ショートショート 無限階段の果て

  • 2007/03/30(金) 22:39

 無限階段の果て

 私は枕代わりの聖書を開いた。まず開いたページにこうある。「この本を読むな、そして自分の目を開くのだ。」素晴らしい書き出しだ―――、私は更に一ページめくった。すると、世界に「屋根」が出来ることになった出来事が書かれている。それはこうだ。

 黒く燃え上がる太陽は死を振りまいた。人々は三日三晩苦しみ、そして七日七晩寝込み、そして永遠に眼を覚まさなかった。
 生き残った人間は黒い太陽を恐れた。土の下に家を移し、震え上がりながら暮らした。地上は黒く焼かれ、生き物は死に、植物は彼果てた。
 
 世界の滅亡が音を立てて近づいてきたとき、世界は大いなる闇に覆われた。人々が顔を上げると、黒い太陽は姿を消していた。代わりに現れた「屋根」が世界をすっぽりと覆っていたのだ。そのときだ神が屋根の隙間から現れ、人間に告げた『夢を見よ。世界は大いなる天球を旅し終えたときに救われるだろう』
 
 私は聖書をぱらぱらとめくった。――――くだらないと思う。ここから先を読んだことはほとんど無い。読んだページはもっと少ない。ここから先は人間がもう一度発展と栄光を掴もうとすることが書かれているだけだ。
 私は聖書を鞄に仕舞うと立ち上がった。今日も私は階段を上らなければならない。そして本物の空を見る。そのために、こうして屋根への道を昇り続けているのだ。

 ―――聖書はあながち間違いではない。過去に何があったのか知る由も無いが、世界は一度滅亡したのだ。世界の全ての人間が死に絶えたわけではないが、多くの人間が死んだことは確かだ。空気から酸素が消滅しかけたのだ。この黒い太陽、という単語はきっとオゾン層の消えた空の事を指すに違いない。オゾンが無いので赤色層の色がそのまま地上に降り注ぐのだ。それが何色になるのか、正直思いつかないが、それが青ではないことはおよそ予想がつく。
 世界の空は一度死んだ。昔の人間は力をあわせてオゾンに代わるものを作り出したのだ。それが「屋根」だ。
 屋根は世界にどこを見上げても存在しているらしい。すっぽりと覆うように屋根は地球を覆っている。そして屋根を支えるために世界中に支柱がある………それなりに数はあるらしい。正確なところを知る人間はいないだろう。私が知るところでは、私が今いるこの支柱だけしかない。
 私は長い階段に足を乗せた。一歩一歩、一歩一歩進むしか道は無いのだ。勿論、この階段の一番上、つまり屋根があるからには、一番下がある。それは地下層である。支柱は深く根を下ろすようにして生えている。
 私は地下層の出身だ。暗く、湿った空気が一年を通して流れ続けている。その所為で病気になるものが多く、医療も整っていない地下層での平均寿命は四十を超えない。私は地下層でもまだマシの部類だった。
 なぜなら私は、支柱の中に住んでいたのだ。支柱の中は空気を入れ替える設備があり、地下層の一般家庭よりも、少し環境的にまともだ。勿論、その生活は(地下層の人間にとっては)容易い物ではない。
 私はそこから出て行きたかった。子供時代を地下層で過ごした私の憧れは、大地ではなく、空だった。空想や、御伽噺の中にしか存在しない青空が私の夢だったのだ。
 私は暗い地下から何とか抜け出した。そして地上へ這い上がった。そのときすでに地下層の平均寿命の半分を超えていた。
 
 地上に出て思ったことは、地下とどこが違うか?という問いに対して「地下よりマシ」という答えしか出せない場所なのだと知ったということだ。
 私はそこでも地下と同じことを思った。やはり、私は青空を見たいのだ。
 人はその考えを聞くと、私のことをせせら笑った。反応は地下と何ら変わりない。人はこう思っているのだ「青空など、空想だ。」私は反論できなかった。
 それがこの世界の常識なのだ。私は常識から外れてしまった人間だった。そんな私の前に、一人の男が現れた。名をシバサキといった。シバサキは歴史研究、及び開発者だった。ようするに何でも屋みたいなものだ。
 彼は聖書がどこまで正しいか探っていたのだ。「天球を旅し終えたとき」がとっくの昔に、終わっていることを特定した彼は、私に言った。
「青空はもう帰って来ているんだ!もう屋根なんていらないぞ」
 それは素晴らしいことだった。しかし、私は彼を殺した。金が要るからだ。そして金を奪うと、その金を使って、支柱を登る権利を買った。
 最下層から始まり、もう随分なときが過ぎた。空は果てしなく高い。

 ぴちょん――――――、私の鼻先に、水滴が落ちた。それで眼を覚ました。私は喉を引掻くような咳をした。空気が薄い。酸素が少ない。窓が無いから、今時分がどの辺にいるのかもわからない。支柱の中は、居住区になっている。上に行くほど、地上に近いほど高級所得者層になる。言い換えれば、高い場所ほど、金のない人が住むことになるのだ。
 しかしそんなことはもう問題ではない。私が今いる場所に、人間の姿は無い。人間が住む層など、随分前に通り過ぎてしまった。最後に会った人間は死にかけのお婆さんだった。そして私の目の前で屍になった。
 私も、いつかこうして死ぬのだろうか?
 それでも私はとまることなど出来ない。まだまだ先は長く感じる。食べ物は支柱の中を通るパイプをとおして、自動販売のサプリメントと、水がある。場所が場所ならば、前にいた人間の持っていた缶詰などが落ちている。そういったものを拾って、食べていた。
 私は、足を進め続ける。もう立ち止まることは出来ない。後戻りも出来ないのだ。
 もし、シバサキを殺していなかったなら、戻ることが出来ていたのだろうか?金を奪っていなかったなら?
 もしこの夢をみていなかったなら?私の人生は幸福だったのだろうか?低所得者層の住人らしく、クズみたいに働き続けて、そして結婚する。孫の顔も見れずに死んで…それで終わりの人生に私はもしかしたら幸せを見出せたかもしれない。
 そうだ。そうかもしれない。
 しかし、わたしはもうここまで来てしまったのだ。そしてこう思う。これで良かったのだ。私は幸福を願えながら死ねるかもしれない。青空が必要なのは、現実のためではないのだ。ただそれを目指して、何かを追い求めること、そしてそれが生きる目的になったなら、私は夢見たまま死ねる。だから、私はこう願おう。

 青空など、いらない。どこにも届かない長いこの階段をくれ、と。

 唐突に、視界が開けた。狭い
 それまでの細く、高い階段ではなかった。それは、きっと支柱のフロアいっぱい分の、広間だった。そこには、階段は無かった。
 ただ、部屋の真ん中に梯子が合った。私はそこへ駆けていった。見上げると、梯子の上に、ハンドルつきの、円状のドアがある。私は梯子に昇った。
 ハンドルには錆が浮いている。私はそれを力いっぱい回した。軋む音と供に、ドアが開いた。光が薄く差し込み、そして―――――――――――

 Fin.
 
 

  • 2007/03/29(木) 23:13

 桜を見た。
 ちょっと離れた公園まで来るまで出張って桜を見ることになるなどとは思っても見なかった。
 まだ早い時間だったので、妹を助手席に詰め込み、車を出発させた。
 
 その公園はアスレチックなどの体を運動させるために向いた用具がたくさんあることで有名だった。しかし小生自らそこを赴くのは初めてのことであり、ちょっと緊張もしていた。それをほぐすためにセルジオ・メンデスのジャズサンバを口ずさみながらドライブした。

 いい天気だった。窓を開けて風を取り込んで、陽気でリズム感のある歌を口ずさむと、気分が晴れていい気分になった。体中にたまった悪いもの(邪気とか悪いたくらみとか)が全部出て行くような気がした。
 気がつくと、何故ハンドルを握っているのか思い出せなくなった。今は落ち着いているから大丈夫だが、そのときは危なかった。
 きっと、悪いものを出しすぎたせいで、全て流れ出てしまったのだ。きっと悪いもの体の中にしかなかったから、それが全部流れてしまったから放心してしまったのだ、と考えた。

 公園に着くと妹と二人「その公園の遊歩道を一周してやる計画」を立てた。簡易地図によれば、道なりに進めばよいだけのはずだった。そして小生たちはそうした。
 そのうちに道が狭くなった。
 生い茂る木の量が増えた。
 道の整備が悪くなった。
 そして気がついたら、小生たちは「こんなデカイ木が道に…」という場所を歩いていた。恐ろしく一段一段が薄っぺらく奥行きが長いという階段にも遭遇した。
 そのうちに道が開けた。その頃になるともう小生たちはどこでかは分からないが、道に迷っていることに気がついていた。
 そこは海だった。そうなのだ。遊歩道…、遊歩道もどきを歩くとそれはそれで一応海が見える場所に繋がっていたのだ。しかし、補足せねばならない。それは砂浜ではないし、そこで道が終わっていたわけでもない。それは恐ろしい光景だった。右手に自分たちが歩いていた険しい山道があった。
 そして反対側は沼だった。そして真正面に海だった。内海の、汚い海だった。視界には緑の絨毯のような青海苔の養殖用の網が掛けられ、ゴミと絡まって浮かんでいた。
 その海を対岸までぶった切るような形で細い道があった。その上を歩け、ということらしかった。

 小生たちは歩いた。「きっと、栄光の道がこの先にある……」そう思わずに入られなかった。そしてそこを出ると、その先はロッジだった。勿論、そこからその「公園の遊歩道」に戻るには同じ道を戻るしかなかった。
 小生と妹は顔を見合わせて、ロッジ横の桜の写真を携帯で取ると、「いいんだ、桜を見に来たんだから、これでいいんだ、正しいんだ……」と地獄のようなくらい山道を歩いたことについては目をつぶることにした。
 そして二人ともへとへとになって公園に戻ったとき、もう桜のことなど覚えていなかった。
 ただその道の名前が「水辺の散歩」だったが、「水辺の地獄」だ、間違いない、そう言いあった事だけを覚えていた。
 ほかはもう嫌な思い出しかなかった。

 そのようにして、今年の花見を終えてしまった小生。
 来年はきっと、もっとよい状況で桜を見ようと心に誓った。

ショートショート 名乗るほどの…

  • 2007/03/27(火) 20:54

 名乗るほどの者じゃあございませんが…

「で?なんでそんなことを…?」
「イヤ、タスケヨートオモテ……」

 僕は今、交番で取調べを受けていた。強面の警察官がさも面倒くさそうに調書に何かを書き込んでいる。僕はなんだか悲しく、落ち込んだ気持ちで肩を落とした。
 僕はいいことをしたはずなのだが……外国から日本のアニメーション技術を学ぶためにこの国に訪れて、何でこんな目にあっているのだろう。
 目の前の警察官は僕に色々な質問をした。パスポートも、ビザも、免許証も預かられてしまった……

 ちょっと説明しようと思う…僕がこんな目にあった経緯について。あ、オマワリサン怒らないで、怒らないで……

 僕の名前はジミー・フェンダー。今二十二歳で、ステイツでは仲間と一緒にアニメーション会社を作って経営している。
 僕はスラム生まれだった。あまり広くない部屋でママと兄と弟と妹と暮らしていた。耳を澄ましたくない場所だった。いつだって生きていくのに精一杯の所だった。
 記憶の中では兄はいつも働いていた気がする。家にいるときは僕や妹の世話をして、それ以外はずっと働いていた。僕は兄の寝ているところを見たことが無かった。ママの寝ている姿もだ……勿論僕や妹も我侭一ついえなかったけど、それでもあの家にいるときは幸せだった。外から銃声が聞えてきて、皆でテーブルに頭を突っ込む羽目になってもだ。
 そんな生活の中で、兄が僕のために買ってくれたプレゼントが一つだけある。アニメだった。アニメのビデオだ。ビデオデッキはゴミの中から拾ってきて、テープが擦り切れるまで見た。僕の趣味は自然と絵を描くことになって、そして友人達と会社を興した。そして初めて作ったアニメーションはあるグランプリでまずまずのランクに入り、それを気に仕事をうけてアニメを作るようになった。
 そして僕はそれまで以上のアニメを作るために、前々から参考にしていた日本のアニメーション(ジャパニメーション?)を実際に学ぶために日本にやってきた。それが大体三ヶ月前だ。
 僕は小さなアパート(日本の建物は屋根が低い)に居を構え、アニメ会社に研修として通わせて貰っていた。
 会社の休みの日曜は大体ゲームショップかデパート、それから日本の神社を見たりしていた。それから日本のサムライとか、ニンジャとかもみたりした。でも一番いいのは、パン屋でパンを買って、公園で食べることだ。
 大体日曜のお昼前くらいから公園の周りを歩いて散歩すると、ママたちが子供を連れて公園に来ている。皆何の心配もしていない。天気がよければもっといい。
 子供達も皆楽しそうだ………ステイツでは、スラムでは見たことのない光景だった。子供達が怯えずに暮らしている。皆笑顔だし、楽しそうにしている。それだけで素晴らしい国だと思える。
 今日もそうだった。
 朝起きると僕はいつもどおり散歩に出かけた。確かフィッシングが出来る川があるというのでそれを向かった。みんな難しそうな顔をしていたのであまり楽しくは無かったけれど。
 それから町をふらふら歩いてパン屋さんでパンを買って、コーヒーを買って、公園へ歩いた。
 子供達が幸せそうにしている。ママたち(たまにパパ)も子供が楽しそうにしているのを見て嬉しそうにしている。僕はそれを見て心を休める。
 僕はちょっと早いけれども、パンを食べてゆっくりしていたときだ。目の前をボールが跳ねていった。取ってあげればよかったのかもしれない。でも僕の両手はパンで塞がってし、気にしなかった。
 パンを飲み込んでコーヒーを取ろうとしたときだった。子供がボールを追って公園から出ようとしていたのだ。だれもその子供を追う様子は無かった。
 そのとき思い出したんだ。あの道は見通しが悪くて、事故が多いって聞いたことがあるのを。僕は思わず駆け出した。車の音が聞えたからだ。
 何かあってからでは遅い。あの笑顔を壊したくは無かった。僕がその子をようやく視界に入れたときだ。ブレーキの劈くような音が聞えた…………

 気がついたときにはその子を抱きしめて道に倒れていた。背中や腕を擦ったが、僕もその子も怪我は無かった。顔を動かして見ると、ボールはタイヤの下に挟まれて、破裂していた。車から男が降りてきて、僕に声をかけた。僕が黒人だと知ると、ちょっと困ったようにニホンゴワカルカ?と言った。
 それに続いて公園にいたたくさんの母親達がこっちへやってきた。初めその母親は僕が子供を抱いているのでびっくりした様だった。僕は腕の中の子のママにその子をかえした。その子が女の子だと知ったのはそのときだ。その子は僕を見て「ありがとう」と言ったのだ。
 僕は嬉しかった。初めてアニメを作ったときに、友達が笑ってくれたことを思い出した。
「ドウイタシマシテ」
 僕がそうかえすと、その子の母親は泣きそうな顔で、僕に「サンキュー、サンキュー」と繰り返した。それから
「貴方の名前は…?」
と聞いた。僕はちょっと考えてから、カッコイイサムライを思い出した。アニメや映画の中ではこういういのだ……
「ナノルホドノモンジャゴザイヤセンガ………」
 僕はただ子供が好きだから、それだけの理由でその子を助けたんだ、うん、だからそれだけ伝えればいい。おういえば日本のアニメの中で、子供が好きな人を何ていうんだっけ…確か…

 「トオリスガリノ ロリコン デゴザイ………」

 キャーとその母親が叫んだ。そして僕は…………

ショートショート プールサイドで聞いた声

  • 2007/03/26(月) 23:27


 プールサイドで聞いた声

 「明日、彼女に花を手向けに行こうか。」
カワヨシがそう言ったのは、昨日のことだった。7年前死んだ「彼女」の墓参りに俺達が訪れていたときのことだ。
 カワヨシの言葉にタケイが頷き、そして俺も同意した。
 俺達は今、プールサイドに立っている。俺達が通っていた高校のプール、そして彼女の死んだ場所でもある。カワヨシが花束を投げた。タケイもそれに続いた。俺は灰皿の上に線香をともして、プールサイドに置いた。
 このプールサイドが、俺達と彼女の初めて会った場所であり、接点であり、そして全てだった。思い出せば高校のときに彼女と出会った。彼女は水泳部のマネージャーだった。俺達は供に水泳部部員だった。
 そして俺を筆頭にカワヨシとタケイは水泳部のエースとして実力をつけていった。彼女は俺達にかいがいしく世話を焼き、優しく声をかけ、タオルを手渡しては微笑んだ。彼女のことを思い出すたびにカワヨシは言う。
「彼女のあの笑顔が一番よく効く栄養剤だった。」
―――だった。そうだ。彼女は死んでしまった。プールの排水溝に吸い込まれて死んだ。一体何故彼女が夜の学校のプールにいたのか、そして何故排水溝になど吸い込まれて仕舞ったのか、それは全て闇の中だ。
 
 カワヨシが煙草に火をつけてふかした。味わっているのかいないのか。その間だれも喋らなかった。カワヨシはフィルターギリギリに短くなった煙草をプールの水につけて消すと、ポケットにいれて立ち上がった。
「彼女、そういえばだれのことが好きだったのかな?」
 タケイが突然に口を開いて聞く。そうだ。彼女は恋をしていた。誰にも言わず、心に秘めていたのだ。皆が彼女に恋焦がれていた。彼女の笑顔をこの手にしたい、だれもがそう思い、そして破れた。
 彼女には思い人がいたのだ。彼女はそれをだれにも教えなかった。
「俺はフラれちまったなぁ……」
 俺は言う。カワヨシがははは、と笑って、俺もだ、と言った。タケイはちょっと唇を尖らせて「俺は告白も出来なかった…」
 タケイもカワヨシも彼女の通夜で泣いていた。あの日は雨だった。排水溝の奥で見つかった彼女はとても見られたものじゃなかったらしい。通夜では生前の写真だけがかざられ、彼女の死体は無かった。それがとても不気味だったことを思い出す。
 そこに無いだけで、もしかしたら生きているのではないか。彼女の身に起きた悪夢のような出来事などみんな嘘で、すぐ後ろから肩を叩いて現れるのではないか?
 通夜の中、幾度となくそう思った。実感のわかない通夜だった。黒い人だかりが、飾られた花が、モノクロームの写真が、全部セットのようだった。「これは夢だ。悪夢だ。」そう考えた。
 しかし実際にそんなことは起こりはしなかった。その二日後には彼女の葬式が行われ、火葬された彼女の骨を箸でつまんで箱に移した。
 白っぽい乳白色の骨彼女だということを理解するのに、その現実を受け入れるのにとても時間がかかったことを思い出す。
「……い…おい、おい!」
 物思いに耽りすぎて、声を掛けられていること気がつかなかった。「なんだ」と返事をすると、タケイが口を開いた。「彼女が好きだった男が誰か知りたくないか?」
 俺は別に、と言葉を濁した。いまさらそれを知ってどうするというのだろうか?
「お前、知ってんるじゃ無いのか?彼女の好きだった男が誰か……」
「おい!今さらそんなこと知ってもどうにもならないだろう!」
 俺は怒鳴るようにして言った。女々しいことを言わないで、ただ花を手向けてればいいんだ。それ以外に何が出来るって言うんだ?そう言って俺は背を向けた、それとほぼ同時に背中に衝撃が走った。
 大きくバランスを崩してプールの中に俺は落ちた。手足を掻いて地面を掴むと、姿勢を立て直して叫んだ。
「何をするんだ!?」
 カワヨシは冷たい水の中にいる俺のことを冷ややかに見下ろしていた。思わずぞっとして口をつぐんだ。タケイが、プールサイドを歩きながらこちらに向かって声をかけた。
「俺らが知らないとでも思ってたのか?」
 カワヨシが岸に上がろうとした俺の手を蹴り飛ばしながら言った。
「彼女が好きだったのは、お前だろう?」
タケイがそれに続いた。
「彼女が最後に会ったのは、お前だよな……」
 俺は絶句した。―――何故、知ってるんだ?
「彼女、手に持ってたよ。お前への恋文…………」
 俺は戸惑いながら、聞こうとした。しかし口から声は出なかった。喉から息が漏れるだけのことだった。
「何で知ってるのかって?」
「俺達が見つけたんだよ。彼女の死体を。」

「俺達が彼女のことを好きなのは知ってたよな?俺たちは知ってたんだ。彼女が好きな男のことを、それがお前だって事を。
 彼女は言ってたよ。『お前のことが好きなんだって。』笑いながらそういったんだ。お前が彼女のことを好きじゃなくっても、別段よかったんだ。彼女のことを傷つけさえしなければ……それをよくも……!
 彼女のことを、お前が殺したんだ。」

 畜生……、あの女が、あの女が俺にしつこく付きまとったんだ。確かにいい女だった。しかしその反面、かなりの粘着質な気質だったのだ。
 あの日もそうだった。彼女に呼び出されて来てみれば、このプールサイドでいきなりの告白を受けたのだ。俺は断った。彼女のことは嫌いではなかった。しかし惚れていたわけではないのだ。俺はやんわりと断った。
 彼女はそれを認めようとはしなかった。そして俺に喰いかかって叫んだ。俺はそれを逃れようとした。手を伸ばして俺を振り払おうと伸ばして手に当たり―――彼女は倒れた。夜の暗いプールに落ちてもがいていたのだ。俺が手を伸ばしたそのときだった。
 暗いプールに漆黒の渦が現れたのだ。一体何が起こったのかわからなかったが、きっと彼女の持っていた何かが排水溝に引っかかり栓をあけてしまったのだろう。何もかもが手遅れだった。

「聞いてくれ…俺は……」
 俺は声を絞り出した。やっとのことで掴んだプール際の梯子、それに寄りかかりながら何とか話をしょうとした。殺そうだなんて思っていなかったんだ。事故だったんだ。しかし彼らは、カワヨシもタケイも何も言わなかった。
 足に何かが絡まるような感触を感じた。体がずるりと引っ張られるような感覚。後ろを仰ぎ見ると暗いプールに、漆黒の渦があった。
 嫌だ。死にたくなどない。
 必死になって手を伸ばして梯子を掴んだ、昇るんだ。これを昇るしかないんだ。伸ばした手を、足が蹴りつけた。仰ぎ見ればタケイが悲しそうな目をして、俺を見下ろしていた。
「あああっ……!助けてくれっ……!!助けてくれっ!」
 その声にだれも答える人間はいなかった。顔まで水につかって、もう視界もあやふやになってしまった。手を伸ばしてもそれはただ水を掻くだけ、俺は水の底に引きずり込まれた。
 
 そのときだ。ふと、誰かの声が聞えた気がした。
   アイシテル……

 聞き覚えのある声だった。遠い記憶の底の、プールサイドで聞いた声だとわかるのに、時間は要らなかった。
 そして静寂が俺を飲み込んだ…… 


スティーヴンおじさまって強いな…

  • 2007/03/25(日) 22:38

 小説を書こうと思っていたのだが結局スティーヴン・セガールの映画「死の標的」を見ていた。
 スティーヴン・セガールの映画はいつもそこそこ面白い。ストーリーがありきたりなことさえなければ…!といつも小生は無念に思っていた。
 それにしてもあの男っぷりには感動を禁じえない。聞いたところによると極度の日本マニアであり、阪神大震災のときには億単位での募金を、そして空手の道場を持ち、家では日本料理人を専属で雇って食事をしているという、素晴らしい男である。

 そんな彼の映画を見ていたのだが、彼が敵方の若者を叩き倒すシーンだった。
 彼が拳を振るったその瞬間!!!画面がブレタ。素晴らしいタイミングすぎた。きっと、そのブレ事態は偶然だったのだろう。しかし映像効果を狙ったかのようなタイミングだった。そしてこう思った。
「こんなところにまで衝撃波を…さすがスティーヴン!」

 そんなわけないのに。絶対あるわけ無いのに。

 もしかしたら、小生はちょっと弱ってるのかもしれない。いや、そうに違いない。
 小生は弱ってるんだ。いつもこんな風なわけじゃないんだ……小生はそう呟きながら、頭を抱えた。

昨日の話の続きと祖父と猫

  • 2007/03/23(金) 23:10

 先日は機能も述べたがやはりEGG氏が着ていた。双六をしたりしたのだが、そのとき彼は面白い頻度でスタート地点に戻りまくった。
 あまりにその頻度が激しいために、小生は「わざとか、わさとなのか?」と頭を抱える羽目になったことをここで述べなくてはならない。
 また、彼は面白い駒(×ゲームつきの面白い内容だった)を踏んだ。たとえば「サルモネラ」であるが、そのほかにも「官能」とかいうニックネームになったり地の繋がらない妹が出来るなどといった駒を踏んだ。
 彼が始めてスタート地点に戻ったときのことだった。
「あー…戻った…」と彼は呻いた。小生は彼よりも随分前を進んでいたのだが、損様を見て「やーいやーい、不幸の子!」とはやし立てないわけにはいかなかった。
 彼が次にサイコロをフルと、出たのは二だった。二コマ進むとそこには「二コマ進む」とあり、二コマ進むと「スタートに戻る」というのがあるのだった。
 そこで彼は大体6か7連回くらい二兎四を出し続けた。天文学的な運の悪さだった。グラ賽でもなんでもない普通のさいころでそのような芸当ができる人間を小生は知らない。
 小生は彼を見て思った。彼の運勢はきっとどこかに傾いているのだ、そうに違いない。それは素晴らしい運の使い方になるのだろうか?小生の頭の中をその問題が駆け巡った。
 そしてひらめいたのだ。何のことは無い。きっとその「運」は驚異的な彼の運の悪さによって消費されることになるだろう。
 きっとそうだ。そうなってしまえ。

 そんなことを考えながらサイを振ると、小生は運悪くスタートに戻されてしまった。罰が当たったんじゃないんだ!違うんだ!小生は頭を抱えながら一人呻いたのだった。

 
 話は変わるが晩飯のときだった。祖父が「ドラえもん」(ドラえもん!!!小生の嫌いなアニメである。あんなクズみたいなノビタにかまっていないで、小生のために何か道具を出してはくれまいか、いつもそう思う)をみていた。画面に翼竜(羽根付きの恐竜だと思われているが、実際には恐竜ではなく、翼竜という単体のカテゴリにはいる)が移ったときだった。祖父が言った。
「あれは…ラプラスじゃないか」
「は?」小生が聞きかえすと、
「♪ラプラス!ポセイドン!〜〜♪」
 彼は歌いだしたのだ。
「ぶふっ!!!?」
 小生は口から米を噴出しそうになりながらその歌詞を思い出した。
「「♪バビル〜〜に〜せい〜〜♪」」
 見事にハモッた。そうなのだ。知らない人も居ると思うが、遠い昔に流行った漫画、バビル二世のテーマソングだったのだ!

 …しかし腑に落ちないことがある。小生はバビル二世を見たことが無かった。マンガは読んだが、アニメは見ていないのである。
 なのに何故……小生はそれの記憶を探った。そして思い出した。
「バビル二世かっこいよね。」
 そんなせりふをつけてテーマソングを歌った人物が小生の家にはいたのだ。

 父だった。親子三代バビル二世が歌えて仕舞った親子。もう、出家したい。


とるこの苦痛双六。

  • 2007/03/22(木) 21:03

 EGG氏が遊びに着たので、二人で今後のことについて話し合った。小生、このブログを始める前から考えていたある作戦を彼に話した。それは小生の思うエンターテイメントのあるべき形だといえた。

 まあ、そんなことはどうでもいい。
 それよりも大切なのは狂彼と二人ですることがなかったので、虚しく楽しく双六をしたことだった。双六とは、すごろく、と読む。もちろん、読めない人(居ればの話だが、小生は昔読めなくて人からバカにされたことがある。そのときの悔しさといったら…)のためである。

 その双六は、小生の大好きな作家達が集まって行ったとるこ旅行記「とるこ日記」の表紙についている双六だった。
 同じくその作家が好きなEGG氏を巻き込んでそのすごろくを行った。サイコロがないので鉛筆の表面を削り数を書き込んだ。
 そしてそれを転がして小生たちはゲームを始めた。しかし、まず初めからその双六は恐ろしい威力を発揮した。四をだしてもスタートへ戻されるのだった。二をだす次の駒が「二つ進む」更に次が「スタートへ戻る」とスタートへ戻されるという三分の一の確立でいきなりスタートへ逆送するという素晴らしいものだった(畜生!)
 しかも駒の一つ一つにありえない支持が書き込んであり、それをやりながらゲームを進めなければならないのだった。たとえば……「ジャージを着ている人は十駒進む」とか「最近泣いたことを告白」とか「親に謝りたいことを告白」とか、それから素晴らしかったのが「ここに泊まった人のニックネーム『サルモネラ』」や「ここに止まった人のニックネーム『パワーえさ』」とかがあった。
 勿論、EGG氏はその罠にありえない頻度で引っかかり(また亜kれは素晴らしい頻度でスタート地点へ戻っていた)その度に小生から「サルモネラ!サルモネラ!」と呼ばれていた。
 彼はサルモネラ、パワーえさを連続で踏んだときにこう言った。
「俺、ペンネーム『サルモネラ=パワーえさ』にしようかな……」
 小生は深く考えていない振りをして、「いんじゃないの〜?」といっておいた。
 しかし、その裏で小生は様々なことを考えていた。彼の実力は他でもない小生は良く知っていた。彼ならばメジャーデビューも夢ではなく、つかめる範囲にあると考えている。そして彼の性格上、一度「〜〜」という名前で売れてしまえば他の名前を使うことはないだろうそう、「サルモネラ=パワーえさ」で売り出してしまえ!と思っていたのだ。
 その作戦はうまく行く確立が凄く低い。
 しかしうまくいくと日本のジャパニメーション文化に「サルモネラ=パワーえさ」が現れるのだ。
 これを逃す手はない。そんなことばかり考えていた。

 そんなことしてる場合じゃないのに。
 っていうか、男二人で双六て、悲しすぎる。寂しすぎる。

 だれかー、小生に救いの手をー救いの手をー………

パラドックス

  • 2007/03/21(水) 21:12

パラドックス 

 『……「情報化社会という言葉がありますが、実際にそうなのでしょうか?私はいつも考えています。なぜなら、それが万人にいえると思われる事柄に実際に―――そうですね―――であったことがないからなんですよ。
 考えてもみてください。今この世界の何割の人間が、実際に情報を自由に見たり聞いたりすることが出来ているのでしょうか。国民の何割かは、現在の機械化された社会環境に適応できず、情報を集めたりする手段をなくしているではありませんか。
 そこのところについて、一体どうお考えでしょうか?」

 「そうですね。でも本当に貴方の言うことが正しいとはいえません。今社会は万人に明るいですよね。機械は若い世代だけではなく、お年寄りなどにも使いやすいように改良が進み、物は増え、希望に満ちているといえると思います。
 日本だけですよ。この程度の税金で、この社会福祉量をこなしているのは。
 何が言いたいかといいますと、情報は世界に向けて、万人の多世代にむけてちゃんと発信されているのではないでしょうか?考えても御覧なさい。いまや市の図書館にすらパソコンが置かれており、望めばだれでも機械や―――まあ、ここではインターネットですよね―――を利用してちゃんと情報を扱える環境があるじゃないですか。
 何の問題もありませんよ。ただ、各家庭に一台のパソコンという環境にはまだ時間がかかるでしょう。しかし、それも時間の問題です。
 物の多量化は物資の供給安定を促し、そう遠くない未来には、パソコンは各家庭に一台必ず必要な電子機器になるでしょう。それが情報化社会の次のステップです。もうそれは見える範囲にあるものですよ。」

 「なるほど、しかし本当にそうなりますかね。お年寄りなどがいまだ機械に順応出着ていない現実に目を向けていない意見と見て宜しいでしょうか?」

「どういうことですか?」

「貴方の意見はやはり的外れだということですよ。」

「なんだと!?」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。喧嘩じゃなくて議論で勝たないと駄目ですよ。」 

「……ごほん、言いたいことはですね、今の現状から導き出される未来の社会の環境が、本当にそうなるかどうかとは、別物だということですよ。
 考えてもみなさい。今のご老人といえば、日本が世界に進出するために邁進した世代なのですよ。言わば彼らは開拓者です。そのパイオニアである彼らが現代の社会と機械化にはついていけていない。頓に地方ではその傾向が著しい。
 つまり、機械化、これは世代の問題ではないのです。一定の社会の機械化のレベル…とでも言いましょうか、これを過ぎると、その世代の人間は対応できなくなるのです。貴方は自分の意見を本当に正しいと感じていますか?もしそうならば、今の若者の気持ちをしっかりと認識しなくてはいけない。なぜなら、彼らこそ次の技術者になりうる人間なのですから。そして彼らの思考パターンは新しい機械の発達に繋がります。
 それを理解していますか?情報化社会には、機械化された社会基礎が必要なのですよ。電話と電報だけでことたりる社会はすでに終わってしまったのです。それを貴方は理解していますか!?若者を見て「一体何を考えているんだ?」と感じたことはありませんか?」

「そ、それは……」

「つまりそれこそ、未来の私たちの予言となりうるものなのです!」

「ううっ、…そうだ、今までほとんど喋らなかった、***さん、一体どうお考えでしょうか?」 

 「私ですか?私はあなた達のどちらも間違っていると考えています。考えてもみなさい。貴方達の話は終始、情報の受け取り側にだけしか視点が向いていないじゃないですか。
 確かに、今の社会からすると、未来、私たちはそのときの機械を目の前にしてフリーズすることになるでしょうね。しかし機械の大衆化、といいますか、だれもが持つ社会が訪れたときに、それを百パーセント活用することは出来なくても、自分にとって必要なことが出来るようになると思いますよ。たとえば……インターネットだけ、とか。
 それはあくまで予測ですが、機械化された社会が引き起こす問題、それはきっと認識と熟練度によるものじゃないでしょうか。バリアフリーが進んだように、もっと機械は大衆化するでしょう。しかし出来ることの奥深さ、幅も広がる。そして入り口も勿論広くなるのです。多くの人は、始めこそ敬遠すれど、それに次第に馴染むはずです。
 さて、ここで問題ですが、情報というものには、二パターンあるということをご存知ですよね。発信者と受信者です。
 情報の受信者についてはもう述べたとおりで良いでしょう。しかし、発信者についてはどうでしょうか。情報とは、受信する側だけではなく、発信するものも十分に利用できるものなのです。たとえば、〜〜がいけない、というとします。するとそれを受け取った側の多くは何の疑問もなしにそれを信じてしまうのです。
 それこそ、情報の問題点です。
 今、私たちが考えなければならないのは、情報の発信者は本当に信頼できるのか、という点です。情報が国や企業、果てはテレビといったフィルターを通すことにより曲がってしまう、変質してしまう、そしてそれを受信者は気がつかないということが問題なのです。これはテレビだけではありません。国民の周りにある情報源すべてに起こっていることなのです。テレビ、新聞紙、雑誌、ラジオ、インターネット、etc…
 正しい情報を掴むには一体どうしたらいいのでしょうか。
 残念ながら、純粋に正しい情報を得る手段というのは、自分の眼で見る、これしかありません。他の何を置いても、据えての事柄はどこかでそのフィルターの餌食になり、そして変質、変容してしまうのです。
 今いえることとしては、全ての事柄をいろいろな角度から見てみることです。一つの情報源に縛られてはいけません。新聞なら、何紙かみてみることです。テレビだけでなくラジオから、それから雑誌から、それらの多角的な見方をしなければなりません。
 みなさん!テレビが信頼におけるものではないとお考えください!一つだけの情報源からの情報を信じてはいけません!
 いまこそ、この社会の情報のあり方を根本から考えるときです!そして自分自身の目で、情報の真実を見極めてください!!!」

「……はい、どうもありがとうございました。
 それでは本日の『テレビが社会を斬る!』を終わらせていただきます。また来週!それでは御機嫌よ…………』  
 僕はテレビを切った。

ショートショート わらしべ女の子

  • 2007/03/20(火) 22:04

 わらしべ女の子

 あるところに女の子がいました。女の子はお父さんもお母さんもおらず、一人ぼっちでした。女の子はどうして自分が一人なのかもしらずにただ道があるままに歩いていました。手には一本のわらしべをもっていました。
 おなかが減るとそれを噛んで空腹を紛らわせました。そのわらを噛むと、苦い苦い汁がでてくるのです。女の子はそれをおいしいおいしいと言って噛みました。
 女の子はそのようにして一人で道を歩き続けました。

 あるときの事です。道を歩いていると、女の人が赤ん坊をあやしていました。しかし赤ん坊は泣き止まず、女の人の腕の中でずっと泣いてばかりいたのでした。
 女の子はそんなことは露も気に留めず、歩きました。女の人の脇を通り過ぎたときです。むんず、と引っ張られて、女の子は足を止めました。
 見ると、赤ん坊がわらのの端っこを掴んでいたのでした。女の子がどんなに引っ張っても赤ん坊はわらを離しません。すると女の人は言いました。
「お嬢ちゃん、この子にそのわらをおくれでやってくれないかね」
 女の子は少し考えましたが、どうせただのわらだし、いつでも拾えると思ったのでそれをあげました。赤ん坊はいつの間にか泣き止み、手にぎゅうとわらを握り締めていました。女の人はお礼にと、水の入った竹筒をくれました。

 女の子は歩いていきます。手には藁と交換してもらった竹筒を持っていました。
 あるときの事です。道のわきに、ふうふうと息を荒くして座っている男がいました。女の子はそれを目の端でちらりと見ながら通り過ぎようとしました。そのときです。
「お嬢ちゃん、その水少しおくれでないかい?」
 男がそういったので、女子は水をあげました。男は嬉しそうに水を飲みました。それからお礼に、といって飴をくれました。男は飴売りだったのです。

 女の子は手に飴を持って歩いていきました。
 あるときの事です。道でわいわいと、子供達が集まっているのを見つけました。男の子達は家の外壁の上によじ登ったりしていました。女の子が横を通り過ぎようとすると、男の子の一人が言いました。
「いいなぁ、その飴、この毬と代えておくれでないかい?」
 女の子はもう死ぬほどおなかが空いていたのですが、はじめて見た毬にどうしても触りたくなってしまい、飴と取り替えました。
 
 あるときの事です。女の子が歩いていると、ある男が声をかけてきました。
「お嬢さん、その毬、すこし見せておくれでないかい?」
女の子は少し考えてから、渡しました。見せるだけならいいだろうと思ったのでした。たいそう綺麗な毬だったので、交換するのは嫌だったのですが、見せるくらいならいいだろうと思いました。
 男はその毬を手に取ると、確かめるように触り、そして一目散に逃げ出しました。
大人の男の足ですから、もちろん女の子は追いつけません。すこししたころにはもう男がどこへ行ったのか女の子には分からなくなってしまいました。
 そのときです。足元を見ると、鉄の細長いかけらのようなものが落ちていました。女の子は悲しくなりながらそれを拾いました。
 それからまた歩き始めました。男を追ううちに道が分からなくなってしまったので、女の子はどこへともなく足を向けました。
 少しすると、日が落ちてきました。女の子は夜になるといつも田んぼの知宅に置かれた藁を被って道の脇にのいて寝ていました。もちろん家などないので、女の子にとってはそれが寝床です。狼の声が聞えたらすぐに木に登って隠れなければならないので大変です。
 女の子が道の脇で藁に包まっていると、向かいの家から、女の人のか細い声が聞えてきました。長く長く、細く細く伸びる声でした。向かいの家は真っ暗で、どこから声がしているのだろうかと女の子は不思議に思いました。
 女の子は藁から出るとその家の庭にこっそりと入って、それを確かめようと思いました。女の子が調べると、それは蔵の中からでした。
 女の子が蔵の戸をあけて中に入ると、鎖で手や足を縛られた女の人がいました。蔵の中は蝋燭が立っているだけで、薄暗かったのですが、女の人は綺麗だとすぐに女の子には分かりました。女の子がどうして鎖に縛られているの?と聞くと、女の人は答えました。
「つかまってしまったのよ。悪い人たちに。」
 女の子は拾った鉄のかけらを鎖の鍵にぐい、と差し込みました。二、三回ゆすると鍵はかちりと音を立ててはずれ、地面に落ちました。
 女の子はその家を女の人を連れてこっそりと抜け出ました。幸い誰にも見つからずに女の子と女の人は逃げ出すことが出来たのでした。
 二人は一昼夜歩き続けました。女の人は自分がどこから来たのかわからないと言い、さめざめと泣きました。女の子は自分もわからないんだよ、と慰めましたが、女の人は泣き止みません。鉄のかけらは落としてきてしまったし、女の人は泣いたまんまだし、女の子は困り果ててしまいました。

 あるときのことです。
女の子が女の人を連れて歩いていると、一人のおじいさんが声をかけてきました。女の人はそのおじいさんを見ると顔を嬉しそうにほころばせておじいさんの元へ掛けてゆきました。
 そのおじいさんはその女の人のお父さんだったのです。おじいさんはいいました。
「なんということでしょう。ありがたくてたまりません。お礼と言ってはなんですが、これをあげましょう。」
 女の子はおじいさんから綺麗な反物を貰いました。とても綺麗な反物でした。いつもボロしか着ていない女の子はその綺麗さに目を奪われました。女子は女の人の代わりに反物を持って歩いていきました。
 
 あるときの事です。女の子が反物を持って歩いていると、火事にあった家の前を通りました。家の前では男が声を上げて泣いていました。女の子がそれを見ていると、それに気がついて男が言いました。
「私は反物屋だったんだ。店も品物も焼けてしまった。この木彫りの猿とその反物を取り替えておくれでないかい?」
 男が見せた木彫りの猿はなんだか汚らしくて、あんまりいいものには見えません。
 女の子は考えました。自分は反物がなくても大丈夫ですが、男は反物がないと仕事が出来なくて困ってしまいます。それに、木彫りの猿もくれるといっていますし女の子は男の言うように取り替えてもいいかな、と思いました。
 反物を木彫りの猿と取り替えると女の子はあるきだしました。
 
 あるときの事です。
 女の子が道を歩いていると、ある男が後ろから声を掛けてきました。
「お嬢さん、その手に持った木彫りの猿をおくれでないかい?」
 女の子は考えました。これをあげてしまうと、もう何もなくなってしまいます。女の子はそれは悲しいと思ったので、何かと交換しよう、といいました。
 男は困ったように首を傾げました。
「あげられるものなど何も持っていないのだよ。」
 女の子は男が困っているのを見ていました。男はぽん、と手を叩いて一本の藁を取り出しました。そして高らかにいいます。
「この藁をあげよう。この藁は欲しいものが手にはいるとてもとても凄い藁なんだよ。」
 そういって女の子の手にぐい、とその藁を押し付けると、半ば強引に木彫りの猿と交換してしまいました。女の子はそれをしげしげと見つめて考えました。
 これは、自分が赤ん坊にあげた藁だ、と思いました。きっとそうです。だって、歯形だってついているし、長さもそんな感じです。

 あるところに女の子がいました。女の子はお父さんもお母さんもおらず、一人ぼっちでした。女の子はどうして自分が一人なのかもしらずにただ道があるままに歩いていました。手には一本のわらしべをもっていました。
 おなかが減るとそれを噛んで空腹を紛らわせました。そのわらを噛むと、苦い苦い汁がでてくるのです。女の子はそれをおいしいおいしいと言って噛みました。
 女の子はそのようにして一人で道を歩き続けました。

 そんなあるときのことです。道の端っこに植わった木の陰の下に男の子が座っていました。その日は陽が高く、暑い日でした。女の子もその横に腰掛けて一休みしようと思いました。
 男の子が声をかけました。
「ねぇ、何故君は藁を持っているの?」
 女の子は正直に答えました。これを噛んで空腹を紛らわせているのだよ、男の子はびっくりした顔をしました。それから女の子はこの藁を赤ん坊にあげたあと、どのようにして自分の手に戻ってきたのかを話しました。
 とても長い話ですので、簡単には語りきれません。日が落ちる頃になっても話しはまだ半分も進みませんでした。男の子はたいそう面白がり、続きをせがみました。女の子は話を聞いて笑ったり驚いたりしてくれる男の子の顔がたいそう嬉しくて、次の日もここで話をしてあげる約束をしました。
 その約束の証に女の子は男の子にもっていたわらしべをあげました。
 女の子は最後にとても欲しかったものを手に入れました。それは明日も、その次の日も一緒にいることのできる友達でした。初めての友達を女の子はわらしべにたいそう感謝しました。

 めでたしめでたし

ショートショート Routi/ne Work ルーチン・ワーク

  • 2007/03/13(火) 23:28

Routi/ne Work(ルーチン・ワーク)

 魔法の国であった。魔法を使えるものは民のうちの一握りに過ぎなかったが、それゆえに多大な力を誇っていた。それは何人にも犯せざるものではなく、ましてや御すことなど出来ようはずもなかった。
 魔の力を持つのは人だけにあらず、人のほかに魔の力を操る生き物は魔獣と呼ばれた。人は敵対する国や、魔獣に対して敵対するために騎士団を持ち、その身をただ国を護るためにささげた。魔獣の中にも、知を持つものあり、そして、彼らは彼らの領土を広げるために、人との戦いを繰り広げた。
 人の世界に王がいるように、魔獣にも王があり、それは魔王と呼ばれた。魔王は知を持ち、魔獣を組織して人との戦いを繰り広げていた。力のある魔獣と戦えるのは鍛錬を積んだ騎士と魔力を持った人間だけであった。

 そして、私も魔力を持っている。今国は戦いのために町中の男を駆り出しているところだった。しかし私はその難を逃れ、高い窓からその様子を見下ろしている。
 私は、会計士だった。

 別段国の政治とは関係なかった。勿論魔族とも関係などなかった。私はただ会計士だった。つい先日負った足の怪我から、私は徴兵を免れたに過ぎない。そんな私の毎日は決まりきっている。朝起きると、一切れのパンを口に運び、そして仕事のために会社に出かける。会社では大きな船を作ったり、車を作ったりしている。
 大きな会社である。私にとってちょうど良いポストである。一日中、私はデスクにへばりつき、材料費やら加工費やら接待費やら賃金やら税金やらを計算している。私はそれ以外に出来ることのない男だ。
 私は自分が何かを作り出すことなど出来ないのだ。私は本で読んだことなら、それを人より少しうまくこなすことが出来る。そして計算なら自分が勉強した範囲ならば並の数学者と肩を並べることが出来る。少なくとも町の肉屋のオヤジにおとりはしない。
 私の喜びは正しい計算と心のそこにある正義であった。それ以外に求めるものなど存在していない。
それなのに…………
「君、クビだから」
 なんということだろう。私の書類に不備があったというのだ。ありえない。私はそれしか出来ないが、逆に言えばそれならだれよりもうまく出来るのだ。完璧に出来る。
 私は探りを入れた。昔の書類を引っ張り出した。彼らの言う不備などどこにもなかった。私は更に調査を続けた。
 会社の重役が税金として払うはずだった金をを盗んでいたことが分かった。そしてそれを隠そうと………

 私はなけなしの貯金を持って、国を出た。騎士団の付き添った貿易車にのって他の国に行くとそこの国の城に仕えて働いた。
 数年が経過した。私はやはり会計士のままだった。
 一日中、私はデスクにへばりつき、材料費やら加工費やら接待費やら賃金やら税金やらを計算している。
 ある日のことだった。私のデスクに上司がやってきた。そしていつもと違って書類を置くことをせずに、私に言った。
「ここの計算、間違っていたよ。直しておいたからね。」
 私が目をやるとそこにはありえない計算があった。何故だ。何故城の維持費がそんなに高いのだ。ありえないだろう。ここに仕えて数年になるが、そんな高額の修理費など見たことがない。ありえない額である。
「ありえません、何かの間違いです。」
 私は言った。そんな私に上司は「これでいいんだ。ただ君は言うことをきいていればいいんだよ。君だって仕事をなくしたくはないだろう?」
 私は悟った。何が間違いだ、何が修理費だ。横領だ。汚職だ。畜生、城の管理をしている大臣の仕業に違いなかった。
 私は歯を食いしばった。許せない。私はこの国のために仕えていたのに。魔物との戦いの続く戦乱の世の中で、私はこの国ならば、世界の平和のために、正義の道を照らしてくれると考えていたのに……
 再び、裏切られた。私の計算が、そのようなことに使われるなど、許せないことである。
怒りが胸の中に渦巻いた。私の体が熱く鼓動している。体の奥底にある火が、そのとき―――爆発した。
 その瞬間、私を中心に、私の魔力が覚醒を始めた。私の体は中に浮かび、私は唸り声を上げた。上司は腕だけを残して消え去っていた。体から魔力があふれ出ている。
 私がやるのだ。私にしか出来ない。真に美しい国を、私が作るのだ。世界の国を平らげ、位置から作り直すのだ。私はこの力を持って魔獣を従えよう、魔王さえもひれ伏せさせ、私の支配下に置こう。
 私は、神になる。

・・・・・・・・・・・・
 そして今に至ると……超魔王様も大変な人生送ってたんですね。凄い話ですよね。
部下が言った。昔はどこやらの魔王だったらしいが、今では従順で素晴らしい部下である。
 私はその夢の途中にある。今は世界中の国を潰して回っているところである。千を越える魔王を従え、万を背後に魔獣の大群を飼いならしている。
 部下は思い出したとばかりに言った。
「申し訳ありません。この書類をご確認ください。」
 私はペンを取った。そして滑らせる。一日中、私はデスクにへばりつき武器費やら襲撃費やら接待費やら賃金やら徴税やらを計算している。 
 そんな毎日であった。

次元を超えたびわチョコの祖父

  • 2007/03/09(金) 20:47

 本日は天国に行くための作業を終えた祖父が帰ってきたのだった。というのも、彼は四国四十四箇所(だっけ?)を参ってきたわけである。もういつ死んでも大丈夫である。グレート。

 彼が帰ってきて、お土産を広げている横で小生は飯を食べた。妹もいっしょだった。妹も小生もドラえもんに目をやってばかりだった。ドラえもんはなかなかに苛立つアニメだと改めて感じた。何故ノビタなど助けているのか。もっと出来ることがあるのではないだろうかと感じた。と、いうよりは小生を救っておくれよ、と心の中で念じた。もし二十二世紀にドラえもんが存在していたら、小生を助けに来て欲しいものである。
 
 話がそれた。飯を食っている途中に祖父が「お土産のチョコレートがない…」と呟き始めた。聞いたところによるとどこやらに置いてきてしまったらしかった。
「チョコレートチョコレート…」と呟きながら徘徊する彼の姿は小生に「バイオハザード」のゾンビが主人公を探してうろつく姿を彷彿させた。
 彼は悲しげにビニール袋の中から、二つの箱を取り出した。
 それがこちらである↓

SN340028.jpg


 スゲェ……小生の祖父はなかなかつぼを押さえてくる。コレは思いつきで買ったものらしかった。思いつきでこれとは、さすが小生の祖父といえる。凄いぜ*土色!

 因みにサイズは↓くらいです。よこのCDはタリブ クウェリのファーストアルバムですよ。
SN340029.jpg


 この感じ、お分かりいただけるだろうか。凄いことになっている。もう田舎から送られてきた感じがむんむんしているのであった。
 
 勿論食べてみた。それなり…という程度の味だった。やはり想像通りびわの味はしなかった。
 びわチョコの話に飽きると、妹はいきなり変なことを小生に向かって問いかけたのだった。
「ぴえーる、よく聞いて欲しい。この話は次元を超えた話なのだが……」

 小生が「次元を超えた話?」と聞き返すと、妹はそれを手で制して
「いいから。いいから。」と打ち切った。
 なんだ、このフィーリング
「クラリネットの味噌煮込みとフルートの塩焼きとどっちがよい?」
 というようなことを聞いてきた。小生は妹の脳みそが臨界点を突破している。早く病院に連れて行かないといけないぞ、と強く思った。
 しかし、暴れられても困るため、小生は「クラリネットの味噌煮込み」と答えておいた。
 妹はその後、何も言わずに風呂に向かったのだった。次元を超えてしまった妹の脳みそは一体どこへ向かうのだろうか。
 
 小生は結局それについてはもう考えないことにした。妹がどうなろうと知ったことではなかった。妹ももう子供子供しているわけではないのだった。いつかは彼氏を連れてくるだろう。
 そして、結婚してどこか知らぬ土地に行ってしまったりするのである。だから、もう考えないことにした(注、話が繋がってません)

 *土色はちょっと前のネタですよ。

ショートショート 遺されたレコード

  • 2007/03/06(火) 23:03

 遺されたレコード

 彼女の最後を見るのはとても辛かった。ベッドの上で枯れ果てていくように死んでいく彼女は細く、渇いてしまった腕を僕のほうへと伸ばして、僕の手を力なく握った。僕はただそれを見ているしか出来なかった。彼女は結局呆気無く逝ってしまった。
 それから僕は無気力に生きていた。何もしなかった。彼女の残したもののいくつかを譲り受けて、ただそれを眺めたり実際に使ったりしてすごしていた。そんなときだった。あのレコードを見つけたのは。
 それはただ紙に包まれる形で残っていた。開けてみると、レコードが入っていた。彼女は確かにレコードを集めていた。狂的なレコードコレクターだった彼女の残したものの、一つだった。いや、レコードだけじゃない、CD、MD、LP、様々な形態の音源を集めていた。そのたくさんの音源の中に、紛れ込んでいた異物だった。こんな管理のしかたを彼女がするわけが無いのだ。ただ新聞紙で包んでなど、そんな杜撰な管理をしたりはしない人間であったのだから。
 僕はそれを、プレイヤーにかけた。彼女の使っていたヘッドフォンをつけて、再生する。がりがりと聞くに堪えない音がした。やはり痛んでいたのだろう。僕はそう思った。プレイヤーからレコードを外した、そのときにそれは起こった。
 誰かの声がヘッドフォンから、聞こえている。
 懐かしい声のように、思った。しかし、その声が聞こえたのは一瞬だけだった。音がざらざらと激しくなる。どこか壊れてしまったのだろうか、もう雑音しかしない。ヘッドフォンからその音がしているということは、プレイヤーかアンプがおかしいということになる。僕はまず、プレイヤーを切った。音はまだしている。と、いうことはアンプが原因である。このアンプも彼女が永いこと使っていたものだから、とうとうガタが来たのだろう。
 僕はやれやれ、と首を振る。これだけ古いアンプだ。修理には相当お金がかかるだろう、いやもしかしたら修理自体が出来ないかもしれない。
 僕はこれ以上のダメージをアンプに与えないために電源を落とした。

 しかし、まだ音が聞こえている。

 足がもつれて後ろにこける。首にかけていたヘッドフォンが床に落ちる。そこからもう音はしていない。何が起こったんだ。恐る恐る手に取ったヘッドフォンはいつもと変わりない。もう一度僕は首を振る。何かの間違いだ。そうじゃなければラジオの電波でも拾ったに違いない。
 僕は電気屋に電話をかけることにして立ち上がる。アンプの修理が必要だ。ヘッドフォンはその場において僕は部屋を出た。

 彼女が僕の腕を引っ張って歩く。彼女はだれの目も気にしない。何故僕だったのだろう?彼女ほどの女性ならもっと良い相手などはいて捨てるどころか、掃くことも困るほどいたはずなのに。
「あなたは、私の心を愛してくれるから」
 そんなのはまやかしに過ぎない。僕が彼女の何を見ているかなど、彼女にはわからない。ただ笑顔が気になっただけだったんだ。気になっただけ。
 本当は笑ってなんかいないんだ。彼女の嘘笑いが、反吐が出るほど、キライだっただけなのに。僕の手を引いて歩く彼女に僕は恋した。

 ビィーーーーーーッ!

 眼を覚ますと、いつもの僕の部屋だった。手を引いてくれる彼女はいない。もう一度「ビィーーーーーーッ!」とやかましくチャイムが鳴った。
 覗き穴から見れば、それは昨日電話した電気屋の人間だった。彼を部屋に招き入れて、アンプを見せる。彼はそれを隅から隅まで確かめた。なんとなく嫌な気分だ。胸が悪い。
 仕舞いには(いや、それが彼の仕事なのだが)彼はアンプの上蓋をあけて中を調べた。ゴミを落として、電源を入れる。そして線や、真空管(真空管、今の時代に必要とされないものだ)を一つずつ点検する。
「いや、何もおかしいことは無いですよ。」
 彼は僕が出したお茶を啜ってから、言った。ついでにヘッドフォンを見せる。しかしそれもおかしい所は無い。
「それどころか、良い状態ですよ。こんなアンプを持ってるなんて、随分通ですね。」
 彼はそう言って笑った。通だった人間は死んだ。譲り受けただけだ。僕がそういうと、彼はばつが悪そうにした。そのまま帰っていった。
 
 僕はもう一度、あのレコードを載せて、アンプをつけて、ヘッドフォンでレコードを聴く。あのときのはただの偶然か、それとも調子が悪かっただけか。それとも僕の思い過ごしなのか。
 再生ボタンを押す指が震える。あれが幻聴や思い過ごしでなかったと僕が思っているからだ。そっとボタンを押した。
あの感覚。ざらざらとした音が聞こえる。心のどこかで思っている、彼女が僕のことをつれに来たのなら良い、と。彼女に殺されたい。もう一度僕の手を引いて欲しい。この世界は一人生きるには辛すぎる。僕はもう耐えられない。
 ただ、彼女が僕の腕を引いて歩いているときの笑顔が欲しい。
ざらざらとした音の中に、やはり声のようなものが聞こえる。確かに、声だ。しかし聞き取れない。   
 しかしもう僕は震えてなどいない。この声が誰であろうといい。ただ僕はもう折れてしまった。足場は崩れて落ちた。僕はもう立ち上がれない。大切なものは抜け落ちた。
 これが何であれ、僕はもう何も要らない。ただ僕からこの生を奪って欲しい。
そう思っても、どれだけ聞いてもただの雑音は雑音のままだった。レコードの上には何も書いていない。文字があるようにも見えない。もしかしたらただのとても古いレコードなのかもしれない。実際には古すぎてもう聞けないだけなのかもしれない。
 僕はそっと耳を澄ませる。もし、叶うなら、彼女の声が聞きたい。砂音の向こうに、彼女はいる。ときたまノイズをすり抜けて聞こえる声は、彼女なのだ。間違いない。
 僕は彼女の声を聞き間違えたりしない。
 何故彼女が死ななければならなかったのだろう。何故僕じゃなく、彼女だったのだろう。こうしていると、彼女のことを思い出す。彼女のためなら死ねた。僕は彼女のためになら、死んでも良い。いや、人だって殺せる。彼女のが助かるなら、僕はどんな奴だって殺してやるつもりだった。なんだってする。神をたたえる、悪魔に身を心も売る。
 けれども、結局出来たのは、ただ彼女の手を握って泣くだけだったのだ。彼女の細くなっていく手を、指を、ただ見ているだけだった。ときたま、彼女がこちらをみて、いやいやをする様に、首をふった。細くなって、枯れていく、彼女は元気だった頃とは似ても似つかなかった。そして死んだ。とても苦しかったろう。
 君の夢をの話を聞くのが好きだった。歌手になりたかった彼女、レコードも、MDもCDもLPも、皆、彼女の夢のためだった。服や食事や化粧より、僕とのデートよりも音楽に、夢に全てを注ぎ込んでいた。
 彼女が僕の手を引いて歩きながら語る夢、そのときの彼女の笑顔が好きだった。嘘も何もなかった。あの笑顔のために全てをしてあげたかった。

 気がつけば涙がでていた。レコードからは、聞き取れるほどの声は聞こえてこなかった。僕は昨日と同じように、部屋を出た。
「頼みごとがあるんだ………」
 僕は要件を告げた。大学時代の友達にだった。彼は僕の要求を、聞いてくれた。僕はレコードだけを持って、家を出た。僕は確信している。
 彼女は何かを僕に告げたがっているのだ。

 それから数日がたった。僕の友達はテープとレコードを手渡した。彼は僕にわざわざテープを手渡すために僕の家を訪れてくれたのだった。
「これ、頼まれてたやつ…お前も、早く帰って来いよ…」
 彼はそれだけ言うと、去っていった。お前「も」?他にだれがいるんだろうか。僕は部屋に戻り、テープをデッキにかけて、再生した。
 テープには、レコードから雑音を取り去って、音を調整して取り出した「何か」が入っている。ざらざらと音がしている…それは漣が引くように萎んで消えた。ざらつく声が、聞えた。
 …………………
 ……………
 ……えま……か 聞えますか…私の声が、貴方に届きますか……私はもうすぐ、死んでしまうでしょう。それはもう随分前から分かっていたことです。私の喉に出来た腫瘍は、確実に私を死に追いやるでしょう。
 それすらも分かっていたことです。覚えていますか、初めてあったときのことを、貴方は私に「なんて嫌な笑い方だ」って言ったことを。
 私は貴方の前でだけ、何も演技をしなくてよかった。歌手になりたかった。私は歌いたかった。けれども全て腫瘍の所為でできなかった。
 私は誰も頼れなかった。私は長い間一人だった。けれども、貴方はそんな私の手を取ってくれた。あなた自身は、きっとそうは思っていないでしょうね。けれども、ただそこにいるだけで、いえ、私に手を引かれてくれた。私といっしょに歩いてくれた。
 それ以上も何も無い。それ以下でもない。私はもうすぐ、死にます。けれども、悲しまないで。
 私は怖くない。貴方が私の手を握ってくれる。私は死ぬけれど、貴方を愛している。いつまでも、貴方が私を忘れない限り、私の心は貴方とともにある………私は貴方の手の暖かさを忘れない……貴方の暖かさを忘れない。
 だから、悲しまないで、私の幸せは貴方のおかげなのだから…………さよなら、大好きな人


 テープの切れる音がした。僕はヘッドフォンを抱えて泣いた。僕は何をしていたのだろうか?僕はただ逃げていただけだ。
 窓を開けて、風を入れよう。僕は立ち上がる。足が地面について、僕はもう揺るがない。彼女は僕とともにある。歩き出さなきゃいけない。僕はそれにもうやく気がついた。それを教えてくれた彼女に、僕は感謝している。
 遺されたレコードは、彼女の心そのものだ。

 だから歩き出そう。彼女といっしょに。

お知らせ

  • 2007/03/04(日) 22:06

 足したことではありませんけれど、カテゴリ「小説」の「殺人鬼殻の手紙」は公開停止、というか、削除になりました。もし読みたい、とか読んでいたのに、という方がいらっしゃいましたならば、「ごめんなさい」と今この場を持って謝らせていただきます。ごめんなさい。

 まあ、そんなに小説のほうを読んでいる人は少ないと思うんですけれども、今日は何も思いつかないので、これで終わりです。

 ビバ!手抜き!!

怖いよ。顔、怖いよ。

  • 2007/03/03(土) 22:06

 *宇宙に行きっぱなしであんまりにもブログをおざなりにしているのですが、まだまだ宇宙行きは辞めるつもりはありません。

 先日の話ですが、EGG氏と一緒に服を買いに行きました。そこでの小生たちの会話。
「何故女性下着の売り場はこう、エレベーターなどのすぐ脇にあるのであろうか?」
「きっと、犯罪防止であるよ。」
「うぬ?」
「こうしてストッキングとかを売ると、銀行強盗犯がストッキングを買いに来ると様々な人に見られ、恥ずかしくなり、買うのを止めるかもしれないじゃないか。」
「にゃるほど」

 とか

「君はなんて気持ちが悪いのだろう。」
「君に匹敵するくらいであるよ。」
「何を」
「やるか」
「このやろう、漏らすぞ。」
「や、やめろ」
「いいのか、漏らしてしまうぞ。」
「もし漏らしたら、どうなる?」
「君の事を掴んで『あああああ〜〜〜…」って唸ってくれる。」
「それはヤバイ。」
「どうだ。参ったか」
「参った、参った」

 とか、もうかなり頭の悪い会話をした。しかし反面、これからの漫画や小説の計画についてなども話した。計画というのはいわば演出やストーリーである。お互いに作品を交換しあって書いてみたいね。などという話もした。
 ああ、いつも知的な話が出来ればよいのに。


 それはそうと、スーパーで、目のあった女性が小生の顔を見て、怯えて眼をそらされる(尊敬語)ということがあったのですが、小生の顔は怖いのだろうか?
 よくわからない。小生自分では鏡を見ないからである。なぜなら小生の顔など映される鏡がかわいそうだからだ。小生など焼けた鉄板に顔を押し付けているのがよいと思う。
 いや、そんなことが言いたいのではない。小生の顔が「そこそこ怖い」とすると、優しそうな顔から怖い顔までのレベルを小生がユーモアを持って考えてみた。
 ちょっとだけ紹介したいと思う。
優しい顔から、怖い顔へとレベルアップしていく。

 段階一

 顔がない。顔がないのでだれもびっくりしない。そのあとで「自分は何を見てしまったのだ」とノイローゼになる。

 段階二

 ふつうよりも垂れ目。かなり優しそうな顔。七福神にいそうな顔。
しかし目を薄く開くとなにやら怪しい趣になる。勿論変態っぽい。

 段階三

 いたって普通の顔。普通すぎて覚えてもらえない。あまりに普通なので、だれからも印象をもたれない。そのため、学校や職場とかではいつも一人。勿論同窓会には呼ばれない。

 段階四

 かなり怖くなる。山の中で熊さんと出会って熊さんが卒倒するくらい怖い。赤子とかがみるとその子は一生家から出れない引きこもりになる。
 このレベルになると、ヤクザの組長を眼力で殺すことに成功する。

 最終段階

 言葉に出来ない。目が会った人の頭髪が抜け落ち、頬が削げ、顔はひび割れる。叫びながら絶倒し、帰らぬ人となる。
 出来るだけ人と目が合わないように暮らしている人に多い。顔をマスクで隠したり、目元をサングラスで隠している人の十人中一人くらいはこのタイプ。
 「貴方の素顔が見たい」というせりふは禁句である。

じゃ、ちょっと宇宙(コスモ)行って来ます。

  • 2007/03/01(木) 20:26

 最近の更新が少なかったりするのは、*宇宙に行っているからである。

 ある銀河系などには昼のない星があったり。そうかと思えば、砂の暑い惑星があったりするのである。そこで様々な冒険をした。あるときなどは牢屋に入れられた。爆弾テロの犯人と間違われてのことだった。どこの世界にもそういう輩はいるものである。
 しかたなく脱獄した。脱獄の後は警察機関に見つからないように逃げた。ジャングルの奥深くでびくびくしていたこともあった。ジャングルの置くには宇宙に言ったことのない部族がいたりしたりした。

 と、まあ、そのような冒険の途中なのであまりブログにかまけている時間はなかった。
 
 しかし、すぐに小生は戻ってくる。小生の星はここなのだから。



* スペースファンタジーもののゲームをしているということ。現在そのゲームに嵌っている。絵が綺麗なゲームである。そのゲームをやって自分だけでなくほかの人間の宇宙に対する見方を研究しようとしていた。ストーリーの勉強にもなる。
 素晴らしいことである。