか?

 多分、小生は紅茶やジャズを語るべき人間じゃないのだと思う。紅茶を作った人たちが絶望するような消費の仕方をしているのである。

 ああ、ダメ人間。

 

ねえ、ジョニー。

  • 2006/12/12(火) 20:16

 ぜんかいの更新を見た人は皆小生の実話だと思ったみたいだね?失礼しちゃうよ。小生はそんなことしないよ。ええ、今までだって、*一回しかしたことないよ。うん。

 ところで、いきなりだけど、猫の名前を募集したいと思う。
「どの猫」って言うと、この猫である。
梅。

この猫を暫定的に小生宅で飼うことになったので、名前をつけようと思う。
 この子はオスなのだが、あまり縛られずに自由な名前をつけたいので、思いつくままにつけてやって欲しい。

 因みに今のことろ
梅    一票
コレ   一票
山田   一票
ジョニー 一票

といったところである。特に「山田」とか「ジョニー」とかは勘弁して欲しい。
うん、頼むから。

 まあ、そんなわけで彼を飼うことになったので、小生は今日彼をお風呂に入れた。きちゃない体を洗った。彼は小生のから体につめを立てたりしなかったが、
「にゃあああ!んにゃあああああ!!!!!」と
死にそうな声で叫んでいた。小生は彼を浴室へ閉じ込めると
「ふっふっふ、にげられないぞ〜。洗いつくしてやるぅ〜…」と優しい声で言ってあげた。その結果
*「ぎゃあああああ!んにぎゃあああああ!」
という元気な返事が来た。
 
 喜んでもらえたらしい。

彼を洗い終わる頃には、彼の目は嬉しさで見開かれ、声はかすれていた。元気いっぱいの様子のお風呂だったので、彼はその後ずっとベッドの上で横たわっている。

 めでたししめでたし
 


*別にわざとではない。籠を持っていなかったので、ポケットに入れたら出すのを忘れていたのである。因みに豆電球(百円)でした。
 他にも、放火、殺人、駐車違反、強盗、恐喝、誘拐、以外の法律を破ったことがある。

*本当にこんな声で鳴いた。小生、ちょっとびっくりした。

恐怖の逃亡と夕日と彼の一日。

  • 2006/12/09(土) 22:38

恐怖の逃亡と夕日と彼の一日。

 俺は今、追跡されている。
怖い、果てしなく怖い。
アイツは、アイツは、俺を殺そうとしているかのように見えるからだ。
 
 ことの始まりはこうだった。
俺は大学とバイトの日々、ストレスも発散できない、ガールフレンドもいない。金もない。俺を家で迎えてくれるのは論文と布団、ただそれだけだった。
 だからだろうか、俺は頻繁に万引きをしていた。もちろん始めは金がなかったからだ。飯も食えないような状態で、スーパーが財宝の山に見えたのは言うまでもない。
俺はいつしか万引きの常習犯になっていた。今日もいつものようになじみのスーパーに行き、品物をあさる。勉強道具の入ったバッグへとこっそりいれ、それを体と買い物籠にはさんで抱える。見た目には籠に入れてるように見せかける。万引きGメンも慣れてしまえば何てことない。巻く方法はいくらもあるのだ。だから俺はなめてかかっていたのだろう。
 今日、いつものように万引きをする俺、ばれにくいようにいくつかの商品をかごに入れてレジを通る。それからそれをバッグに入れる。盗んだ商品もバッグに入れた商品と一緒に混ぜる。
 いつものことなので気を抜いていたのだろうか、俺がスーパーを出て少し歩いたあたりで、俺は呼び止められた。振り向くとそこにはなにやら鉄の塊のようなものをもったスーパーの店員がいたのだ。俺のレジをやったやつだ。そいつは、俺に向かってこう言い放った。
「忘れてるものがありますよ。」
 しまった。
俺は一目散に駆け出した。気づかれたのだ。間違いない。やつは、俺を捕まえにきたのだ。
「あっ、逃げないでください!」
丁寧語が後ろから飛んでくる。逃げないでください?ふざけるな、それで逃げないやつは泥棒じゃない、犯罪者じゃない、万引き犯じゃない。俺じゃない。だから、俺は逃げる。丁寧語だからといって、誰が止まるものか。
俺はバッグを背負いなおして、安物スニーカーを力いっぱい蹴りつける。これでも、昔は足が速かったんだ。追いつけるわけがない。
「まってくださーい!忘れているものがあるでしょうーっ!?」
げっ!!追ってきた。
 ヤツはひ弱そうだった。めがねでひょろりとしていて、とても早く走れそうにはない。しかしどうだ。ヤツは俺の数メートル後ろを追いついてきているのだ。
「くんなっ!追ってくんな!!」
わかってる。俺の言い分がおかしいのはわかってる。だから、追い回さないでくれ。俺はもう息が上がりかけていた。このまま真っ直ぐ逃げてもいけない。なぜならこの先は民家がなく、行き止まりが多いのだ。俺は民家と民家の間のわき道に曲がりこんだ。もう頭のなかは逃げ切ることしか考えていない。
「何で逃げるんですかっ!」
げぇっ!わき道にまで入ってくる。「何で逃げるんですかっ!」だと?お前が追いかけるからだ。
俺は細いわき見とをヤツと追いかけっこしている。もういやだ、やめたい。だけど、つかまりたくはない。
そうだ、俺の頭の中の白熱電球に光がともる。アイツを止めてしまえば、俺は走らなくていい。
ならば―――。
「くらえ!」
俺はそういって道においてあるポリバケツを引き倒した。生ゴミ用だったらしく、中身が飛び散る。
「ぐわっ!?」
べしゃっ、という音がしてあいつが倒れる。手に持っていた金属性の何かが、手から落ちた。

 血だ。あの、金属製のものには血がついている。そのようすが、手から落ちてもうやく見て取れた。まさか、あいつ――――。
俺はあらぬ妄想を頭から払いのけた。
ヤツが立ち上がるのを後ろ眼にみる。めがねのレンズが片方、割れたらしい。
それをかけなおして、あの、金属製の何かを持ち上げて、猛然と走ってくる。速い、怖い。
 もう始めのひ弱なイメージはない。あるのは、恐ろしい顔をした追跡者だ。
怖い、殺されるんじゃないか?万引き程度で?
 息が苦しい、足が重い。助けて、誰か、助けて―――。
わき道を抜ける、さっきまでいたのとは反対側の通りらしい。
 俺はそれを右に曲がる。自転車にのろうとしているジジイがいる、チャンスだ。
「よこせっ!」
俺はそう怒鳴りつけて自転車をパクッた。これでまた罪が増えたわけだ。だからこそ、つかまれない。もとより、つかまるわけにはいかない。「ひぃっ!」ジジイが悲鳴を漏らす。俺は自転車に跨り全速力で漕ぐ。ふと籠をみる。ジジイめ、何をするつもりなのか、短い木製のバットを積んでいる。
 俺がもういちど後ろを振り返ると、なんと、自転車並みのスピードで、ヤツが、あのスーパーの店員が、俺を目掛けて襲い掛かってきている。
「うわああああっ!?」
 俺は叫んだ。これが恐怖だ。紛れもない。ごめんなさい神様、仏様。もう、もう二度と万引きしません。だから、許して―――。
「まっ、…待てえーーーーー!待つんだ!」
さすがに息が切れてきたらしい。やつの息も上がっている。チャンスだ!ヤツを、もしかしたら降り切れるかもしれない。いや、振り切るんだ!
 目の前に長く、ゆるいカーブが見えている。ここで振り切ってやる。俺はそう意気込んでペダルをさらに強く漕いだ。自転車はスピードを上げる。カーブの終わりが、見えてくるはずだ。もう一度ふりかえって見るがもうヤツが走ってくる姿は見えない。しかし、見えないだけ、まだ走っているだろう。
俺がこのカーブで逃げ切らないと―――、そう思って視線を前に戻すと、人がいた。歩いている。カーブの湾曲の生で見えなかったのだ。このままではぶつかる。俺はハンドルを思いっきり切った。
 がしゃーーん、と大きな音がして自転車から投げ出される俺。痛い。クソ、なんで俺がこんな目にあわなきゃらないないんだ?ああ、夕日が俺を照らす。前を歩いていたおばさんまでこちらを見ている、轢いてやればよかった。
 俺が体を起こそうとすると、ふっと俺の体を影が覆う。ざし、ざし、と靴がアスファルトを噛む音が聞こえる…まさか………
「やっと、追いついた…はぁはぁ…逃がしませんよ。」
声に抑揚がない。荒い息遣いである。追いつかれた。俺があの男のほうを振り向く。夕日で逆光になっていてよくみえないが、恐ろしい。まだ手にあの血のついた金属をもっている。顔の血は乾いてこびりついている。割れためがねの奥には光がない。
「ひっ」
俺は悲鳴を上げて後退さる。あの男はジワジワとこちらに歩を進めてくる。ダメだ。逃げないと、あの金属片で叩き殺されてしまうのだろう。

 からん

と軽い何かが指先に当たる音がした。バットだ。自転車の籠に入っていたのだろう。
「うわああっ!あああああ!!!!」
俺は叫びながらそれを引っつかむとそれでアイツの顔をぶん殴った。ぎゃあっ、という叫びが聞こえた。俺は直ぐに走り出した。ヤバイ。もうだめだ。もうバットも放してしまっていた。
ああ、つかまったら殺されるのだ。
「まっ、まてぇ!」
後ろからまたもや声が飛んでくる。もう返事をする余裕もない。俺はがむしゃらに逃げた。さきほどと同じようにわき道に入る。逃げる、逃げる。
 そして追われる。
なんだ、何なんだコレは。もう後ろを見る余裕もない。しかし、アイツは追ってきている。なぜなら、足音が聞こえるのだ。
俺はもう自分がどこを走っているのか、わからなかった。気がつけば、民家がない。人もいない。夕日は穏やかに俺とヤツの鬼ごっこを眺めている。
「まてぇぇぇええええええ…待つんだぁああああ………」
「あああっ、ひぃいいい」
俺は曲がり角を足の進んでしまった方向に曲がってゆく。ここはどこだ。俺はどこにゆく?
 こたえは簡単だった。
「行き止まり…」
思わず足から力が抜ける。
「ようやく…」
後ろから声がかかる。恐る恐る振り向くと、そこには、恐ろしい鉄片を持った男がゆっくりとこちらへ向かってきているのだ。あのスーパーはモンスターを働かせている。そのようなスーパーで万引きしたのが間違いだったのだ。俺は己の行いを悔やんだ。
「みぃつけたぁ……」
手の中の金属は、夕日に揺らめいて光を放っている。またもや逆光だ。ヤツのめがねは片方レンズがないまま、その顔に引っかかっている。口元には凶悪な笑みが浮かんでいる。目には光がない。暗闇に、飲み込まれそうだ。
「助けてくれ、お願いだ。俺が悪かった。」
 いまさらのように俺の口から言葉が漏れる。ああ、死んじまうのか?俺。
アイツはじりじりと距離を近づける。俺はずりずりと後退する。どん、と