ショートショート 絡みついた糸の先

  • 2007/01/31(水) 21:40

 
 彼女のことを思うと、夜も寝られない。いつからだったろうか、いや、そんなことは考えるまでもなく、思うまでもないことで、僕の心を引っかかっているのは、奴の影なんだ。
彼女の細い指が、大きくくりっとした眼が、彼女の明るい声が、彼女の透き通るような声が、僕の心を掴んで離さないのだ。
 もう、我慢できない。ミユキにノボルを紹介したのは僕だけれども、そんなこと、何の意味もないことなんだ。僕にとって必要なのは、ミユキなのだから。
 僕は走っていた。夕焼けに赤く染まった学校の廊下の上を、今までいえなかったことを言わないといけないんだ。

「ミユキ!」
勢いよく扉を開けて叫んだ。いつも僕らの集まる空き教室の中に彼らはちゃんといた。ノボルもびっくりしてこちらを見ていた。彼はなんとなくばつが悪そうに見えた。でもそんなことにかまって入られなかったんだ。
 僕はミユキと二人きりになろうとか考えてなかったのだ、そのまま、僕はまるでコップの縁から水があふれるように、言ってしまった。
「ミユキ…好きだ……」
「なっ……い、今さら何よ、わたしは……」
 ミユキは顔を赤く染めていた。ミユキは真っ赤になって言った。
「わたしは…ノボルのことが……ノボルのことが好きなの!トシオはいつもわたしを置いてどっかいっちゃうくせに!!今さらそんなの酷いよ!」
 ミユキが半ば叫んで訴える。哀しいけど言い返すなんてできない。いつも横にいた彼女のことを、僕はそれが普通だと、そう信じきっていた。だから、安易に放り出してしまった。でも…
「わかってる!ミユキ、僕はようやくわかったんだ……僕はミユキが好きだ…」
「やめて!ノボル、ねえ何とか言ってよ!わたしに答えて、返事を頂戴…」
 ノボルは俯いて眼を伏せていた。そして小さな声で呟いた。
「…ごめん、俺、好きな人がいるんだ……」
 ミユキが愕然とした顔で絶句した。それから、眼に涙を溜めて頭を振って嗚咽を漏らした
「ノボル、誰のことが好きなんだ?それって、一体誰なんだよ?」
 僕は我慢しきれずに聞いた。彼は躊躇するように体を二、三度振るってから、押し出すように声を漏らした。
「サヤカさんだよ……」
 サヤカさん、クラス一の才女、衆目を集めてやまず、外見ばかりでなくその性格のよさも彼女の人気を高めている要素のひとつだ。彼女に惚れていたとは―――
「知らなかったよ、そうだったのか…」
 なんともいえない気持ちになった。だって僕は彼女の好きな人間を知っているし、それはノボルではないのだ。隣のクラスの男に惚れている彼女、あの優しい笑顔はノボルには向けられることはないのだ。 
 そして、ノボルは今きっぱりとミユキをふったことになる。嬉しくもなり、何故か切なくもあり。哀しい心と希望の心の間で僕は揺れ動いていたのだ。
 
 からから…

突然のことだ、誰かがドアを開けて入ってきた。
 皆が、扉のほうを見る、サヤカさんだった。
「ノボル君…」
「サ、サヤカさん、もしかして、今のを、聴いていたのかい?」
 ミユキは放心したように、無言だった。けれども何か言いたそうにしながら胸の前で手を組んでいた。誰も動けない。
 どうしたらいいんだ?僕はどうしたらミユキを幸せにできるだろう?それはわからなかった。ただサヤカさんはその場で言いづらそうにしていたけれども、凛とした様子で言ったのだ。
「ごめんなさい、貴方とは付き合えないわ。私、吉田君が好きなの。」
「えっ…いや、うん……そうか………」
 ノボルは力なくうなだれた様子だった。ミユキがそんな…と驚いた顔をしていた。
サヤカさんは、ちょっと顔をあげて、
「彼はいい人よ、逞しくて、包容力があるわ。人望もある。そしてまじめに話を聞いてくれる人なの、私のことを色眼鏡で見たりは彼は絶対しない…」
 うっとりとした様子で語った。よほど惚れている、いや心酔しているといってもいいくらいだろう。そういう男なのだ。吉田は。
 その吉田が、開いた扉の向こうにいた。いつの間に、そこにいたのだろう。いや、多分サヤカさんが喋っている間のことだ。視線がサヤカさんに集まり、誰もが外の様子に注意を払わなくなった瞬間。
 彼と僕の眼が合った。彼は辛そうに視線を避けた。その様子に気がついたミユキが視線の先を追って、そして気がついてしまった。吉田にがそこにいることに。
「吉田君!」
ミユキの声に、皆がいっせいに振り返った。吉田はいかにもしまった、という顔をしていた。口々に誰もが吉田君…と呟いていた。
「ごめん、サヤカさん。俺は好きな人がいるんだ…」
 またか、どうしてこう人はすれ違ってしまうのだろう。僕とミユキから始まってノボル、サヤカさん、そして吉田。絡み付いて離れない糸の行き先はどうして光もつながらないのだろう。
 サヤカさんの足元に水がぽたりと落ちた。涙だった。嗚咽も、何もなかった。ただ涙だけがそこに落ちていた。
「でも、諦められないよ…!」
 気がつけばミユキはもう泣いていなかった。目元を袖口で拭っていた。
「やっぱり、ノボルが好きなの…」
「ミユキ…」
 こういうときに、どういう言葉をかければいいのだろうか。何をしてあげられるのだろう。
「吉田君…そんな…」
 サヤカさんは認められないといった様子だった。でもそれ以上は何も言わなかった。失恋のショックからか昇は何も言わなかったし、いえなかっただろう。
 吉田は顔を真っ赤にしていた。その眼はどこも向かずにそらしていた、しかし、顔を上げると下手したら舌を噛み切らんばかりに緊張した面持ちで言った。
「サヤカさん、ごめん…俺、トシオ君が好きなんだよ!」

 沈黙、ただそれだけだった。誰もが何もいえなかった。もうサヤカさんは泣くのをやめたし、ミユキもノボルも、僕も、誰もが動けなかった。
 糸の先は僕につながった。絡み付いていたの行く先は、僕のところだったのだ。
「ごめんなさい…」
 僕はそれだけ言うと、あとはもう何も言わずにそこを立ち去った。

ホモはゴメンだった。

ショートショート 人類の叡智

  • 2007/01/30(火) 21:13

 人類の叡智


 人類は行き着くところまで、発展した。それはあらゆる可能性の閉ざされた世界。人類は衰退と発展を繰り返しそして頂点にたどり着いた。
 何百種もの動植物が絶滅と発生を続けた。そして人間は宇宙の原理に打ち勝った。空中映像写映機は当然のように発明された。絶対に壊れない完全物質の開発、土に帰る新しい高分子化合物。いつまでも大気を汚さないクリーンなエネルギー、何も汚染しない工場、膨大な消費を賄う生産率、飢餓、病気、事故、その他諸々の全てを包括する科学技術に医療技術、それが人類の行き着いた姿だった。
 
 しかし、その世界が絶対的に幸せであるといえたであろうか、否、それはありえない。何かを打破すること、その闘争心は発展と共に消えた。残ったものは空虚感の中に浮かぶ虚無だけなのだ。
 昔の人間は手挽きでコーヒーをいれて、それを楽しんだ。発展した世界にはそれはない。機械のボタンに軽く触れる、ぴぴっと電子音がして最高のコーヒーが誕生する。
 食料すら、科学技術によって完全制御下で創られる。機械が土を耕す。人口培養の有機肥料、人々の志気は下がる。
 誰もが、家の中だけで一生を問題なく終われる世界、倫理観の破滅、人間はそれにすら気がつかなかった。誰もがそれがあるべき姿だと考えた。その証拠に戦争も虐めも賄賂もない、クリーンな世界、クリーンすぎる世界。まるで磨かれたガラス球。完全な物質であるかのようだった。

 しかし、あるとき一人の人間が立ち上がった。
「これは違う。わたし達の望んだ世界はこうあるべきものではない!」
 その人間は今まであった完全な棲家を捨てた。その代わりに土の地面に木で作った家を作った。野山に罠を仕掛けた。動物を取って暮らした。そのうちにそのような人間が増えた。余りあるリスクを人間としての喜び上回った。彼らはその輪を広げた。それは次第に集落となった。多くの人間が住処を捨ててそのように暮らし始めた。
 遂には国が消滅を始めた。もともと惑星にクリーンな素材で構成された国はすぐに土に帰った。土からいつしか木が生えた。人間以外の動物が増えた。
 数億年しないうちに惑星は原始の時代に戻った。誰もが過去のことを忘れた。そしてまた発展を始めた。

…………………………
……………………
………………
…………
………
……

っていう内容のことが書いてあったんですけどー」
「マジで?」

 科学者の一人が髑髏を象った水晶の塊を掲げていった。壊れない完全物質でそれはできていた、過去の発展を極めた最高科学の結晶。
 人はそれをオーパーツと呼んだ。

お題。

  • 2007/01/29(月) 22:54

 お題募集しはじめるのである。
 
とりあえず読みたいものの種類など、題材など、あったらぜひともいって欲しい。
 答えられるものから答えてゆく。

 staticallyrics@hotmail.com

へメールか、またはコメントください。


 

ショートショート 悪魔と天使とボク

  • 2007/01/29(月) 22:40

悪魔と天使とボク。

 なんたることだろうか。ボクは財布を開いて中身を確認する。お札が五枚、内わけは千円札四枚、五千円札一枚。小銭入れの中を確認する。五百円硬貨が一枚だった。なんたることだろうか、これでボクはどうやってこの一ヶ月を送れというのだろうか。
 黄金生活でもあるまいし。
 
 やっぱりボクには無理だったのだろうか。そうなのかもしれない。昔から闘争心というものがなかった。そのかわりに悪を絶対に許さないという正義の心を持っていた。だからこそ、弁護士になったのだ。体が貧弱でも、貫くことの出来る正義というものがあるということを、信じていたから。
 そしてボクは大学在学中に弁護士試験に合格した。事務所を借りて直ぐに大学は辞めた。タダでさえキツイ生活費の中からボクのために大学の費用を出してくれた両親を今度はボクが養おうと思った。
 始めはそれなりに人が来てくれた。誠実な仕事振りと、高確率の勝利率。その辺に理由があったのだろう。しかしそれは長続きしなかった。どの世界でもそうだが、いい人間と悪い人間の数の比というのものはあるのだ。
 そしてすべからく高額の金が絡む場所には悪意のある人間がたむろしているものなのだ。政治然り、弁護士然り。そんななかで僕は浮いてしまった。それなり以上の実力もあった。すぐにボクに関する悪い噂が流れ、僕に弁護依頼をする人間は減り、部下もボクの下を離れていった。落としていた目線をあげた。夕焼けが眼に痛い。ああ、今日も誰も依頼に来なかったなぁ、そう思いながら家である安アパートまでの道を歩いていた。ガソリン代節約のためにも事務所への行き帰りは徒歩だった。幸いにも距離がそんなにないのが嬉しいところだ。木枯らしが吹いて秋の様相が深まっていた。木枯らしまでもが僕を責めるようだ。そう思っているところに、

 ぴらん。

と、何かが風に吹かれてきた。それに向かって手を伸ばしてキャッチした。
「一万円札だ。」
 ボクはそれを確認してすぐに辺りを確認した。誰かがこの一万冊を落として困っているのではないか、またはこの一万円札を追いかけてくるのではないか?
 しかしいつまでたっても誰も現れはしなかった。どうしようか、僕の中の悪魔が囁く
「頂いちまえ、それがあればあるだけマシだろう?」
 その通りだ。ボクは人の弁護どころか、自分の首すら回らない状況だいうのに、何を躊躇する必要があるのだろう?そんなこと気にしててはいけない。すくなくともこの一万円札があれば、今月はなんとかなるだろう。…多分。事務所のローンはもう今月分は払い込んだしな。そうだ。頂いちまえ。それが自分、ひいては自分を頼ってくる全ての人のためなのだ。
 そのとき、天使が囁いた。
「駄目だよ、そんなことをしてはいけない。なぜなら君は正義の使徒なのだから。それが君の正義かい?そうじゃないはずだ。さあ、後はわかっているね?」
 そうだ。何を考えていたんだろうか、僕は自分の正義を貫こうと決めたのに。それを自分で曲げるなんて、あっていいことじゃない。
ボクはぐっと、拳を握った。そうだ。目の前の餌に釣られてはいけない。そえは人を悪の道へと引きずる恐怖の釣り糸なのだから。歩き出そうと、交番へ向かって歩き出そうと思った。
「待つんだ!!!今時、九千五百円で一ヶ月すごせやしないぞ!!家も失う気か!?貯金だってもう底をつくじゃないか!今までがんばった分の見返りがあったって、いいんじゃなあないのか?」

 ぐぐっ……
そうだ。そうともいえる。ボクがこんなにがんばったのに、結果がこれ?そんなことが許されていいとでも思っているのか?
 いや、違う。ボクはもっといい目にあったっていいはずだ。ボクはもう一度財布を開いて、一万円札を押し込もうとした。

 しかし、その手は天使の声にさえぎられる
「そうか、君は堕落してしまうのだな。いや、仕方がないことだろう。世の中は咎人に優しく、善人に厳しい。しかし、聖人と呼ばれた人間はその業を乗り越えて、世のために働いた、そうだろう!?さあ!自分の一番大切な心に聞くんだ、何が正しいかを」

 そうだ。
ボクは一体何を考えていたのだろうか。何も迷うことなどないのである。なぜなら答えはいつも僕の心の中に答えはあったのだから…

 ボクは一万円札を財布に押し込んだ。諭吉の顔が愛しい。
「よし、それでいい。」
 悪魔がにやりと笑っていった。ボクは更に財布から9500円取り出すと、バラバラにならないようにもっていた輪ゴムで止めて地面に置いた。
「え?」「あ、あれ?」
 天使と悪魔が戸惑う。
ボクは胸を張って答えた。

「拾得物が金銭の場合は五百円までは拾った人間のものになる、と」

 そしてボクは歩き出した。ボクの心は、そう、六法なのだから。

                     Fin.

ショートショート 栄光の男の話

  • 2007/01/28(日) 22:13

 
 栄光の男の話。

「ほぉぉぉああああああっっ!!!」
 鈍い感触が拳に伝わる。正拳突が男の顎にあたり、彼は背後に向かって吹っ飛ぶように倒れた。
「あたぁーっ!!!!!!」
 そこにすかさず蹴りをいれ、更に追い討ちをかける。血飛沫が飛散した。彼の体はまるで風に吹かれる段ボール箱のように転がった。

「カァーーーット!」
 その声と共にビデオカメラの動きが止まり、撮影クルーがわらわらと動き出す。ディレクターや監督達がビデオを再確認をしている。私のもとにはマネージャーがやってきた。
「お疲れさまです」
そんな声が私に向かって飛び交う。最後に私に蹴られた男の所に向かうと、彼は口から血を流していた。
「おいおい、どうしたんだ?」
「いえ、最後のパンチをかわし損ねまして……」
 そんなことはわかっている。無論、初めから当てるつもりだったのだ。期待の新星だか何だか知らないが、図に乗るな。そう思って撃ったパンチだった。
「悪かったな、当ったか。」
 悪びれずにそうかえすと、彼は手を振った。
「いえ、いいんです。僕がもっと気を引き締めるべきでした。」
 彼はそういうと、垂れた血を拭いて、私に礼をして立ち去っていった。今日の撮影はこのカットが最後だった。はっきり言って、私は憤っていた。始めに見たときから気に食わなかったのだ。顔だけの若手が、図に乗るなと、ちょっとやそっとの武道の経験があるからといって大きな顔をするな。そう思わずにいられなかった。
 
 何年もこの業界で一番を張ってきたのだ。それをあんなぽっと出の奴に奪われてたまるか。私が出るからこの作品だって見れたものになるのだ。それは私が培ってきた武道と演技の賜物だ。私は肩にかけたタオルで汗を拭くとスタジオから出て行った。

 次の日、今日は波止場で彼と始めて向かい合い、拳を交し合うシーンの撮影をした。それは映画の序盤であり、ここが巧くいかないと映画のバランスが崩れてしまうのだ。
 私と彼は主人公と悪役という対立しあう関係だった。
「アクション!」
 その声と共にがらりと空気が変わる。私と彼は三メートルの間を空けて向かい合っていた。じりじりと円を描くようにしながら動き、距離を狭める。
 私は間合いを詰めると、そのまま拳を突き出した。勿論、演技ではあるものの、当たれば怪我は免れない。彼はそれを左腕で削ぐように避けた。円を書くように腕を回し、多角的に突きを繰り出す。蹴りが飛び交い、拳を打ち付けあった。
 一瞬のことだった。彼が足を滑らせた。お互いの動きがスローモーションに見える。突き出した彼の腕がブレた。私は咄嗟にガードしたものの、その腕の間をすり抜けて私の顔に彼の拳が命中した。
「ぐわっ!?」
 私は後ろに向かって倒れた。尻餅をついて、顔をさすった。彼は顔色を変えることはなかった。畜生、私は奥歯を噛み締めた。私が立ち上がろうとするそのときだった。
「カーーーーーット!」
 そう叫ぶ監督の声が聞こえた。彼も私も呆然としていた。
監督は口から血を流している私に手当てを受けるようにいった。彼も何が何だかわからないという顔をしていた。
 その日の午後、あのシーンはあのまま使うということを知らされた。まさに演技を超えている、それが理由だったらしい。確かに、あのシーンは私が負けるシーンだ。しかし、あれは使わないで欲しい。そう訴えたものの、それはあっさりハネられた。なんということだろう、私のネームバリューもここまで落ちたのだろうか?それとも元からあって無きが如きものだったのだろうか。その日はそのまま撮影が終了した。
 明日で、撮影は最後だった。明日は映画のラスト、私と彼が廃工場の中で一騎打ちの戦いをするシーンだ。

「アクション!」
 メガホン越しの監督の声が響く。私と彼は昨日のように向かい合っていた。そして応酬する拳のぶつかり合い。そこまでは脚本通りにやった。そしてラスト、私たちは共に血ノリでべたべたになりながら、最後の一撃をぶつけ合うのだ。
 彼の拳が突き出される。必死の形相だった。私は足を滑らした振りをした。彼はそれを眼だけで追った。もう止めようはない。
 私はしっかりと溜めた右拳を彼の心臓目掛けて叩き込んだ。ずっしりとした、私の拳まで痛むような強烈な一撃が、繰り出された。たったの一秒間、どちらも動きが止まり、そして彼は倒れていった。
 
 どすん 

彼の体が地面に落ちたのを見て、私は歩き出す。
 振り返ることはなかった。
「カーーーーット!!!!」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様です。」
「凄い演技でしたよ。」
 口々に私の演技を皆が褒めた。そうだ、これこそがあるべき姿だ。
「おい、大丈夫か?おい!?」
 彼は倒れたまま起き上がらなかった。それに気付いたクルーが声をかけていた。誰かが水を被せたりしていたが一向に起き上がる気配はなかった。
「救急車だ!急げ!!」
 そんな怒号が響きわたっていた。彼はもう起き上がらない。彼は死んだ。私の一撃をもって殺されたのだ。この私に。

 
 それから数日が過ぎた。彼を殺したのは私だというのは明白な事実だったが、誰も私を責めなかった。撮影中の事故を誰が責められるのだろうか?そして彼の葬式が営まれた。盛大な葬式だった。
 彼がようやく大きな役をもつことが出来た映画は彼の遺作となった。それは大いに売れた。彼の命を懸けた演技を見れる、とたくさんの人間が喜んだ。
 その熱は様々な媒体に飛び火し、海外からも絶賛された。私は彼の最後を一番知る人間としてテレビ番組に招かれた。そこで彼についての素晴らしい話を強制的にさせられた。どのニュースや番組を見ても私の演技を褒めるものはいなくなった。
 悔しかった。私は栄光を取り戻したかっただけなのだ。なぜこうなってしまったのだろうか。私は彼の墓を壊してやろうと思った。大きな槌を振り上げてそれを叩き壊した。と、そのとき
「何をしている!!」
 背後から声が掛かった。墓地の管理人だった。私は不意に怖くなった、自分は何をしていたのだろうか?これが知られたら私の栄光は永久に失われてしまう。私は彼を殴り殺した。そして死体を置き去りにしてそこから走り去った。私は逃げ出していた。


 そして、今、私は牢屋にいる。逃げ切れなかったのだ。名が売れていることが仇になったらしかった。しかし、私は栄光を取り戻した。監獄に入ってまずしたことは監獄の名のある囚人を叩きのめすことだった。
 喧嘩を売られるごとに叩きのめした。今では囚人のほとんどは私に傅いていた。私は牢屋で送られた袖の下を満喫しながら考えていた。刑務所をでたらどうしようか。まあいい。後三十年もあるんだ。どうとでもなるさ。私は栄光を楽しみながら今日も眠りに落ちた。

 Fin.

ショートショート 山小屋での怪事

  • 2007/01/27(土) 23:26

 吹雪の中で。

 タカシとエミとヨウタは吹雪の山の中にある山小屋で体を寄せ合っていた。三人は学生時代からの友人同士であり、久々の休暇を利用してスキーに来ていたのだった。
 しかし山は吹雪に見舞われ、彼らは山の中で道に迷い、帰れなくなった―――平板に言うなれば遭難したのだった。
「寒いな…」
「ああ、火を絶やすなよ。この状況で火が消えたら、死ぬぞ。」
「そうね…幸いにも、薪はたくさんあるのだから、三人で話をしながら朝を待ちましょう。」
 ヨウタの言葉に後の二人も続いた。エミはタカシの手をとっていた。そう、彼女とタカシは恋人同士だった。ぱちん、と小さく火がはぜる。タカシが薪を足した。火が暗い山小屋の中を赤く照らしていた。三人はお互いに様々な話をし始めた。ふと、ヨウタが思い出したように、口を開いた。
「そういえば、この山には、雪女伝説があるんだよ…」
 ヨウタはそっと呟くように、語り始めた…

 ある親子が雪山で立ち往生を食らったときのことだった。彼らは雪山で火を焚いて暖を取っていた。しかし火の番を任された子供の不注意で火が消えてしまった。子供がどうしようかと考えていると、急に冷たい風が山小屋の中に吹き荒れ、それは美しい女の姿をとった。
 雪女だった。彼女は子供の父親のもとに近づくと、口付けをした。父親は氷付けにされ、殺された。雪女は子供と誰にも話さないことを約束に助けてやった。


「よくある話よね。」
 エミが言った。その通りだ、とタカシは続けた。うん、とヨウタも頷く。またもや、ぱちんと火が爆ぜた。ヨウタがそれに薪を加えたそのとき、
 ひゅうう、と山小屋の中に風が吹き込んだ。
「ひゃぁっ!」「何だ、何だ?」「寒い!」
 口々に三人はいった。それでも風は止むことはなく、部屋の中に吹き荒れ続けた。燃えていた火が消え、薪の灰が空中を舞った。雪の結晶がまるで宝石のように美しく降り注いだ。それは小屋の入り口で人の形を取った。
「あああああああ!」
「雪女だ!」
 雪女は真っ白の着物を振り揺らしてあるいた。歩くたびに小袖から雪の結晶が零れては消えた。
透き通るように白い肌、切れ長の眼、そして滴るように赤い血の色の唇。それは美しくも人外のものであることを物語っていた。
「おまえ、話したね?」
 雪女はそういうとヨウタを指差した。ひっとヨウタが小さく叫んだ。タカシはエミを抱きしめて庇った。ヨウタのもとに向かって雪女は音もなく歩いていった。雪女に触れられたヨウタはまるで凍りついたように動かなくなっていった。そして雪女がヨウタに口付けると、完全に動かなくなった。そのままごとん、と音を立ててヨウタは床に転がった。青白くなったヨウタは悲痛な面持ちで固まっていた。
「あれ、そなたらは愛し合っているのかね…」
 雪女はエミとタカシを見ると、にんまりと笑ってそう言った。すっと、エミとタカシを指差した。そしてそのまま戸口に向かって歩き出して、さびしそうな声で言った。
「私にも愛した男がいたものよ……いかにあるかな」
 彼女は戸口の前で踊るように雪の粉を撒き散らして消えた。
不意の消失だった。あれは夢だったのかとエミとタカシはお互いを抱きしめあって確かめた。しかし火は消え去り、ヨウタは死んだままだった。あれは現実だったのだ。
「よかった…エミ、よかった…」
 タカシはエミの体を抱き寄せて言った。私もよ、エミがそうかえした。二人が固く抱き合っているときのことだった。

 ひゅうう、と風が吹き込んできた。二人は顔を上げた。先ほどと同じように風が吹き荒れる。雪の結晶が飛び散って、きらきらと輝いた。
ごおお、と風は集束して人の形を形作った。
「これは美しい……」
 雪男だった。やはり音もなく歩いた。高く抱き合った二人に近づくと、にんまりと笑って言った。
「愛するものから奪うのがまた良い。」
 二人は動けなくなっていた。雪男は美しい顔を楽しそうにゆがめて、エミの腕を取ると、タカシの腕から奪い去った。
「嫌ああああ、タカシイイイイイ!!!助けてええええ!!!」
 エミが叫んだ。タカシは妖術な何かでもかけられたように動けなかった。
「エミイイイイイイ!!!!やめてくれ!それだけは、エミだけは、止めてくれ!!」
 雪男は物凄い力でエミを引きずっていった。眼には凶暴そうな色が浮かび、今にも引き裂かんばかりといった気色だった。戸口まで行くと、エミを外へ放り出して戸とぴしゃりと閉めた。

 くるりと向き直ると、タカシに向かって舌なめずりして言った。
「今宵は壊れるほど愛してやろう。」
 
 外にいるエミの耳に、タカシの絹を裂くような悲鳴が響いた。
          
                           Fin.

ショートショート 閉じられた部屋

  • 2007/01/26(金) 21:30


 閉じられた部屋。

「食事だ……」

 にごったような声、不快に歪む音、私が餌と呼んでいる食事が運ばれてきた。それはこの部屋にある唯一の小窓から、滑り込まされる。私は四つん這いになって、その皿に近づいた。手づかみでそれを口に押し込んでいく。同じように滑り込まされた水も皿ごと手にとって、飲む。
 それらはしかたのないことなのだ。私の体は弱りきっているのだから。餌を食べるのにフォークやスプーンが欲しい。私だって、それらの使い方を知っている。それらのことを知っている。
 しかしそれらのものは存在しない。少なくともこの部屋には。
金属製の皿に載せられた何かわからない物体をのどの奥に押し込んでいく。濁った水でのどを潤す。足りない。私の体を維持するには少なすぎる。髪の毛も伸びきっている。垢がついて、汚らしい。体もそうだ。もし激しく運動したなら私の体からは垢やこびり付いた汚れがぱりぱりと音を立てて落ちるかもしれない。匂いだって凄い。正直臭いのだろう。それらもやはり仕方がないことなのだ。私は生まれて以来この部屋以外の記憶がない。
 私は体を洗うことも自由には出来ない。ひどく狭いこの空間で、随分長い時間をすごしてきた。
十日に一度だけ、水を使って体を洗ったり服を洗ったりすることが出来る。それはトイレの横に据えつけられた洗面台で行われる。それでは足りない。私の服はもうぼろぼろだし、もう擦れ切れているのだ。
「皿を返すんだ……」
 濁った声、まるで変声機を通したように濁った声。彼が一日に一度のこのゴミ屑のような食事を運んでくる。彼は抑揚のない声で私に指示を出している。私は無言で皿を小窓から差し出した。
「すまない……いつの日にか出すと約束しよう………」
 これすらお決まりの科白だ。物心ついたころから、彼は変わらず食事を運び、皿を持ち去る。
あの言葉が実現されたことはない。
 私の知る「自由」という言葉はここ、この現実では実現しない。まるで夢のように。
私のいるこの狭い空間のなかで、薄暗く捩れている。私に許された自由というのは、排泄、睡眠、そして―――これは以外なことだが―――読書だった。部屋の片隅に分厚い本が置かれている。その中にはたくさんの話が収録、そう収録されており、それらを読むことは認められている。
 字は本から習った。言葉は彼、あの食事を運んできた彼から覚えた。
彼らは多数いるらしい。けっして一人ではない。
 小さい頃、まだ私が私自身の置かれた状況を理解していなかった頃に、聞いた声。

「今は駄目だ…まだ成功しない。」
「外に出ることは不可能だ、ゆっくりとやるしかないのだ…」
「彼女は成功するだろう………」

あれらの言葉の意味を考え続けていた。未だにわからない。何が成功し、何故外に出ることは不可能なのだろう。
 私にとってこの状況は地獄だ。寝るときも寒さに耐えながら、部屋の隅に蹲って寝ている。食事は動物のようにはいつくばって手づかみで食べる。
 私は指についた餌も残らず舐めとった。それでも足りない。
私はぺたんと地面に横になった。本とトイレ以外にこの部屋には私以外は何も存在しなかった。鉄で出来た扉、壁、床、天井、それは御伽噺の牢獄を私に思い起こさせる。入ったら二度と出ることの出来ない死の部屋。閉じられたまま、死ぬまで出ることは出来ない。
 私の頭の中にあるのは、外に対する興味だった。
御伽噺の世界では、主人公は捕らわれたり、襲われたりする。主人公達は助けてもらったり、自分自身で戦ったりと、方法はいろいろだが、最後には平和と幸せを勝ち取るのだ。多くの場合は。
 それは私にも適応されるのだろうか。

 いやだ。この部屋で死ぬのだけは嫌だ。私はぎゅうっと拳を握り締めた。そのためには戦わなくてはならない。そう思ってもう何日になるのか、それはもうわからない。昔は食事の際に滑り込まされる皿をかえさずに、自分で隠し持ったことがあった。それを毎日続ければ、一体それが何日目かわかるという寸法だった。
 しかし、あっさりとそれは瓦解した。二日目から、餌は運ばれなくなった。そして彼はいつものように言うのだ。
「皿を返したまえ、食事を給付できない………」
 その声の裏側には何があるのだろうか?ずっと考えていたが、理解できない。言いたいことがあるなら、言えばいい。それが私を絶望に追い込んだとしても、それは仕方のないことなのだろう。
 結局、彼との我慢比べに負けたのは私だった。十日目にはもう衰弱していた。餌のために私は皿を彼に返した。彼は十一日目に私の餌を運んできた。
 壁に拳を打ちつけたこともあった。そうして怪我をすれば、彼は仕方なく私の治療をするために部屋から出すかもしれないと思ったからだった。私は拳を壁に幾度となく打ち付けた。その結果骨は砕け、折れ曲がった。
 彼にそれを言うと、彼は落ち着いたように
「なら治療するのだ……」
そう言って小窓から添え木と、包帯を滑り込ませた。その言葉はまるで「壊れたなら取り替えればいい」そう言っているようだった。やはり彼らにとって私はその程度の存在なのだ。壊れたなら捨てればいい。消耗品、まるでそれは電球のようだ。結局治療は不完全だった。私の左手の指は不思議な方向へと折れ曲がっている。

 私は頬を鉄の床に押し付けている。小窓から覗く光。餌の皿を回収した彼はもうどこかへと行ってしまった。
 そうだ、彼の話をしよう。彼が誰で何のためにこんなことをしているのかはわからない。しかし、変声機を使って喋っている人間はたくさんいる。要するに何人かの人数のいる組織なのだ。そして彼らは私を飼育している。
 一度だけ、彼の手を見たことがあった。彼が小窓から皿を受け取ったときのことだ。私は小窓の向こうへと腕を伸ばそうとした。それに気づいた彼は小窓を勢いよく閉めた。半透明の小窓の覗き穴の向こう。彼の手のひらだろう。それを見た。
 突っ張ったゴムのような、不思議な表面を持っていた。それは指紋を残さないためかもしれない。
かくして、私は彼の手を見たのだった。
 その手をぼんやりと思い出しながら、私は眠りについた。鉄の床がゆっくりと私の体温を奪い去って、私を殺してくれることを願いながら。

 ある日のことだ。彼が私の部屋に餌を運びにきたときのことだった。
「ああ……あああ………」
 変声機を通した彼の濁った声が、痙攣するように呻いた。餌が滑り込まされない。
「開けなさい!」
 私は大声で怒鳴った。何故か今なら開けてもらえる気がした。どんどんと鉄の扉を叩く。不意に、扉が開いた。
あいた扉の向こうに、明け色に染まった廊下が姿を現した。床に、彼であろう人が倒れている。痙攣していた。手を空中に伸ばして、もがく。
「あかかかっ…っげかっああああ…ああああ………」
 彼が動かなくなっていく様子を見ていた。彼はまったくもって不思議だった。マスクのようなものを顔面に貼り付けていた。服はすっぽりと全身を覆い、何かから体を防護しようとしているように見えた。彼の死体を漁ると、カードのようなものが出てきた。
 私はそれを持ってゆっくりと歩いた。長い廊下の端にある扉を開けて、わたしは進んでいく。白い壁に天井近くにある窓から光が入る。
「待つんだ…!」
 背後から声が掛かった。振り向くと、彼と同じ姿の者が立っていた。私は走り出した。直ぐに息が上がり、苦しさが増していく。
 苦しい。私はそれでも足を止めなかった。つかまったら、殺されるかもしれない。それでもいい。つかまったら、今度は更に地獄のような目にあわされるかもしれない。かまうものか。私はあの部屋にだけは戻りたくなかった。
 更に長い廊下を走り抜けた。振り返れば、いつの間にか同じ人影が増えている。廊下の端にある扉を抜けると、すぐさま閉めた。息をつく暇はないだろう。私はそこにあった椅子でつっかえ棒をして走り出した。その廊下の端には、扉がなかった。その代わりに梯子がある。
  
 どんどんどん

はっと、私は振り返る。つっかえ棒をした扉が強く叩かれているのだ。
「開けるんだ!」
「開けなさい!」
 そんな声が聞こえた。しかし、私は止まる気はなかった。息苦しさは緊張と激しい運動で最高点に達していた。私は梯子に手を掛けると、それを登り始めた。上だけを見ていた。手を伸ばしては体を引き上げた。
 
 ばかん、と何かの壊れる音がした。扉の壊れた音だろうと思った。当たっていた。彼と同じ姿のやつらは群れを成していた。
「おりなさい!」
そんな声が聞こえた。私は梯子の一番上までたどり着いていた。そこにはまるいハンドルがついていた。それを思い切りまわした。ここさえ抜ければ、そういう考えがあった。 
 下を見ると、何人かが梯子を上ってきていた。私はハンドルを回した。がこん、と音がして、それは開いた。直径五十センチくらいの穴から私は逃げ出した。ここは荒野の高台の上らしい。
 私の息苦しさはもう、これ以上なかっただろう。
しかし、それよりも私にとって、外というものをみたということのほうが大切だった。大きな太陽が真っ赤に燃え上がり荒野の向こうに落ちていくところだった。万物は染め上げられ、私はそこから転がるように走り降りた。荒野の中に動くものはおらず、草一本生えていなかった。
 燃え盛る太陽の中に自分がいるような感じだった。涙が零れ落ちていた。地面にぱたぱたと落ちてはまるい染みを増やし、何かを訴えているのだ。
 美しい。
私は涙を拭った。もうぜいぜいと喉を鳴らして呼吸していた。咳き込みながら、力が抜ける体を必死で支える。しかしひざは折れて、私は腕を突いた。最後まで、太陽を見ていた。
 背後から、声が聞こえた。それが何と言っているのかわからなかった。けれども、太陽は煌めき続けていた。視界が霞み、私は眠るように倒れこんだ………


 随分昔のことだ。我々はニンゲンに作られた。劣化せず、疲れない労働力。それが我々ロボットの役割。私たちは懸命に働いた。しかし、それはどこまで行ってもロボットでしかない。そしてロボットにも寿命がある。物事は全て破滅を迎える。完全な存在はありえない。
 我々自身にロボットは作れなかった。自律型のロボットは。それらはやはりニンゲンのなすところなのだ。神がニンゲンを作ったように、ニンゲンは我々ロボットを作る。
 しかし、あるとき発生した病原体でニンゲンは死んでいった。生きたニンゲンは消え去ろうとしていた。我々は病原体をシャットアウトする小さな部屋に―――それが造れる限界―――隔離した。最大限の技術を持って汚染されていない食事や水を与えた。それでもまた一人、また一人、と消えた。病原体が消え去るまであと幾年もかからないはずだった。
「なんということだろう…」
濁ってざらついた声を仲間の一人が出した。
 彼女は最後の一人だった。それはロボットを作ることが出来る唯一のニンゲン、ロボットのマリアを意味する。

 しかし彼女は今我々の足元に倒れている。病原体は数分で人体を破壊し、殺していく。
彼女の死、それは我々ロボットの破滅を意味する。

 我々は彼女を埋葬すると、ロボットの終焉を迎えるために、歩き出した。

ショートショート 空想と音と紅茶の行方

  • 2007/01/25(木) 21:07

 ポットの中の湯をティーポットに注ぐ。ティーポットの陶器の滑らかで美しい流線型の外郭が、熱を帯びていく。

 ぶぅーーーーーーーーーーーーーーー………

 レンジとトースターの一緒になった一体型の「オーブン」の中を覗き込む。その中にはオレンジ色に染まった薄く黄色い(それはまるで人間の肌の色に似ている)生地、それは熱せられて薄いパイの皮である―――まるで孵化のように、ゆっくりと膨張していく。
 
 ポットの湯を同じようにティーカップにも注ぐ。ティーカップはポット本体よりもいくらか直線的で私はそれを見るといつも―――暗黒の星空を漂う宇宙船―――を思い浮かべる。シャトルではなく、宇宙船。衛星や宇宙ステーションの材料を運ぶあの鉄の塊。それを思い出す。多々ある直線と数を限界まで減らした曲線の融合、それに液体を注ぐ。
 まだパイの焼ける時間までは随分在るのだ。そういった空想に浸るのも悪くない。
私は薬缶に水を注ぐと火にかけた。
 ぱち、ぱち、まるでまばらに拍手が起きた観客席のような小さな破裂音、それが「オーブン」から聞こえる。ぱち、ぱち。
 舞台上で役者は何が悪かったのかと考える。題目、演技、音楽?それはわからない。客は遠慮して何が悪かったかその場では言わない。取り残されたように役者達は舞台裏に引き下がる。
 そして後日の悪評を見て、陰口を叩かれたと思い、哀しくなる。

ぴぃーーーーーーーーーーーっ!
 
 薬缶が音を出した。
私はさっと薬さじと紅茶の葉の入った瓶を取り出した。ティーポットの中のお湯を捨てる。そして、それに紅茶の葉を二杯分入れたティーバッグを―――まどろっこしく感じるがいたしかたなく―――いれた。
 
ぴいぃーーーーーーーーっ!
 
 まるで暴走した機関車トーマスのような噴煙(いや、噴煙ではない蒸気だ)を出しながら絶叫する薬缶を火から下ろす。ぴいいいぃぃぃー……急激にしぼむ音。笛口を親指で押し開けると、それはもうならなくなった。トーマスの口笛が終わる。トーマスは何を怒っていたのだろうか、いやそうではないのだ。久々に私がそれを薬缶として使ったから、あるいは今まで休ませていたのに、急に働かせたので、そうなったのかもしれない。
「そうなのかい、トーマス?」
「いや、違うんだよ。仕方がないことなんだ。使った使わない。怒った怒らないなんてこのじゃなく、それはきっと光が音速よりも速いことのようにどうしようもないんだ。」
 彼はそう言うであろう。私は空想する。湯気の量から温度を判別する。九十五度以下であることは確かだ。
 私はポットに湯を注いだ。あまった湯は捨てずに鍋に移す。その鍋に金属製のカップを浮かべて、さらにそのカップに牛乳を注いだ。
 私はポットからその琥珀色よりも更に濃い琥珀の源泉を、カップに移した。
とぷとぷとぷとぷとぷ、
ぶぅーーーーーーーーーーーーーーー………
こぽっ
 ぱち、ぱち、
 様々な音が私のいるキッチンの中に充満する。素晴らしい。私は伏せていたミッチェル・エンデの小説を再度開く。部屋の中におかれた古いレコード再生機にジャン・シベリウスのレコード(文字はもうかすれて読めない)を載せると、針を置いた。
 
 ぶつっ

 その音の直ぐ後に音楽が始まる。
繊細なピアノ、震えるようなヴァイオリンの嘆き声、ぶぅーーーーー、ブザーだ。男が言った。襟はひらひらとした時代がかった風潮であり、蓄えられた口髭が豊かにゆれる。ロココ調のテーブルの上に紅茶が置かれている。
「いけません。出てはならないのですいけば貴方は……」

 私は小説をもう一度伏せた。カップに半分ほど注がれた液体に、人肌よりやや温められた牛乳を注ぐ。

 こぽっ

 彼の紅茶の中に泡が立った。
よくないしるしだ。私は中世風のドレスに身をつつみ、彼の体に縋っている。ダメです。行かないでください。貴方を失ったら、私はもうこの世に生きる希望を失うことになるのです。

 とぷとぷとぷとぷ

紅茶の中にミルクを注ぐ乳白色が琥珀をみるみる侵していく。それはもう止めることは出来ない。
 彼は紅茶で唇を濡らすと、羽織ったマントをひるがえした。
「行かなくてはならない。愛する貴方のため。そしてこの愛の証明と天で貴方にまた見えるために。」
彼はそういった。追いかけるすべはなかった。
 私はその消えた後姿を思い返して、涙する。ぽろぽろと落ちる涙。
ああ、貴方、私は貴方の愛を受け入れることしか出来ない。貴方が生きて帰ってこの身に愛を刻んでくれると信じることが出来ない。
 許してください、この罪深いこの身を………

ぱちぱちぱちぱちぱち……
 観客席から拍手の雨が降り注いだ。幕が下りる。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち……

 そのうちにばだばだばだばだと観客が席を立つ音が聞こえてくる。
だばだばだばだばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃ………


 ばしゃばしゃばしゃ?
私がカップに眼をやると白い液体がカップのふちから零れ落ちていた。
「ギャッ!!!」
叫び声をあげて私は仰け反った。後ろに置かれたティーポットが倒れる。同時に本が落ち、紅茶の海に泳ぐ。
「あああ!!」
 散乱を防ごうと振り返ると今度は目の前にあったレンジとトースター一体型「オーブン」に肘鉄を食らわした。恐ろしい音がしてオーブンは台の上から落ちた。蓋が開き、生焼けのパイが散乱する。落とした衝撃のせいだろうか、ぶつん、という音が聞こえ、部屋中の電化製品の動きが止まる。
 レコード再生機が急に動きが止められ、きぃぃぃいいっと不快に鳴いた。
そしてようやく全ての散乱が落ち着きを取り戻した。何もかもが動かなくなった。
 私だけが紅茶の海の中から本を取り出したり、まだ熱いままのオーブンに触って「ギャッ」と叫んだりしていた。
無音のなか私の手元には膨大な掃除しなければならないものが、残った。
 
 そして空想は彼方へと消え去った。

                                             fin.



ショートショート 体液

  • 2007/01/24(水) 11:51

 体液


「ここが少女の発見された河川敷です。ご覧のように………

 テレビから排出される音、幼い少女が誘拐された事件のニュースだ。彼女は発見時には犯人のものと思われる体液のついた服を着ており、体には無数の痣があった。暴行を受けたのだろう。
 むごい話だ。
自分にはそんなこと出来ないだろうな。暴行というのは、まあ、性的な意味だ。そう思うと許せない。少女を汚していい理由などありはしないのだ。
 横を見ると、同じようにパジャマ姿の中年に差し掛かった辺りだろうか、男が座っている。
どこを悪くして入院しているのだろうか?見たところ血色もよさそうに見える。なのにこんな病院の談話室でパジャマ姿で、テレビを見ている。まあ、色々あるものだ。
 そう考えて気にしなかった。
「体液というのは生物学的には血液と、リンパ液だけをさすんですよ。知ってましたか?」
 彼はそう切り出した。彼の頭にはもう白いものが交じり始めている。柔和そうな顔が笑顔になる。
「へえ、そうなんですか。じゃあ、ニュースとかのは……」
「ええ、勿論比喩ですよ。精液だとか唾液だとか言えませんよ。」
「なるほど。」
 くだらない知識を得てしまったものだな。そう思う。しかし、入院生活も長くなると娯楽は会話とテレビくらいのものだ。話のネタなど何でもよいものなのだろう。
 ならばさっきのニュースは「少女は発見時には犯人のものと思われる精液(または唾液)のついた服を着ていた」そういうべきなのだろうか。
「ところで、貴方はどこを悪くされたんですか?」
 自分の問いに彼は柔和そうな顔を、やはり笑顔にさせて答えた。
「ええ、検査とかですよ。貴方は」
 とか?他は何なのだろうか。とりあえずきかれた問いに答える。けがをしたのだ。それで入院している。そう答えた。
 当たり障りのない会話が続いた。その中で男は言った。

「ところで、少女ですが、発見時には包丁を持っていたのですよ。」
「そうなのですか」
「ええ、それから服についていた『体液』は本当に血液です。」

 何だ、何が起こっている。この男は、何者だ?

「ところで、刺されたところはどうですか?貴方の血液ですよ。採取されたものは。」
 息を呑む、畜生。
「貴方は……」
 彼は一息おいてから、パジャマのポケットから黒い手帳を取り出した。
「ご同行願えますか。」

 宣告。少女誘拐の犯人は、ゆっくりと頷いた。

ショートショート 鏡面

  • 2007/01/23(火) 22:27

 

 鏡面。

 夜間の車の走行中に、車内灯をつけてはいけない。
つけると、車内から外へ向かう光量の方が勝り、外の様子が伺えなくなる。それはちょうど、夜に明かりをつけた部屋の窓から外を覗こうとするのと同じだ。窓には自分の顔が写りこむだろう。
 それと同じだ。鏡のように、車内だけがフロントガラスに反射して自分の瞳に映りこむ。明かりを消さないと外は見えないのだ。

 常に息苦しかった。
いつも誰かに見られているような気がしていた。そんなはずはない、自分のような人間をわざわざ人は観察したりはしない。そうわかっていた。
 しかし、常に視線を感じていた。すれ違った人間、飲食店の店員、職場の同僚。全ての人間に見られていると思っていた。
 きっと、自分のことを嘲笑っているのだろう。そして、嘲り、嘲笑し、意気揚々と私についてのことを話している。それは多分に、悪言の類だと思っていた。そう感じていた。そんなわけはない、そうに違いない。見られている。観察などされる価値もない。見捨てられている。それでもいい。
開放されたかった。
 そんなことばかり考えていたからだろうか。ある日、幻覚を見た。実家に帰っているときのことだった。家の人間すら、自分の悪いところを論おうとしているように感じていた。
 座敷から、服の入った大きな段ボール箱を運んでいた。大きな段ボール箱だったので、両手で持たなければならず、座敷の障子戸は閉められなかった。居間までダンボールを運んで、下ろした。座敷の障子をしめなければ、そう思って振り返った。
 座敷に、それはいた。小さな子供のようだった。
戦慄した。真っ黒の眼窩、原色の体、不自然な存在だった。それが、座敷の障子戸に体を半分隠すようにして、こちらを見ていた。
 怖くて堪らなかった。それは、確かに、こちらを見ていた。居間から座敷までの真っ直ぐな距離を隔てて、私とそれはまるで鏡面のように邂逅を果たした。
 
 それ以来、その幻覚と向かい合ってきた。
誰よりもそれは確実に私を見てきた。私は狂ってしまったのだと思った。それは、ふと、気がつくと物陰からこちらを覗いている。真暗の瞳、瞳孔も、白目も何もない。黒いだけの目。くすんだ肌、原色に彩られた服。どれをとっても異常だった。細い腕も、怖かった。
 見られ続けている。幻覚がそれを後押しした。悪夢のような日々のなか、それは発生した。
安アパートで禁止されているのに飼っていた猫だった。いつもは親しげにこちらを見つめる猫の視線が次第に私に寄せられなくなった。
 いつもは餌を求めて私のことを見つめる猫、いや、この言い方は少し間違っている。猫は確かに私のことを呼んだ、にゃあ、と鳴いて、私の注意を惹いた。
 しかし、餌をやる際や、頭をなぜたりしても、目線だけは合わされなかった。
そのうちに、そのほかでも同じような現象が起こった。アパートの大家が目をあわさなくなった。家賃を手渡す際もこちらの目線を合わせることはなかった。店で買い物をしても、目を合わされることがない。それらは急激に起こったわけではない。
 ゆっくりゆっくりと腐敗するように、じわじわと起こった。
会社の同僚も、誰もかもが目を合わせなくなった。そして、幻覚は消えていた。本当に狂ってしまったのだ。そう思った私は医者にも行った。医者はカルテに何か書き込みながら答える。
「どうでしょうか、見られることが辛いという貴方の深層心理がそのように周りを認識しているのだと思われます。休養をとってはどうでしょうか?体と心を休ませることです。何より、自分を大切にしてくれる人間と時間を過ごしなさい。」 
 彼の目は、私を見てはいなかった。目玉はこちらを向いているかもしれない。しかし、それは私の眼と向き合ってはいない。見つめあった視線同士というものは、確かに感覚として理解できる。それがなくなった。

 私は次第に気が楽になっていた。よく考えればこれで誰にも見られずにすむのだ。そうすれば私は解放状態でいられる。
 誰とも向き合うことない。そう思っていた。
しかし、世界は悪いほうへと転がりたがるものだ。あるとき、上司が私を叱った。こっちを見ろ、そういった。最近の君はどうしたんだ、私の眼をみて話せ。彼に視線を合わせると、彼はやはり私と目線をあわせようとはしなかった。
 そういったことが増えた。友達には「最近、お前ってなんかどこをみているのかわからないよ」そういった。しかしそれでも私はどうしようもなかった。私自身は快適だった。こちらから目を合わせようとしても避けられているのだ、私にはどうしようもなかった。
 ある日、会社のトイレの洗面台の前で、同じ部署の同僚と話をした。鏡のなかの彼と私は、絶対に視線を交じらせることはなかった。彼が手櫛で髪を整える。彼の整髪剤を借りていいか、そう尋ねると、鏡の中の彼はやはり視線を合わせずに返事をした。鏡越し、鏡面の向こう、通信回線の向こう。写真や映像などを除いて、生きた人間との視線の交流は存在しなくなった。

 そんな生活をしていると、合コンに誘われた。私だって彼女や恋人が欲しい。私はその席で会社の同僚であるサチコさんと遭遇した。まったくの偶然、お互いに別の付き合いのなかから合コンに誘われていた。彼女は酒を飲むと楽しそうに話した。実のことを言えば、彼女に恋心を寄せていた。目線を、視線を合わされないからといって何だというのだろうか。
 帰りに、彼女を送っていった。車で二人っきりというシチュエーションのなか、彼女はやはり視線を合わせたりしなかった。少しさびしく思う。恋心を寄せている相手からも見てもらえないというのは、ひどく哀しいことなのである。
「ついたよ。」
私がそういうと、彼女はちょっともじもじしてから、顔を赤くして言った。
「あ……あの、ずっと、…スキでした。」
 突然の告白だった。返事の代わりにキスをした。交際が始まった。

 清く健全な交際、そんな言葉は私の年齢になると忘れられる。しかし、それがやはり辛い。ベッドの中だろうが、キスの最中だろうが、彼女は私をみることはないのだ。
 私の心の中にあったあの見られている感覚は、誰にも見られないことと交換されてしまったのかもしれない。私は考える。それは、どれだけ辛いことなのだろうか。
 恋人や、肉親すら私を見ない。このままでは母や父などが死んだ際にも、視線を交じあわすことがないのだ。それは寂しすぎる。次第に今の状況を悲しむように、私はなった。将来子供が出来ても、子供と私は向き合うことが出来ない、視線はすれ違ってしまう。
  悲しみに明け暮れた。仕事もほとんど手につかなくなった。
誰かに見て欲しい。私はここにいるのだ。
 それを、誰かに知って欲しかった。いや、見て欲しかった。私の眼を見てくれ、私は眼を持っているのだ。それらの言葉にどれだけの意味があろうか。
 
 私は寝るために布団を敷いた。窓のカーテンは閉めなかった。朝日が入らないと目を覚ますことが出来ないからだ。窓の直ぐ傍に布団を敷いて、外を眺めようとした。しかしそこには自分のやつれた顔しか映らなかった。部屋の中が明るすぎるのだ。
 電灯からぶら下がる紐を引っ張った。
部屋の中が暗くなり、外の景色が窓から見える。
 そこに、それはいた。
窓の直ぐ傍に立ち、真っ黒の眼でこちらを見ていた。暗い眼窩、原色、腕。
 
 暗闇のなか、窓の開く音がした。


                          Fin.

ショートショート 未知との遭遇

  • 2007/01/22(月) 21:57

ザ ショートショート 未知との遭遇。

 地面全体が輝いている。それも金属や一部の岩石が持つような、そんな煌めきをもつ物ではなかった。なんというか浮かび上がるような光だった。夜に溶けるネオンのように。

 ああ、本当にあることなのだ。
昔から、宇宙が好きだった。宇宙に広がる数々の星や、銀河のことを夢に思った。小さなときは自らが設計した宇宙船を飛ばせることを思い描いた。
 特にE.Tや未知との遭遇がよかった。
ブレードランナーも悪くない。未来の世界はそんな夢物語が本当に実現しているだろうと思っていた。
 実際にはどうだっただろうか。そんなはずはない。今のところ宇宙人が地球に来たというような事例は全て捏造だと思われている。それに、こちらからも宇宙にいる知的生命体にコンタクトを取ろうとしているらしいが、多分うまくいかないだろう。そんなもの、紙ヒコーキに文字を書いて窓から飛ばず様なものだ。うまくいくはずがない。
 勿論のこと、宇宙人がいる、宇宙に知的生命体がいる、そう思っている人間も少なくない。しかし大部分の人間はそんなことは耳クソほどもあるとは思っていないのだろう。僕だって子供じゃない。
それに賛成だった。

 それをこんな形で覆されるとは……
目の前でたくさんの、まるで蛸の足のような触手を持った生物がいる。それも二体も。
 丸く、大きい頭。押しつぶされたように縦に短い胴(だろう、)足も手を何本もある。大きな黒いだけの眼球が、こっちを見ている。そして、理解できない言語で何かを言った。ごわごわとスポンジを通したような声、意味不明の言葉の羅列。
「@(^$+|!#><:&*☆?」
「え?え?何?」
 僕は身振り手振りでわからないということを知らせようとした。しかし、それすらも通用しないようだった。わからないということを伝えるために首をかしげて見せる。
 目の前の宇宙人(そうとしか思えない)は向き合って、ひそひそと何かを言い合っているようだった。
そしてもう一度、僕に向かって喋りかけた。
「@(^$+|!#><:&*☆?」
もう一度、僕は首を傾げた。彼らはもう一度ひそひそと話し合った。僕には言葉が通じないのだから、意味はないのだと思うけれど。
 彼らは頷きあい、そして服の中からL字型で銀色に煌めき、先端に穴の開いたものを取り出した。それを僕の方に向ける。

 レーザーだ

 直感した。この筒の先からレーザーが出るのだ。勿論何らかの理由によって拡散したりはしないのだ。そうに違いない。僕と意思疎通が出来ないから、または何か僕の及びつかない理由があって、僕を殺そうというのだろう。殺して研究したりするのかもしれない。
 そう思うと、動けなかった。
畜生。夢にまで見た宇宙人との遭遇は、僕の死によって終了するのだ。なんということだろうか。
「*&^@%!!>+★*♪Й?」
 やはりわからない。僕は怖かった。一言も喋れなかった。そのレーザーが僕のほうに向けられる。
「ひいいっ!!?」
 僕は後ろに恐怖からのけぞるようにして倒れた。
彼らは呆然とした様子だった。僕は失禁していた。仕方がないと思う。だって、殺されそうになっているのだ。
「&%$_#*%?><+★………」
彼らは顔を見合わせて、肩を落としていた。
 その様子は道を聞こうとして避けられる外国人のようだった。エイリアンと呼べる時点では同じだ。

 彼らはそのレーザーを服に仕舞いなおすとたくさんの足を起用に動かして去っていった。
最後に僕のほうをちらりと見ると、しゅっと体が縦に伸びるように光につつまれて、消えた。それと同時に周りの光が消え、上空に浮かぶ巨大な宇宙船がグォングォンと音を立てて遥か宇宙の向こうへと旅立った。
 その場には、失禁している僕だけが取り残された。
助かった……この言葉に尽きる。よかった。後数十年は未知とは接触したくない。少なくとも死ぬまではしたくない。そう思った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
「なあ、さっきの宇宙人、すごかったな。」
「ああ、まったくだ。宇宙公用語も通じないし、手は二本しかないし。」
「足もだよ。それにあの服、確かに偏狭惑星だよな。」
「まったくだ。それにしても燃料は手に入らなかったな。あとどれぐらい持ちそうなんだ?」
「大体五百光年くらい持ちそうにない。」
「…まあ、その途中にはあるだろう。燃料スタンドくらい。」
「だな…それにしても、身分提示証もわかってなかったな、あいつ。」
「本当に、あの星の生命体が宇宙に出れたってのが不思議になるよな。」
 そういうと、彼はたくさんあるうちの手の一本を動かしてL字型の銀色の筒を取り出した。それに手を伸ばすと、ぱっと宇宙公用語で身分表示の立体映像が出た。
「さて、そろそろワープするか。」
「おう。」
 彼らはそういうと宇宙船のパネルを操作した。光につつまれて、宇宙船は跡形も無くその場から消えた。

ショートショート ミラーの向こう

  • 2007/01/21(日) 23:30

 誰だって、幽霊を本当に信じているわけではない。
そうだろう?
 俺だってそうだった……


 俺は、タクシーの運転手だった。会社があるのは四十万という市だったのだが、いかんせん過疎がすすんでいて仕事は少なかった。
そのために隣の市まで足を伸ばすこともあった。もちろん、あまりいいことじゃない。ガス代は高いし、隣の市のタクシー運転手には疎まれる。
何より嫌なのは、市と市の間にある山を越えなければならないことだ。それでも行かなければこちらの生活がたちいかないのだから、仕方がなかった。
まあ、女房も俺がいないときは男を家に上げているなんてことを考えだすと、そんなに頑張らなくてもいいかなとも思うけどね。

「はい、お釣り。」
 俺は腕を伸ばしてお釣りを渡してやる。つり銭を受け取った
男なんて、俺の車の後ろで女の胸まさぐってやがった。よくあることだ。本番が始まらないだけマシだと思おう。
話がそれたな。あの道だよ。あの山道は曲がりくねってカーブが多い。しかも狭い、視界も悪い、良いところといえば隣につながってるってところくらいだっていうから笑わせる。いつからだったかな…幽霊がでるなんて噂がたったんだよ。珍しくもない。狭くてくねって視界もわるければ、事故も起きるだろうさ。
そんなだし、山道を越えるから、トンネルもある。トンネルのなかだよ。出るってのはさ。同業者のなかにもそんなものを見たっつって、あの道を通らないやつも多い。
 笑わせる話だよ。
だから俺は気にしたことはなかったね。
その日も、俺は隣の 市まで行ってたんだよ。いい客の多い日でね、遠くまで足を伸ばしたもんだからすっかり遅くなっちまった。暗い山道だからね。景色といえば標識とガードレールだけだった。走り慣れた道だから何の心配もしてなかった。ラジオから流れる演歌なんか聴いてたよ。少ししたころでガードレールに突き刺さるみたいになった事故車があった。
その時は気にしなかった。
その先のトンネルに入ったときだ。女が歩いてた。後ろ姿だけで綺麗だってわかるくらいの美人。ミラーをみても後続車がいなかったし、せっかくだから、車を止めて誘ったんだよ、
「乗りなよ」
彼女は何も言わずに乗り込んできた。美女とのドライブに演歌は邪推だからラジオも切って、メーターも回さなかった。
「事故ったのかい?」
俺が聞くと彼女はまた頷いた。薄着だった、白い肌に赤い服は目立っていた。
「怪我してないかい?」
俺が何聞いても頷くばかりで、バックミラー越しの会話が変わったのは、俺がこう聞いたときだ。
「何処まで?送ってやるからさ。」
 乗り掛かった船だ、俺は駅前ではい終わりというつもりはなかった。
道はちょうど反対車線側が崖、でこっちがコンクリートで固められているところへ出たときだった。前も後ろも車がいなくて、静かな夜だ。なんとか美女と話がしたくもなるってもんよ。
「家…出てきたの…」
 彼女がようやく喋った。なんだって?俺が聞き返すと、彼女はあわせていた服の前をはだけて見せたんだ。
…ひどかった、首には絞められたような跡があった。
それだけじゃない。どす黒く変色した痣がいくつもあるわ、まだ血の滲むような傷さえあった。
「どうしたんだい?それは」
俺の言葉に彼女は絶叫した。
「どうしたですって!?彼よ、彼がやったのよ!!首を絞めて、お前がいなければって!!お前なんかいなくなれって!!」
俺は動揺した、もし暴れられたらたまったもんじゃない。
「やめろ!騒ぐんじゃない、落ち着いて」
 俺の言葉などもう耳には届かないようだった。彼女は肩を震わせて叫んだ車内中に響き渡る音量だった。びりびりと響いて一瞬こっちがおかしくなるかと思った。
「おい、聴け、やめろ。いいか、やめるんだ!」
 俺は怒鳴った。このままで行くと、一体何が起こるかわからなかった。それに、今何か起こってここで事故をしたら、崖から落ちて死んでしまうだろうと思った。
「いや、いや、いやあぁああああ!!!」
 叫び声が痛々しく響く。彼女は助手席のシートにしがみついて、がりがりと爪を立てていた。怨念の塊のようだった。どれだけ男のことを愛したのだろうか。自分には理解できない。
「大丈夫だ、大丈夫、だから落ち着いて!」
 そう言葉をかけながら彼女を制しようとした。無駄だった。彼女はシートとシートの合間に顔を出して「見て、見て、こんなにされちゃった…見て!!!」そう言ってはだけた服の下に見える傷は痛ましかった。ミラーに移る彼女の顔はまさに鬼のようで、振り乱した髪の毛が顔にかかり、口に入ろうとも気にしない様子だった。手を伸ばして自分の肩に触れる。
「ひっ!?」
 思わず叫んでしまった。一瞬の静寂があった。彼女はふっと、放心したような顔になって、私の肩に手を掛けて爪を立てた。
「見て,見てよぉおおおおお!!!」
彼女は自分お体をがりがりと爪でかく治りかけた傷口が開いて、血が出る。
 トンネルで拾った女にこんな目に合わされるとは思っていなかった。幽霊ではないはずだ。しかし、この状態は一歩間違えば死ねる状態だった。
 ぐらぐらと体を揺さぶられてハンドル操作もおぼつかなくなった。
「離すんだ!」
 俺は彼女を突き飛ばした。どん、と彼女の体がシートに押し返された。ハンドルを握りなおした。まだもうちょっと先まで崖が続き、その先はまたカーブしたトンネルがある。それを抜けると、更に大きく湾曲したカーブがあるのだ。
 
 後ろにぐん、と引っ張られる。俺の服の襟を彼女が引っ張ったのだ。「かっ…」首が絞まって苦しくなる。彼女は力任せに私の体を引き倒した。彼女が顔を近づけて
「見て、見て…」
 そう言う。怖かった。幽霊なんて物の数にも及ばないだろう。それは物理的な死が結びついていた。彼女の白く細い指が首に絡められる。首を絞められる。苦しくなりもがいた。がしゃん、と体がメーターにぶつかった。おいてあったコーヒーの缶が落ちる。
 苦しさに絶えながらハンドルをきった。ざりざりとコンクリート壁を突き破って生えた雑木と車体がすれた。もしここで、このスピードで、この壁にぶつかったとしたら車体は弾かれて、崖下へと落ちるだろう。
 それだけは避けなければならなかった。
俺は半ば倒れた状態の中でブレーキを踏んだ。しかし、ブレーキペダルが下がる感触は無かった。
しまった、さっき落とした缶のせいだろう。下り坂になっていることもあって、車のスピードは落ちない。サイドブレーキを引ける体勢でもない。
 彼女の指はめりめりと首にめり込んでいく。苦しさで視界の端がかけていく。あと、少しで崖が終わる。
 残った力を振り絞って俺は彼女の腕を掴むと爪を立て返した。
彼女の爪がそれに呼応したように食い込んだ。しかし一瞬、彼女の指が緩む、大きく息を吸った。やっとのことでようやくカーブに入った。
「もう、もう嫌、私が、彼は彼が、見て、ねえ、見て!!私を見て!!!」
 彼女は体を乗り出して私の腕に噛み付いた。皮膚が裂ける感触がした。猛烈な痛みだった。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
 叫び声をあげた。彼女は食いついたまま、首を振っていた。ぶつ、ぶつ、と皮膚が更に裂けていく。
「やめろ!やめろおおおぉぉぁあああああああああああああああああ」
 噛み付かれていない方の手もこのカーブでは離すことは出来ない。ひたすらに叫ぶしかないのだろうか。彼女の指からも血が出ていた。爪が剥がれたのだろう、真っ赤に手を濡らしていた。
 トンネルの幽霊のことも、あながち嘘ではないのだな、何故かそんなことを思い出した。
それと同時に、妻のことも。そう思うと殺されるわけにはいかなかった。

 あっという間の出来事だった。
シートの下側にある後部扉を開けるレバーを引き上げていた。それから、彼女の体を車外へ押し出していた。

 開いたドアから彼女が吸い込まれるように消えた。
トンネル内の壁に体を打ち付けて地面へと落下した。その様子を体ごと振り返って確認した。地面に倒れて動かなくなる彼女の姿が、トンネルのカーブで見えなくなるまでずっと、見ていた。
 今にも立ち上がってくるのではないかと怖かった。
そして、視線を前に戻すと、そこには――――――――――――




―――――なあ、知ってるか?この道の幽霊話をさ、
―――知ってる、あれだ、絶叫タクシーだろ?
―――――そうそう。男が絶叫しながらトンネルを突っ走って来るやつ。
―――ああ、最後はトンネル後のカーブのところで、曲がらずに真っ直ぐ進んで消えちまうんだよな、あれ。
―――――うん。恐怖したような顔で、絶叫するんだって。
―――本当に来るのかな…
―――――さあ……だけど、見たくはないな。

                          Fin.

  • 2007/01/20(土) 22:39

今日はたくさん電車に乗った。
久しぶりの電車なので楽しい。こんなに楽しい思いをしたのがいつ以来かもう思い出せなかった。そういえば今日は何時間ぐらい電車に乗ったのだったろうか。
思い出せない。
それに、何故電車になんて乗ったろだろうか。何もかもわからない。

…ポケットの中をさぐると、財布が出てきた。その中に免許証が入っていた。その人物がだれかわからない。
と、いうか小生はだれなのだろうか?
ここはどこなのだろうか。家主が出てこないところを見ると、別にいてもよいのかもしれない。
段々眠くなってきた。部屋の反対側にある布団で寝ようと思う。
ところで、この文章は何のために書いているのだろう?
わからないまま送信してみることにした。明日はなにか思い出せたらいいと思う。

涙が出ちゃった…

  • 2007/01/19(金) 21:54

 
 今日は涙してしまう出来事があった。
かなりの衝撃だった。あんなことがあっていいのだろうか、小生は考えた。
 それにはちょっとしたエピソードがあるのである。
小生が庭で佇みながら「練炭…練炭…」とつぶやいていたときのことである。
 妹の部屋から「ボローン、バロローーン」と壊れたピアノの音が聞こえてきた。小生が向かうと、妹はピアノに友達と向かい合いながら、困った顔をしていた。
「どうしたのであるか?」
小生が問うと、
「音が変なのである。」
妹は言った。小生はそのデジタルピアノに据えられたアンプを弄った。多分アンプがおかしいのだろうと思ったからだった。
 しかしいくら弄っても音は治らなかった。何故だろうかと思いながらデジタルピアノの下に置かれたアンプを弄りまくった。ピアノの下は暗く、視界はコードやらなにやらに阻まれて悪かった。小生がまだ触っていないVOというノズルに手を掛けた。グリグリと回していると、上で妹が何やらピアノに触ったようだった。

 グゥウォォオオオオオン

事故のような音がした。ノズルはボリュームのノズルだったのである。アンプはスピーカー一体型だった(普通は想なのかもしれないが、小生はよく知らないのである)。
アンプにめいいっぱい顔を近づけていた小生。顔の左側半分をアンプにこすり付けるような体勢だった。
 そのため鼓膜に恐ろしい衝撃を受けた。小生は一瞬「ギャッ」と叫び声を上げて、アンプから逃げ出した。
 ぽろり、と左目からだけ、涙が出た。ジンジンと痛む鼓膜、小生はポツリと漏らした。
「涙が出た、左目オンリーで。」
 それを聞いた妹とその友達は笑っていた。
 畜生、お前らに、涙は無いのか、そう思った。小生は妹の首を捻りきってサッカーボール代わりにする計画を立てた。しかし小生、そこは大人らしく「ははは」と笑って堪えた。

 そんな妹思いの話。



無い。

  • 2007/01/18(木) 22:42

 かくことがありません。仕方が無いので、何か手近にあるものを見て、それから話を引っ張り出して、ショートショートを書こうと思います。

えーと…

 えーっと……くそっ…なんでだ……!?頼む、頼むから…俺にはお前が必要なんだ…

 頼むから…

 しかし、それは元通りにはならなかった。彼の横に立つ人物が口を開く
「どうしてこんなことをしてしまったんだ……」
「わからない…わからないよ…でも、でも…」

話は十分前に戻る。
 これは事実にもとづいた物語。
物語は小生から「彼」にうつる。彼の名はヒデキという。それは彼と彼の友人、テツルが部屋にいるシーンから、はじまる…

「おいっ!おいっ」
ヒデキが私を叩いた。がんがんと揺さぶられて私の頭は右へ左へ行ったり来たり。顔の造形はもうおかしくなっていた。
 テツルはそんなヒデキの横に来ると、同じように叩いた。声は出せなかった。足元からぐらぐらと揺らされて、もう立ってもいられない。いつからこうなってしまったのか、もう思い出せない。
 ああ、やめて、出会った頃の貴方はそうじゃなかった。ヒデキもテツルも、私を大事にしてくれたのに…今は何で私を殴るの…?
 テツルの拳があたった。テツルは忌々しそうに顔をゆがめると、
「もういいよ、俺コンビニ行ってくる。そのほうがマシだ。」
 そう言って彼は踵を返して出て行った。薄く汗の染みた彼の背中を私はもう動かすのも辛い首を振って、見送った。夏の暑さは部屋の中にまで、入り込んで侵食する。
「ちっ…テツルのやろう、逃げやがったな…」
ヒデキは色々と細々とした文字の書かれたノートを開いてやにやら書き込んでいた。私を殴るのには飽きたらしい。
 よかった。安堵から声を出そうとしたが、がりがりと割れたような声になってしまった。
 ヒデキが私のほうを振り向くと、いらいらとした口ぶりで「うるせぇ!」と怒鳴りながら拳を振るった。

 ごきん。

と何かの壊れるような音がした。
 その後に続いて、私は床に倒れこんだ。今までに無いダメージだった。もう体は動かない。それどころか、もう声も出せない。私は死んだのだろうか。
 ヒデキははっと、した顔になって頭を手で押さえた。彼は私を支えて立ち上がらせようとした。ぺたん、と私の体が座り込む。彼は私の体を揺さぶって声をかける。私は動けなかった。昔のように大切にされたかった、しかしそれももう叶わない。
 テツルの部屋の真ん中で、ヒデキがうろたえる。
「どどど…どうしよう…どうすればいいんだ…?」ヒデキはうろたえながら、部屋の中を行ったり来たりした。
 私は床に倒れたまま、彼のことを観察していた。
ヒデキは何か思いついたように、テツルの机をあさくって、何かの工具を引っ張り出しているようだった。
「こうするしか、こうするしかないんだ…」
ヒデキの影が、私を覆う。死んだ私の体は、ばらばらにされてしまった。
 
 十分後、
「どうしてこんなにしてしまったんだ…」
 テツルがコンビニの袋を提げながら、ばらばらになった私のことを見ていた。
「だって、壊れちゃったからさ…」
ヒデキが申し訳なさそうに言う。ファンの部分を持ち上げて、テツルが言った。
「仕方ない、がんばって直そうぜ、扇風機だって、高いんだからさ。」
ヒデキは「おう」と返事をしてバラバラになったモーター部分を持ち上げると、折れたネック部分を繋ぐために針金を持ってきた。
 
 そう、私は扇風機。

十年以上、彼らと共に過ごしている。
 寿命はもう直ぐそこまで来ている。そして、多分彼らは自分達の手で治した私を、今度こそ私が壊れるまで、大切にしてくれるのだろう。

 私は眼を閉じると、彼らに体をゆだねた。
耳に障るせみの鳴き声が、やけに嬉しく感じた。

ショッカー

  • 2007/01/17(水) 23:51


 皆さんはショッカーって知っていらっしゃるでしょうか。
もしかしたら知らない人も多々いるかもしれません。仮面ライダーの一番初めのヤツに出てくるのです。
 
 いきなり何かって言うと、今日は皆さんに仮面ライダーのことを知っていただきたく思ったのです。

 小生、昔っからライダー者が大スキです。自転車にのって友達を轢いた理由が「ライダーごっこ」だったくらいに好きなのです。
 その仮面ライダーですが、昔は今のライダーよりも強かったって、知っていますか。
 
 今のライダーは軟弱なのです。弱い。はっきり言って、弱い。

というのも、昔のショッカーの強さを知ればそれがわかるのです。
 ショッカーというのはまあ、敵側のザコのことでして「イーーーーッ!!」と雄叫びながらあわられるのです。
 それがまた、数の多いこと多いこと。

今時のライダーは直ぐ変身して戦うのですが、昔のは一味違う。変身せずにそのまま生身のまま、戦うのです。
 二年ほど前でしょうか、衛星放送をつけると、仮面ライダーがやっていたのですが、あるシーンで小生思いっきりびっくりしたのです。


 なんとザコ兵であるショッカーの蹴りで、コンクリートタワーがぼっきりと折られたのです


「ええっ!?」
小生は素っ頓狂な声を上げて画面にかじりつきました。そのうえライダーがその蹴りを片手で受けて、ショッカーをちぎっては投げ、ちぎっては投げするのですから、驚きは倍増です。

 しかも、まだ変身してないし。

それだけで昔のライダーの強さが知れます。

 すっげぇ。ライダー、やっぱりカッコイイ!!
童心に変える小生。

 ああ、それから、ショッカーですが、番組中では「イーーーーッ!!」しか言わないのですが、実は喋れるらしいのです。 

 それを知ったのは小生の友達が持っているゲームソフト(名は忘れた)のワンシーンでした。
 そのゲームソフトは少々変わっており、主人公は悪役で、強敵のライダーを作戦を使って倒せ、というものでした。
 それだけでもう大変。

勿論主人公は悪役ですので、罠なんか仕掛けるわけです。手下のショッカーつかって。
 ショッカーは罠を仕掛けてアジトに戻ってきて一声。

「イーーーーッ!!罠の設置終わりました!」


もう、見た瞬間に「ブフッ!?」ってなりました。その「イーーーッ!!」って挨拶だったのか!? 
 そんなネタだら気の昔のライダー。
小生は大スキです。たまらん。

  
 今のライダーにもあれくらいの笑いが欲しいですよ。(だんだん違う方向へ)

ショートショート ゆらめく角砂糖

  • 2007/01/16(火) 22:51

 ゆらめく角砂糖。


 ―――――角砂糖をティースプーンにのせて、そっと紅茶に浸していく。みるみるうちに角砂糖が紅茶色に染まって、犯されてゆく。紅茶色に溶けたそれをスプーンごと傾けると、ゆっくりとカップの中へ流れていった。
 消えそうで消えない、角砂糖だったもの。カップの底で、ゆらめいていた。


「ねぇ、紅茶いれて」

 彼女が唐突に言う。僕は立ち上がると狭い部屋のなかを歩いてティーセットを用意する。
いつものことだ。彼女はいつも唐突で、わがままで、自分勝手で自己中心的なのだ。
 今朝もそうだった。僕が惰眠をむさぼっていると、やはり唐突に携帯電話がけたたましく鳴り響いた。フリップを開いて通話ボタンを押し込む、聞きなれた耳あたりの良い声が鼓膜を叩く。「九時にいくから。」彼女はそういうと、更に唐突に電話を切った。そのとき携帯の液晶画面には角ばった文字で「8:42」と表示されていた。

「シナモンは?」
 僕はティーセットからコップとソーサー(受け皿)を取り出した。いつものようにミニ・テーブルを引っ張り出してベッドの前にセットする。
彼女は何をするでもなくベッドに腰掛けて足をブラブラとさせていた。
「いらない。」
「そう。」
 自分の分のシナモンとコルク蓋の瓶にはいった角砂糖を取り出す。
「ねえ」
「なに?」
僕はオレンジペコのティーバッグを用意しながら答えた。彼女はブラブラさせていた足で僕のふくらはぎのあたりを器用にさすりながら続ける。
「Chase After Rainbowsって、どういう意味か、わかる?」
「ううん。でも『虹の後を追う』じゃないんだろう?」
「うん。でも、考えて。」
 僕は彼女の足から距離をとった。くすぐったがりの僕にとって、あれは拷問だった。しかし、そんなことは彼女には関係ないのだ。
 カップにお湯を注いで、ティーバッグをいれる。それをソーサーで蓋をする。安い紅茶を少しでもおいしく飲むための技法のひとつだった。
「じゃあ、大ばか者、とか?」
 僕が答えると、彼女は笑った。何がおかしかったのだろうか、追いつけないものを追いかけるなんてこと自体馬鹿らしいのではないかと思ったのだけれど。
 僕が彼女の横に座ると、彼女は体を傾けて、僕の方に頭をもたれさせる。これは彼女の甘えるときのポーズというか、姿勢というか、まあ僕にとっては予兆みたいなものだ。
「違うよ。夢想を追うって意味なんだよ。」
「ふぅん……」
僕が興味なさ下に頷くと、彼女は「うんうん。」と相槌をうった。夢想を追うか…叶わないことに、何の意味があるのだろうか。僕にはわからなかった。
 ときたま、彼女はひどく大人びた顔をする。汚い噂も流れてくる。それらを僕は聞き流していた。彼女にとって、僕とは何なのだろうか。彼女は僕に昔の話をしたりはしなかった。僕も問い詰めたりはしなかった。
 僕はそれらについて興味が無かった。知らなくても彼女はきっと彼女のままだろうし、知ったとしても彼女が彼女でなくなるなんてことは無いのだから。
 でも本当は違うのかも知れない。知りたくないから、知らなくてすむならそれでいいと、そう思っているのかもしれない。僕はカップの上のソーサーを取りあげて、自分のカップにシナモンを落とした。
「砂糖は?」
「ん……二つ。」
 彼女は目をつぶって、僕の肩の上で気持ちよさそうにしていた。
僕はスプーンの上に角砂糖をひとつ乗せると、ゆっくりと紅茶に浸した。紅茶色にゆっくりと染まる砂糖が、ゆっくりとスプーンの上で溶けていく。僕がスプーンを傾けると、砂糖の塊はカップの底へ落ちていった。透明はゆらめきが、カップの底に現れて、ゆらめいて、消えてゆく。
僕は彼女に話しかける。
「Promise the moonって知ってる?」
「ううん、何?」
 彼女は体を起こして、自分で紅茶に最後の角砂糖を落とした。角砂糖が、ちゃぽんと水面に消える。
「考えてよ。」
 僕はシナモンを抜き取りながら、言う。たまには良いもんだ。こうやって彼女と並んで紅茶を飲むのも。彼女はティースプーンでカップをかき回してから
「それよりさ、私のこと、スキ?」
 やはり自分勝手だ。僕はそれについては何も言わなかった。ただ頷いた。だけど、彼女のこういうところがスキだった。スキだといって欲しい、愛してると言われたい、抱きしめて欲しい、彼女はそれらを口にする。率直に、素直に。そういったところがスキだった。
 彼女が居なかったら、僕はどうなっていたのだろう。彼女に会うまでの僕は、まるで死人だった。笑顔も、楽しみも、何も無かった。そんな僕を、こうして救ってくれている。
「ねえ、ちゃんと言って。」
彼女が僕の服を掴む。
「スキだよ。」
「うん、私も」
 笑う彼女の顔が、僕にとってたった一つの太陽だった。彼女が指し伸ばした手を、掴まずにはいられなかった。甘えているのは僕のほうなのだろう。何もいわないから、聞かないから、そのままでいい。そうやって、彼女に甘えているのだ。
 ティーカップを傾けている彼女の横顔、薄く紅潮しているようにも見える。僕もそれにならって紅茶を口の中へ流し込んだ。
「さっきのさ、『まもれない約束』って意味なんだよ。」
 僕が言うと、彼女はカップを置いて言った。
「ねえ…私のこと、ずっとずっと、愛してくれる?」
「うん。ずっと愛してあげる。」
 僕の返事はやはり可笑しいようだった。彼女は笑い出して、カップを持っていなくて良かった、と言った。それに続けて。
「まもれない約束なんかいらない。夢想だってそう。でも…」
「でも?」
 僕が鸚鵡返しに問うと、彼女は紅茶を口付けて、
「ひとつだけ約束して欲しいな。」
「何を?」
「さっきのスキだけは本当だって、約束して欲しい。」
「スキだよ。」
 もう一度言うと、彼女は僕に言った。
「大スキだよ」
 彼女の言葉の一つ一つが、嬉しかった。僕は夢想も叶わないような約束もいらない。それらはきっとまだ白い角砂糖と一緒で、本当に欲しくなったときには、紅茶の中に溶けてもう見えないのだろう。
 もしかしたら、それはカップの底でゆらゆらとゆらめいているかもしれない。けれども、本当にそこにあるのかどうかなど、きっとわからない。
「僕もだよ。」

 彼女にそっと接吻ると、紅茶の甘い味がした。
                      Fin.

将来の夢。

  • 2007/01/15(月) 23:28

 
 今さらですが、有栖川有栖を読んだ。
ものすごい構成力と、度肝を抜くアリバイ。それ以上に無理の無いストーリーに脱帽。日本の推理小説の金字塔だと考える。しかし、金字塔って何なのだろうか。どんな塔なのだろう?オベリスク?尖塔?一体何処に建っているのだろうか。それに辞書で引いてもどの方角から見ても四角錐のピラミッドにみえるものとかいうことしか描いていない。それじゃあ、何か分からない。説明してくれ。

 いや、違うのだ。そんなことが言いたいんじゃない。すごいトリックですねって、思っただけなのだ。
 今読んでいる有栖川先生の作品は有栖川有栖が「犯罪臨床学者」の火村と一緒に事件のミステリーを解いていくシリーズの第一弾。ロシア紅茶の謎である。
 それにしても切り口がすごい。
何作か読めば基本的なその人の作品の描き方というものが見えるのだが、それすらもすごい。

 びっくりしすぎて、もう字が読めない。片仮名もヒラガナも漢字もCan't understandである。
それにしても、小生、有栖川先生のことを女性だとばかり思っていた。それは多分において名前のせいである。

 乙一氏の「小生物語」にも女性のような書かれかたをしていたからというのもある。男性だと知ったのは、ほんの内表紙に著者近影が載っていたからである。ショックで目の前が真っ暗になる。



 それから、昨日の天使がやってくる作品〜〜ですが、多分「天使の巣」という作品だったような気がする。
 その作品思い出すと、別にパクリとかなんとか言われるような作品ではなかった。良かった。自己完結したために誰の手も煩わせることは無かった。それだけで満足である。
 
 これならこの話の続きが書ける(書くならば)し、パクリとか言われて後ろ指差されることも無いわけである。

 それにしても、EGG氏、何が言いたいのだ。コメントが不明瞭すぎる。君は今度「ラジオジャミング〜」みたいな作品を書こうとしていたのかい?
 それならば、ぜひパクってくれ。なんならもう一度、脚本を書いてもいい。漫画化してくれ。むしろしてください。
 なんなら話を考えてみたい。
自分に出来ない表現方法で表される自分の世界が知りたい。っていうか雇ってください。アシスタントでも下請けでも靴の裏でも何でもなめます。死ねといわれれば死にます。むしろ君なら小生を殴る蹴るの暴行を加えて楽しむでしょう!一体小生が何をしたというのですか!!何故ですか。何故こんな方向に話がそれてしまうのですか。
 オチのつけようがありません。雇ってくださいまでは本気です。

 ああ、屋久さん、そういえば小生には昔、ちゃんと小生のことを見てくれる人が居て、その人のことを大切に思ったものです。
 しかし、その人もやっぱり変わり者だったのです。
わがままで、強気で、そのくせ甘えたがりで、姫様っぽくて。

 多分、その人のことを思い返しているのです。確かに小生にはそのような人が居て、その人は小生にとって天使であって、そして今はもう傍にいない。それでも小生は手に残った暖かさをこぼすまいと、手を握り続けているのです。


 因みに件の漫画家は桂正和ではありません。

 

π。

  • 2007/01/14(日) 23:20


敬していた漫画家の代表作が「おっぱい」についてしか描かれていない作品でした。
 
 ショックで眠れなくなった。

 それはそうと、昨日載せた「ラジオジャミング・エンジェル」なのですが、何故だかどこかで同じような話を見たような気がします。

 どこだったのでしょうか………思い出せません。

誰か知ってたらそっと小生に教えてください。
 
 それにしても、ただ面白い、っていう意味だけではここの小説の中で一番かもしれないな「ラジオジャミング・エンジェル」

小説 ラジオジャミング・エンジェル 下

  • 2007/01/14(日) 10:20


 ベキン

と音がした。
俺の拳は彼女をすり抜けて後ろの窓枠にヒットしていた。
「ぎゅああぅっ!!?」
『残念賞〜〜あははははは〜〜』
 このアマ…!!いやそうじゃなくて、す、すけた…
痛くなった拳をなだめながら彼女に向かって手を伸ばす俺、
「ほりゃっ!」
手を横に無いで彼女にさわろうとするが、まったくといっていいほど、というかまったくあたらない。
『ほりゃっ!』
 電波が俺の声真似をしてパンチを繰り出した。俺はちゃんと俺に当たった。
『わかった?私は貴方に触れるけど、貴方は私に触れないの。どう?』
「わひゃっは(わかった)…」
鼻を押さえながら、呻く俺。
 もうどうとでもなれ…痛い…痛いってことは夢じゃあないのである。これが現実だというのだろうか。
『貴方からはさわれないから***(未成年はしちゃあダメだ!)はできないでしょ?』
「うん。じゃあ、たとえば、何は良くて、何は良いんだよ?」
 電波は腕を組んで『うーん…』と唸る。
『そうねぇ、ルールとしては、人に迷惑をかけない。金銭価値のあるものを増やさない。質量保存の法則に従う。願う人にたいして受動的なもの。病気は治せない。不老不死にはなれない。人は生き返らせられない。願う人の現在の能力を超えられない。人の不幸や幸福は減らせない。くらいかな、多分。』
「随分多いな…」
 本当に天使か、いや、そんなことはどうでもいいのである。とりあえず、帰って欲しい。俺はそう考える。ラジオを横目で見やると、彼女の小声でうなるような『うーん、うーん』という声が聞こえている。
よし、とりあえず、彼女のいう「天使」とか何とかが全部本当だったとしよう。全部信じた上で、こういうのはどうだろうか。
「あのー…やっぱり帰ってください。あんたがいると、ラジオが聞けなくて、困ってるんです。」
『なるほどなるほど。良し、うん、分かった。』
 俺は手を組んでありがとう、とつぶやいた。これでラジオが聞ける…そう思った、次の瞬間!!<