Magician/手品師
- 2007/09/22(土) 02:20
Magician/手品師
私の彼氏は手品師だ。…あまり有名ではない。彼女の私としては今のままでも別段かまわない。月の半分以上家を空けようと、地方のホテルに自分を売り込んで帰ってこなかろうと、大したことじゃない、…たいしたことじゃ…ない。
いや、やはり少し寂しい。勿論彼のことは愛している。愛が無ければ結婚もしていないのに彼の家でぽつんと一人帰りを待つなんて出来やしない。私だって働いているし、勿論ずっと家に居るわけじゃないのだが、やはり寂しいと思うことはある。
そんなことを考えながら足でグリグリと彼の背中を蹴ると、彼がくすぐったそうにもぞもぞと動いた。無精者め。
私がうりうりと蹴り続けるとあからさまに面倒くさそうに彼がフローリングにくっつけていた身体を起して「なんだよぉ…」と唸った。なにが「なんだよぉ」だ。久しぶりの二人きりの休日に何もかまわないつもりか、コイツは。
「ね、ご飯いこ。」
「はぁ?」
「ごーはーんー」
私が言い直すと彼は、はぁ〜っ とため息をついて「だるい」と言った。勿論身体が、じゃない。気分というか、なんというか、ようするに面倒くさいのだろう。なんて男だ。愛する女のために何もしてくれないのか。私がそう思って膨れていると、彼がごろんと私のほうへ向き直って(寝っ転がったまま》言った。
「何も喰うもんないの?」
「ない。」
今、この家にはカップラーメンの殻とインスタントラーメンの袋、塩、しょうゆ、調味料少々、米数粒しかない。つまり何もないのだ。
「買出ししとけよー」
彼があからさまに面倒くさそうに言う。「だって、このアパートスーパーも駅もバス停も遠いんだもん」私がそうかえすと、彼は、ちぇっと言って身体を起した。ボサボサの神を手櫛で整えると、しゃあねぇな、とこぼした。
「どこ食いに行く?」
「やった!こないだ出来たイタリア料理店どう?」
彼はぶすっとした顔で「あまり金が無い」と呟いた。なんだか文句が多くて、冷たく見られがちな彼だが、これは彼としては自分のふがいなさを感じているようだ。文句は多し、言葉は切れ切れだが、ちゃんと聞けば何が言いたいのかわかるのだ。…長い付き合いだし。
「お金ないの?」
けれど今日お金がないというのは少しいつもと違っている。そりゃあ、私たちは貧乏だけど、彼は一昨日興行から返ってきたばかりだし、いつもならなんだかんだ言ってどこかに出かけたりするのに、お金が無いなんて、今までなかったことだ。
私が訝しんでいると、彼はポケットからハンカチを取り出して広げると
「一つマジックみせてやっから、近くのカフェな。」
「うん」
私の顔の前にハンカチをひらひらさせて
「おまえの顔からあるものを取っておみせしましょう。」
『お前、』て。まあ、いいや。私が椅子に座って足をプラプラさせていると、彼は広げたハンカチを私の顔の前に広げてまるでその向こうにお客さんが居るかのように(でもそれにしては少しけだるげに)
「さあさあ、まずはお顔のサイズを測らせていただきます。お顔の大きい人も、小さい人も大丈夫、心配しないで」
彼はまず私の顔の縦の長さを計ってハンカチの余った部分を下から折った。
「お次は横を、盾ばかり気にしてちゃあいけません。横だってある日気がついたら昔の倍もある…。まあそこまでは無いでしょう。でも手品じゃお肉は取れませんからね、気をつけて」
調子が出てきたのか、舌の滑りも悪くないようだ。楽しそうに彼は今度は縦に私の顔のサイズにあわせてハンカチを折った。
ちょうど、私の顔のサイズにハンカチが折られているわけだ。
「今度はこれをまた半分に折りまして…」
彼はそういいながら鮮やかに顔にかかった下半分を折まげた。私からは一体何が起こっているのかまったく見えない状態だ。私は軽い興奮と、何が起こるかわからない、ちょっとした不安を同時に感じていた。ドキドキとびくびくの合わさった感覚の中で、いきなりだった。
彼の唇が、私の唇の上に重なっていた。そっとだったが、確かなキス。興行から帰って来てからこれが初キスなので、少しびっくりしてしまった。
ふっと私の視界が開けて、彼が意地悪っぽい笑みを浮かべながら言った。
「見事、顔から唇を奪い取って見せました!」
「えー、手品じゃないじゃん!」
私がさっきとは違うドキドキを感じながらそういうと、彼は手に持ったハンカチに ふっ と息を吹きかけて私のほうへ差し出した。
私が手を出してそれを受け取ると、中には小さな箱が入っていた。いつの間に…ハンカチは渡しずっとみてたのに・・・いや、それよりもこの箱は…
取り出してみると、小さなボックスの上にはやっぱりちっちゃなリボンがついていて、それを解いて蓋を開けると中には指輪が一つ入っていた。
小さいけれどちゃんと宝石もついている。無難になのかダイヤモンド…に見える。
「これって…こんやくゆび」
「皆まで言うな。」
彼は手を広げて、耳まで真っ赤にしていった。
「結婚してくれ。」
「―――うん。」
私がそうかえすと、彼はまだ耳まで真っ赤にしたまま、「さ、飯いくぞ」といって玄関へ歩き出した。
「あ、待ってよ」
私がいそいそと箱に指輪を仕舞いなおすと、彼はやっぱり憮然とした顔で玄関で待ってくれて、靴を履いた私に手を差し出して呟いた。
「手ぇ、繋いでやッから遅れんなよ」
「なにそれ、子どもみたい」
私はそう言って彼の手を取って歩き出した。「へへへ」私が笑って彼を見ると、まだ恥ずかしそうに彼はぷい、と顔を背けた。でも手は握ったままで。暖かくて、なんとも言えない気持ちになる
。でも、これだけ言っておこう。
「恥ずかしがるのだけ直さないとね。」
「るせっ」
Fin.
マジシャンと、その彼女のお話。
小生自身としては、ときにはこうやって日常で出来にくいけど、でも起こって欲しいようなそういうほのぼのした話を書くのは好きである。
出来るだけ無理なくまとめてつもりだが、その真偽は読んでくださった人々にお任せするしかあるまい。
ただ小生自身の意見としてはこうして幸せになれる人がもし居たなら、その幸せにちゃんと感謝して欲しいものである。それを与えてくれる人にも。
そしてその感謝を忘れなければ、きっと不幸にはならないと思う。なんとなしに、小生自身の恋愛視点から物申してみる。
たまには夢見るのも悪くは無い。好きな人とのステキな時間、この小説を読んで思い出していただけたらそれだけでぴえーるは幸せです。
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ジェンガ
このゲームの楽しさは多くの人が知っていると思います。単純だけど、つい熱が入り、大人も子どもも真剣に遊んでしまいます。本気を出すと1ゲームにかなり時間がかかることもあり、ゲーム終了後は充実感があったりもします。小さい娘は、積み木代わり使ったり、あとはドミ...
- From: 手品の感動 |
- 2007/09/28(金) 04:43
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おお。
この主人公の男の人、結構好きかも。
言葉数が少なくても、ちゃんと気持ちを伝えようとしているところが好感持てます。
ほのぼのとしたお話、だいぶ前に一度読んだような気がしますが、たまにはいいですね。
違った感じがして。
こんな暖かい世界、また楽しみたいです。
次回作も、期待しています。
また遊びに来ますね。
気に入っていただけてよかった。自分で言うのもなんだが、この男は小生自身も好きである。なんといっても自分には嘘を就けないわけである。
だから、彼女は好きなのも隠せない。
そんな一途は男もいいではないかと思う。小生はとにかく女性を大切に出来る男が好きである。どうせ友人にするならそのくらいの男がいい。そう思ってはばからないのである。
ぜひとももんさんもそのような男に大事にされてくれればよいと思っている。